17 第2章第4話 ユニフォーム
「さあ、タマ子、食事が済んだらシャワーを浴びて着替えるわよ!」
「はい、テツ子さん。それじゃ、部屋から着替えを持ってきますね」
「あ、着替えは……下着だけでいいわよ。練習着は、これからこれを着るのよ!」
徹子が差し出したのは、真新しい野球のユニフォームだった。青いアンダーシャツ、白を基調にしたユニフォームは青いラインが所々に入っていた。胸には「Fires」とチーム名が入り、背中には選手名と背番号が大きくプリントされていた。
「わあ! あたし『0』番なんですね」
珠子は、嬉しそうに自分のユニフォームを抱きしめた。
「監督の推薦だそうよ。『タマ(玉)ちゃん』にちなんで『0(玉)』にしたんだって。まあ、ネームも『TAMA』になっているから分かり易いわよね、ふふふ」
「笑わないでくださいよ、テツ子さん。あたし『タマ』って呼ばれるの好きなんですよ! ところで、テツ子さんもユニフォームもらっているんですよね。何番なんですか?」
「……それがね……。笑わないでよ! ほらっ!」
そう言って広げた徹子のユニフォームには、『00』という背番号が入っていた。
「わあ、あたしより、1つ多い!」
「なんかね、あなたの専属コーチだから、もう一つ玉を増やしたんだって。意味わかる?」
徹子にとっては、ちょっと意味の分からない背番号だったらしく、あまり嬉しそうには見えなかった。
「いいじゃないですか。いっぱい『玉』を増やしましょう!」
それから、2人は宿舎の食堂で、寮母さんが作ってくれた朝食を食べてから、シャワールームへ向かった。
嬉しそうに走り出した珠子を徹子が呼び止めた。
「あ、タマ子、お化粧はほどほどにね。どうせ、汗をかくから塗りたくっても無駄よ」
「えっと、大丈夫です。あたし、お化粧とかしたことがないので……」
そう言えば、珠子はタオル1本と着替えだけ持ってシャワールームへ向かっていた。
「そっか……まだ、高校生か。……まあ、それじゃあ、この日焼け止めくらいは塗っておきなさい。これあげるから、なくなったら自分で買うのよ!」
「はい! ありがとうございます、テツ子さん!」
徹子は、自分の使っている日焼け止めを化粧バッグから取り出して、珠子に渡した。化粧は無駄だという徹子だったが、自分はしっかり化粧道具が入ったバッグを大事そうに持っていた。
「ドームの中での練習や試合も多いけど、今のドームって結構太陽光を入れる造りになってるのよ。夏じゃなくても、けっこう日焼けするから気をつけなさい!」
「分かりました!……それから、あの~……」
珠子は、思い出したように、辺りをキョロキョロと見回して、モジモジし始めた。
「どうしたの? 何か分からないことあるの?」
「えっと、着替えってどこでしたらいいんですか? トイレやシャワールームですか? まわりは、男性の選手ばかりですよね」
「あははは、大丈夫よ。今はね、ちゃんと球場にも女性専用のロッカールームはあるのよ。代わりのユニフォームやアンダーシャツは、余分にロッカーに入ってるわ。汚れたものは、ロッカールームに置いてあるカゴに入れておけば、ちゃんと洗濯してロッカーに入れてくれるから大丈夫よ」
「え? 女性の選手って、あたしのほかにもいるんですか?」
「まあね、各球団には何人かずつ所属しているわよ。まあ、うちの球団は、私が初めてで、あなたが2番目の女性選手だけどね。ただ、今までは、1軍の試合に出場した女性選手はいなかったわ。…………昔は、女性リーグもあったんだけどね……」
徹子は、昔を思い出していたのか、ちょっと遠い目をした。そして、後の方の言葉は、声も小さくなり、珠子には聞こえなかったようだ。
(つづく)




