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118 第6章第18話 はじめてのピンチ

 “1回の裏、地元四国みかんオンライズの攻撃です。1番バッターは、ライトを守っているカナリアです。メジャーリーガーからの移籍組ですね。彼の特徴は、どんなところにあるんでしょうか?”

 “彼は、ホームランこそ少ないですが、選球眼がいいのでヒットを打って出塁するより、フォアボールでの出塁が多いんです。しかし、今回はそううまくはいかないでしょうね”


 “おや? それはどうしてですか?”

 “北白山(きたしらやま)の成績はご存じでしょうが、彼女が投げた球がボールの判定を受けたのは、あんまりないはずです”


 “……そうですね……えっと、今までで、ボールと判定された投球は、2回だけですね。前回なんかは、ノーヒットでノーフォアボール、一人のランナーも出さずに完全試合だったんですよ”

 “そうでしたね……ただ、本人も球団も、まったくそのことには触れていないので、あまり気が付かれなかったという報道まで出ていました。とにかく、彼女にとって、完全試合などはそんなに大切なことではないということなんでしょう。……つまり、投げたボールが、ストライクになるのは当たり前で、意図しないとボールになる投球はできないということでしょう”



 “さあ、そんな北白山、いつものモーションから第1球を投げました……”


『―― ストライク! ――』


 “今のは、ストレートのど真ん中でしたね。バッターはピクリとも動きませんでした。これは、どういうことでしょうか?”

 “ひょっとして、フォーグスがとった作戦と同じで、2ストライクまではバットを振らないのか? ……いや、あの作戦は、北白山に投球数を多く投げさせることはできましたが、それも北白山個人内の比較で、他のピッチャーに比べたらそうでもなかったですよね。そして、北白山は、いつもより多く球を投げたからといってなんの変化もありませんでした。そんな、成果が出なかった作戦を引き継ぐとは思えませんね”




 珠子(たまこ)は、多澤(おおさわ)のサインにうなずいて2球目を投げる準備を始めた。


「(今日は、もうツッパリボールを投げるのね……力の加減は、リンゴね)」


「(なんか、今日は嫌な予感がするんだ……タマ子ちゃん、気を付けろ! 少し外すぞ……)」


 多澤は、フォークボールのサインを出した上に、外角にミットを寄せて構えた。



 “……第2球、投げました……” 


 ―― スッカン! ――

『―― ファール! ――』


 珠子が投げたフォークボールは、ライトの上空まで飛んだが、大きくファウルゾーンへ切れて、客席の防球ネットに当たった。


「(あれ? ファールになっちゃった……どういうこと?)」


 珠子は、ポカンとしたままボールの行方を見送っていた。


「(いかんな……それじゃ、これならどうだ!)」



 珠子は、ノーワインドアップで、3球目を投げた。


 ―― スッカン! ―― 

『―― ファール ――』


 バッターのカナリアは、外国人の割に器用にバットを操っていた。珠子が投げた3球目は、ジャイロボールで、しかも力を入れたカボチャだったのに、バットを折ることもせずにファールにしてみせた。


「(こいつ……やるな~。バットを振るんじゃなくて、引いてきやがったぜ!)」


 多澤は、もう一度バッターのカナリアを見上げてから、タイムをとった。



 “どうしたんでしょう。キャッチャーの多澤が、マウンドへ向かいました。まだ、先頭バッターですよ。ファールにされたのが、そんなに問題なんでしょうか?”

 “そうですね~。問題なのは、今、カナリアがファールにしたボールは、北白山が最も得意とする力感のあるジャイロ回転でバットをへし折ってきたボールだということです”


 “え? そうなんですか? でも、今まではバットに当てるだけですべて前に飛ぶか、バットが折れてましたよね”

 “そうです。今までのバッターは、バットを振っていましたからね”


 “亀岡(かめおか)さん?……カナリアだって、バットを振っていましたよね……”

 “いいえ、彼は、バットを一度軽く振ってから、バットを引いていたんですよ”


 “え? 引いていた? ……あ、今、VTRが流れています……ホ、ホントだ! バットを一度軽く出してから、引いてますね”

 “ええ……それも、ボールがファールになるように上手くコントロールしてます。これが、かれの技術ですね。……あ、いや……それだけ、どの球団も北白山を研究しているということだと思います”




「多澤さん、ファールにされちゃいましたね……あははは。もう、ジャイロボールは、ダメなのかしら?」

「ふんっ、タマ子ちゃん、しっかりしておくれ! そんなことで、ジャイロボールがやられるわけはないじゃないか! 自信を持って、俺のミットに投げてくれ!」


「はい! 多澤さん! あたし、全力でがんばります!」




 その頃、ベンチでは……。


「タマ子、大丈夫かしら……」

「あははは、心配いらないよ。タマちゃんの顔を見てごらん。嬉しそうに笑っているじゃないですか……」


 新城(しんじょう)監督も笑顔で、徹子(てつこ)の背中から声をかけてきた。




(つづく)


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