23 第2章第10話 タマ子ちゃんのボール
その日は、午前中いっぱい投球練習をした珠子だったが、さすがに昼近くになれば息も上がってきた。
「はあ……はあ……はあ……ねえ、テツ子さん、そろそろお昼にしましょうよ!」
「え? タマ子ったら、もうへばったの? まだ100球ちょっとしか投げてないわよ」
隣で見守りながら、1球1球に指示を出していた徹子は、いたって平気な顔をしていた。
「ええ? 100球も投げたんですか? あたし、今まで10球以上続けて投げたことがなかったんですよ!」
「それが、おかしいのよ。だいたい新城監督に誘われてトライアウトの試験を受けたときだって、3人もバッターを相手に投げたんでしょ?」
「はい。……でも、みんな初球で、あ、最後の人は1球目にバットを振りませんでしたけど、確か4球で終わったんですよ」
するとキャッチャーをやっていた多澤が、立ち上がって珠子たちに声をかけた。
「おい、その話は本当なのか?」
「あ、そっか、多澤さんはまだタマ子のボールを打ったことがないんですものね。……今、打ってみますか?」
徹子は、なんでもないように提案した。
「ええ~、また、投げるんですか?」
「いいじゃない、1球ぐらい。1球投げてくれたら、それでお昼にしましょう」
「お昼か……お腹も減ったし……。はい! じゃ、さっさとやってしまいましょう! 1球ですからね!」
俄然やる気になった珠子だったが、多澤はちょっと考えてから提案した。
「横先、お前、打ってやれ。思いっきり打っていいぞ。客席に放り込んでやれ!」
「え! いいんですか? 多澤さん!」
「ああ、構わんよ。タマ子ちゃんもちゃんと打たれる経験が必要だろ。な、ははは……」
「そうですよね……えへへ」
多澤と横先は、なぜか薄笑いを浮かべて準備を始めた。
「私、セカンドやりますね!」
徹子は、自分のグローブをはめ、おもむろにセカンドのポジションについた。
「セカンド?……(そんなところに守備はいらんよ。コーチになったといっても、横先はまだ若い。それに、こんなに素直な直球なら、確実にホームランは間違いないだろう……)」
徹子の守備に違和感を覚えた多澤だったが、深くは考えずにまたキャッチャーとして構えた。
「じゃあ、いきますよ~!」
「お! ストライクゾーンのど真ん中に投げてこい!」
「ふふっ。 (初めからコースが分かってるんだ。しかも、さっきの投球練習で、タマ子ちゃんの投げるボールのコースは、十分理解できてる。こんな簡単なバッティングはないじゃないか)」
横先も、バットを握りしめて、思わず笑みがこぼれていた。
珠子は思いっきり振りかぶって投げた。
―― ビューーン ――
「きた!」
―― ガン、バキッ! ――
「オーラーイ!」
―― ポン ――
「アウトー!」
セカンドの位置から少し前に出て、徹子はフライをキャッチし、自分でアウトの宣告をしたのだ。
「ふふふ、横先さ~ん。危ないからバットは飛ばさないでくださいね。できれば、ボールを飛ばす方がいいと思いますよ~」
徹子は、ピッチャーマウンドの横に転がっているバットの先を拾いながら、笑顔でホームに帰ってきたのだった。
(つづく)




