27 第2章第14話 ルール違い
「じゃ、後は頼んだぞ!」
千秋ラーメン屋を出た多澤は、そう言い残すと一人でどこかへ行ってしまった。
「それじゃあ、僕も旭山球場の方へ行ってきます。今日は、とてもいい勉強をさせてもらいました。近いうちにまた顔を出します!」
横先は、駐車場に停めてある自分の車に乗り込んだ。
「それじゃあ、私たちも戻りましょうか」
「え? 今日は、これで終わりじゃないんですか?」
「何言ってんの、タマ子。あなたは、まだまだ覚えなきゃならないことがあるじゃない。室内練習場に行くわよ。戻ったら、さっさと着替えてきなさいよ!」
「ええ~? また、ユニフォームを着るんですか?」
「あったり前よ! 腹ごなしに走って帰るわよ!」
「えええええ~…………」
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「ハア、ハア、ハア……ど、どうだった? す、少しは、食後のいい運動に……ハア、ハア、な、なったかしら?」
「あれ? テツ子さん、どうしたんですか? そんなに息が切れて。……あたし、このくらい走っただけじゃ、全然大丈夫なんですけど……」
「そ、そうだったわね……ハア、ハア……あなたは、底なしの体力の持ち主だったわね。……う~ん、今度は、私をおんぶしながら走ってもらおうかな……」
「別に構わないですよ。テツ子さんは、米俵より絶対軽いですもんね、ふふっ」
「もう、タマ子ったら! 私を何だと思ってるの! ……えっと、室内練習場には、30分後に集合ね!」
「え? 着替えるだけなら、10分もあれば十分ですけど?」
「あのね……私は汗だくなの! シャワーを浴びてからいくからね!」
「は、は~い……」
汗一つかいていない珠子は、返事はしたものの不思議そうに徹子の後ろ姿を見送った。
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「実際にボールは投げなくてもいいから、投げるフリをしてみなさい」
きっかり30分後、花﨑須田瑠濱ドーム球場の横に併設されている室内練習場に、徹子と珠子はいた。練習場の端に設置されたマウンド上にいた2人は、これから投球フォームの確認をするようだ。
「はい。じゃあ、いきますよ~」
そう言うと、珠子は、ピッチャープレートの真ん中に立ち、左足を引きながら両腕をまっすぐ頭の上まで持ち上げた。それから、ゆっくり軸になる右足を踏み変えながら右腕を回した。最後は、左足をホームベースの方向に踏み出しながら、ボールを持った右手を思いっきり振った。
「うん、よくできてるわ。……でもね、ランナーが一人でもいたら、このモーションは使えないのよ」
「ええ? せっかく覚えたのに、使えないってどういうことですか?」
「あのね、こんなにゆっくりモーションをしてたら、ランナーは盗塁しちゃうじゃない!」
「盗塁?」
「そうよ、次の塁へ進んじゃうの」
「な~んだ、そんなことなら大丈夫ですよ。ランナーが走り出したら、ボールをランナーに向けて投げればいいじゃないですか!」
「え? どういうこと?」
「ええ、ボールを当てちゃえば、アウトになるでしょ!」
「ランナーにボールをぶつけちゃうの?」
「はい!」
何の疑問も持たず、自信たっぷりな顔を珠子は、得意げに言うのだった。
「えっと…………。タマ子?……それ、ドッジボールのルールじゃないの?」
「はい、そうですよ。こう見えても、あたしはドッジボールが得意だったんです。小学生の頃なんか、どんどん男子にボールをぶつけてやっつけていたんですから!」
「えっと……あのね、これは、野球なのよ……」
「はい! あたしも最初は知らなかったんですよ。でも、野球も『アウト』って言うじゃないですか。ランナーをやっつけたら、『アウト』だって。……あ、でも、あの四角いベースの上にいる時は、『セーフ』なんですよね。この間、テレビで見ましたよ。走っているランナーに、キャッチャーの人がボールをぶつけていましたよ。……でもね、セカンドの人がボールを取っちゃたから『セーフ』って言われてましたけど……」
「…………(む~ん、確かにランナーを狙っているようには、見えるけど。……いや、やっぱり違うな!)あのね、それ、全部間違っているから!」
「ええ~! 違うんですか? あたし、ランナーが塁に出られても、ぶつければアウトになると思ってました!」
「は~、やっぱり説明は必要よね…………」
徹子は、大きなため息をついてもう一度珠子の顔を見て、自分の頭をフル回転させることにした。
(つづく)




