12 第1章第11話 新城監督の目標
「新城監督?……あの~、失礼ですが、タマ子さんがピッチャーに加わったというだけで、この北海道ミルクファイアースが強くなるとは思えないんですけど……」
「あははは、テッちゃんは、やっぱり厳しいよね。ハッキリ、そういうことを言っちゃうんだからさ」
笑顔の新城監督に比べ、徹子はいたって真面目な顔で状況を述べていた。確かに、昨年度のファイアースは、それほど成績は悪くない。パ・リーグ6球団の中で、3位という成績だった。ただし、どうしても上位2チームには手が届かなかった。クライマックスシリーズでも勝ち上がることはできず、残念な結果に終わった。
ピッチャーだってそこそこ揃っている。先発できる選手も多く、中継ぎも数人いるし、抑え候補だって2、3人いる。防御率だってそんなに悪くない。平均して3点台前半というところだ。
「確かにさ、うちのピッチャーはさ、肝心なところで打たれるんだよね~。みんないい球を持っていると思うんだけど、最後の締めが甘いんだよね~」
「そうですね、せっかくノーヒットで9回まで来ているのに、最後の最後でホームランを打たれたりしてますものね」
「ああ、テッちゃん、それ言っちゃう? そんなの、去年は5試合しかなかったよ」
「えっと……5試合もあれば、十分です!」
「あ、それじゃあさ、うちのチームは、ホームランだって打てるんだよ!」
「確かに、ホームラン数は、去年はリーグ2位でしたね」
「そうだろ? 凄いじゃないか。ね!」
「でも、監督? 全部、負け試合でのホームランですよ。せっかくホームランが出てるのに、試合には負けてるんです。どうしてですか?」
「えっとね……それは、負け試合になると、選手が安心しちゃうんだよ。それで、リラックスしてホームランが出るの」
「ああ、リラックスしてですか……確かに、負け試合が確定すると、ホームランか三振ですもんね」
そんな、徹子と新城監督の話をそばで聞いていた珠子は、不思議な顔をして質問をした。
「あの~……野球の試合って、そんなに勝てないんですか? うちのお父ちゃんは、仕事が終わってからいつもTVで見ていましたけど、いつも喜んでたから勝ってたんじゃないかと思うんですけど……」
「ふ~ん……タマちゃんのお父さんは、どこのチームを応援しているんだい?」
「あたしは、よく知らないんですけど……たぶん、ファイアースだと思います。うちは、乳牛も少し飼っていて、チーム名に『ミルク』って入ってるファイアースが好きなんだと思います。いつも、ファイアースの試合をテレビで見てますから」
「確かに、北海道ミルクファイアースっていうものね。それに、確か、ファイアースのオーナーの中に酪農家がいるので、『ミルク』って名前を入れたと聞いたことがあるな~。ところで、お父さんは何時ごろテレビで野球を見ていたのかな?」
「えっと……夏は、田んぼの仕事も夜遅くまでかかるので、確か10時過ぎだったような気がしますね。あたしは、眠いのでそんな夜遅くのテレビ中継なんて見たことがないんですけど……」
「なるほど……。ところで、タマちゃんのお父さんは、毎日野球の試合をテレビで見ていたのかい?」
「いいえ、2日に1回とか、3日に1回ぐらいですかね~」
「それ、タマ子さん、録……」
「いいよ、テッちゃん」
そう言って、徹子の話を止めた新城監督は、首を横に振った。どうも、珠子のお父さんは、勝ち試合だけを録画で楽しんでいたようだ。新城監督は、それ以上この話を掘り下げるのをやめて、徹子と珠子に向かって真剣な顔をして話を切り替えた。
「僕はね、この北海道ミルクファイアースというチームに『活』を入れたいんだ。決して弱いわけじゃないこのファイアース。ちょっとだけ、『活』が足りないんだ! それで、タマちゃんに、その『活』としての役割をお願いしたんだよ。1年契約でね」
「え? 新城監督? タマ子さんは、1年契約なんですか?」
「ああ、本当は、もっと長くお願いしたかったんだけど、タマちゃんがどうしても『1年だけ』って言うんだよ」
「あの~すみません。あたし、本当は家の農業を継ぐつもりなんです。だから、最初に新城監督からお話をいただいた時は、お断りしていたんです。でも、あまりにも熱心にお話ししてくださったし、それに1年だけでもいいっていうものですから……」
「そ、そう……なんですね……」
「うん、だから……テッちゃんにも1年ということで……本当に申し訳ないとは思うけど……」
「いいですよ、別に。私は、1年でも、また、あの夢の世界に関われるんですから……かえって、ありがとうございます!」
徹子の顔には、迷いとか不安とかの影がさっぱりと消え、目の輝きが増したような表情になった。
(つづく)




