21 第2章第8話 もう一人の助っ人
「おう! 横先! こっちだ、こっちだ」
珠子たち3人が話をしているグラウンドへ、ファイターズのユニフォームを着た一人の男がやって来た。
「多澤さ~ん、何ですか? 俺、そんなに暇じゃないんですけど……」
男は、口では文句を言いながら、嬉しそうにニヤニヤしていた。
「お前に頼みがあるんだ。どうせ、1軍のキャンプはまだ始まってないんだろ?」
「そりゃ、正式には2月1日からのキャンプインからですけど……」
「まあ、お前のことだから、自主練回りとか、今年の新人の様子をみたりするつもりなんだろ?」
「そうですよ……今は、とっても大切な時期なんです。キャンプインしたら、すぐに紅白戦の予定がありますから、それまでにしっかり基礎固めを確認したいんですよ」
がっしりとした体つきなのに、不思議と笑顔が似合う男だった。ただ、野球のことを話す時は、笑顔のまま、しっかりと相手を見つめていた。
「じゃあ、ちょうどいいじゃないか。ここにいるタマ子ちゃんの練習にちょっと付き合えよ」
「タマ子ちゃん?……」
その時、初めて男は珠子に気がついた。
「えっと……あなたは?」
「はい! あたしは、北白山珠子です。今度、ファイヤースでお世話になることになりました。どうぞよろしくお願いいたします」
「あ、はあ……。……あ!……えっと、お隣は、確か……皆厳さん? でしたよね。僕は、あなたのストレートを打ってみたかったんですよね~」
「そうね……オールスターマッチでも対戦はなかったですものね」
「あははは……あの頃の僕はもう、オールスターには出られませんでしたからね。それより、皆厳さんは、ここで何をしているんですか?」
男は、徹子に親しげに話をしていた。それを横で見ていた珠子は、多澤に近づき小声で尋ねた。
「多澤さん、えっと、この人は誰なんですか?」
「あ、そっか、タマちゃんは、知らないか。彼は、横先バッティングコーチだ。1軍のコーチだ。彼は、いいスラッガーでな、打率はそうでもないんだが、いつも客席の上段まで飛ばしていたホールランは凄かったんだぞ。ただ、彼が全盛を過ぎた頃に、テツ子がこの世界に入ってきたんだよ」
多澤は、横先と徹子が親し気に話している様子をちょっと嬉しそうに眺めていた。
「あの~……それで、どうして横先コーチを呼んだんですか? 練習なら、あたしたちだけでできると思うんですけど!」
ほっぺたをちょっと膨らませて、珠子は文句を言いたそうにしていた。そのことに気付いた横先は、再び多澤の方を向き尋ねた。
「多澤さん……いや、多澤先輩! 僕に直接電話をよこすなんて、ひょっとして、この子が新城監督の特別枠で獲得した選手なんですね」
「そうだ。彼女が育つかどうかで、今年のうちの成績が決まるかもしれん」
「だとしたらなお更です。お手伝いさせてください。僕は、バッティングコーチですけど、どんなことだってお手伝いします。それが、多澤先輩への恩返しにもなるんです!」
「ははは……そうか、嬉しいことを言ってくれるじゃないか! タマちゃん、こいつも手伝ってくれるってよ!」
「は? はい! よろしくお願いします!」
北海道ミルクファイアース2軍球場、花﨑須田瑠濱ドーム球場のマウンドの上で、珠子を中心に、ピッチングコーチの徹子、キャッチャーの多澤、それにバッティングコーチの横先が、お互いの顔を見合わせ握手を交わした。
(つづく)




