26 第2章第13話 美味しい秘密会議?
「ふっ、横先よ。お前、タマ子ちゃんのボールが無敵のような言い方をするけど、この世に絶対なんてことはないんだよ。このプロ野球の世界、どこで誰がどんな工夫をするか分かったもんじゃないんだ」
「そうよ、だから私たちは、日々研鑽を重ね、より確実な技術を身につけていくの。それを怠った者が負けてしまうの」
徹子は、多澤の言葉を、まるで自分が実践してきたかのように肯定していた。
「それより、やっぱりここのラーメンは美味しいのよね! あたし、この黄色いちぢれ麺が大好きなの。コクのあるスープとピッタリよ!」
「知ってる? タマ子。この麺には、卵が練り込まれているのよ!」
「そうなんですか? さっすがテツ子さん。ラーメンにも詳しいんですね」
「ふん、私はね、何でもとことん研究するタイプなの。変化球だって、威力は抜きにしたら、何だって投げられるの! いつか、きっとタマ子のジャイロボールだって投げてみせるわ!」
研究熱心というより、どっちかというと負けず嫌いな徹子だった。
「まあ、テツ子よ、ほどほどにな。……ところで、タマ子ちゃん、自分のボールの投げ方は意識できたかい?」
「はい、多澤さん。まず、あたしは、ボールをこうやって握るんです」
ポケットから野球ボールを取り出した珠子は、おもむろに手のひら全体で包み込むようにボールを握った。
「ほう~、タマ子ちゃんの握り方は、パームボールに似てるな……でも、ボールの変化は全然違うけどな」
「そうなんですか? えっと、それから投げる時は、人差し指から中指、薬指へと順番に力を入れる……? いいえ、自然に入るんですよね」
「そうか、指の力も強いタマ子ちゃんは、最後にボールに回転を加えているんだな。それが、ジャイロ回転になっているんだ!」
「それだけじゃないのよ」
ラーメンをすすって、チャーシューを挟みながら、徹子は付け加えた。
「チャーシューも分厚くて美味しいのよね。……あとね、タマ子は、投げる時に手首を使ってないの。腕を振るだけの動作でボールを投げるのよ」
「なんだって? ……ああ~、だから、あんなにスピードが出ないんだな。あれだけ、重いボールを投げるなら160キロぐらいは出ていてもおかしくはないんじゃないかと思ったんだ」
「たぶん、スピードに回る力は、全部ボールの回転に使われているんじゃないかと思うの。……これは、私の推測なんだけどね」
そして、一気に醤油味のスープも飲み干した横先は、嬉しそうな顔をして自慢げに言った。
「いやあ~僕は、そんな凄いボールを打ち返せたんですね! 僕だって、いつかタマ子ちゃんのボールを打てるように頑張ります!」
「バーカ、横先。そんなの簡単だぞ。金属バットで打てばいいんだ……」
「え? そんな~……。でも、プロ野球じゃ金属バットは使えないじゃないですか!」
「ええ! プロ野球は金属バットが使えないんですか?」
最後まで残してあったゆで卵を頬張りながら、珠子はびっくりした顔をしていた。
「おや? タマ子ちゃんは、野球道具についても素人なのかい?」
「えへへへ……自慢じゃないですが、野球ってボールがあればできるんじゃないかと思ってました。昨日の多澤さんを見るまでは……」
「え? 俺? あ、ああ~キャッチャーのプロテクターな。確かに、キャッチャーはよくボールが当たるからな。ボールは、硬いんだ。あれがまともに当たれば、大怪我をするんだよ。まして、金属バットなんかで打ったら、打球速度が上がって危険度が増すんだ。速度だけじゃないぞ、飛距離も伸びるからホームランも増える。ホームランが増えれば、観客席へ飛び込むボールも増えるんだ。速度が高まったボールが、観客に当たってみろ、えらいことになるぞ」
「そっか……だから、プロ野球では金属バットを使わないんですね」
「え! だったら、やっぱりタマ子ちゃんのボールは、無敵じゃないですか!」
横先は、声を張り上げて叫んでしまった。
「しっ! お前は、声がでかいんだよ。……あのな、別に金属バットでなくても、打つ方法はいくらでもあるんだよ」
「でも、木製バットなら、打った瞬間に折れてしまうんじゃないですか?」
「ま、それは、おいおい教えてやるよ。今は、タマ子ちゃんの投げるボールをちゃんと仕上げることの方が大事なんだよ」
ラーメンを全部食べてから、美味しそうにミニカツ丼をかっ込む多澤の言葉に、徹子でさえ意味が分からずポカンとしてしまった。
(つづく)




