115 第6章第15話 心がけ
“みなさま、こんにちは。今日は、ここ愛媛県の松山市にあるヤマアラシスタジアムから『四国みかんオンライズ』対『北海道ミルクファイアース』の試合をお届けします。実況は、私、田中と、解説は元キャッチャーの亀岡さんでお送りいたします。さて、亀岡さん、今日はとってもいい天気ですね。ヤマアラシスタジアムは、屋外球場ですから天候はとても試合に影響すると思うんですがどうですか?”
“そうですね、今日は晴れていて、風もありませんから、フライも取りやすいと思うんです。この球場の周りは、他にも陸上競技場やラグビー場など運動施設が隣接していますし、大きな公園などもあります。環境的にはとても気持ちよく野球ができるんじゃないかと思います”
“今日は午後2時にプレーボールです。あと30分で試合開始ですね。両チームの選手たちも事前の練習を終え、今はベンチで道具などの手入れをしています。ファイアースの攻撃からなので、3塁側ベンチの外に出て素振りをしているファイアースの選手もいますね”
「お? タマ子ちゃん、どうした? 機嫌が悪そうだな?」
「聞いて下さいよ、多澤さん! せっかく昨日、前日入りしたのに、一日中球場で練習だったんですよ!」
「まあ、それが普通じゃないかな?」
「四国ですよ! せっかく四国の松山まで来たんですよ! もったいないじゃないですか?」
「タマ子ったら、まだ、そんなこと言ってるの? 今日は、あなたが先発ピッチャーなのよ。ちゃんと準備しないで、戦えるの?」
「ご心配なく! テツ子さん! あたしの体調はバッチリです! 今朝は、ホテルで絞りたてのミカンジュースを3杯も飲んできたんですよ!」
「ミカンジュース?」
「そうです。愛媛県産のご当地ミカンのジュースですよ! とっても美味しかったんです!」
「まあ、確かにホテルの朝食会場の端にミカンジュースのサーバーがたくさん置いてあったわね。でも、わざわざ、愛媛に来てミカンジュースよりも美味しいものがあったじゃない」
「そうなんです! 愛媛県の特産物といえば、『鯛めし』『じゃこ天』『今治焼き鳥』『伊予牛』『芋スイーツ』などがあるんです! 空港からの移動用の貸し切りバスの広告でも美味しそうなお料理の写真がたくさん貼ってありましたよ!」
「おお、お~、まあ、愛媛の特産物だな……」
「なんか、タマ子が言うと、まるでAIに聞いたみたいな感じがするんですけど……」
「え、まあ、いいじゃないですか。とにかく、美味しいものがたくさんあるんです! だけど、ホテルのお料理は、いたって普通のお料理でした。いつもあたしが寮で食べてるのと変わらないんですよ~」
「あ、えっと……タマ子ちゃん。そりゃ仕方ないんだよ。俺たちはプロ野球選手なんだ。食事だって大切な試合準備なんだよ。美味しいものを腹いっぱい食べたからといって、試合でいい成績が出るとは限らないんだ。逆に、いつもと違う食事をしたために、体調を崩してしまうことだってあるんだぜ」
「え? そうなんですか? 多澤さん……」
「タマ子? 朝からそんなにミカンジュースを飲んで大丈夫なの?」
「あ、それは大丈夫です。食事の後、ちょっと10キロばかり走ってきましたから。……気持ちよかったですよ、この辺は公園も多くて、緑がいっぱいでした。だから、汗もいっぱいかいたので、ミカンは全部流れ出たと思います!」
「あははは……タマ子ちゃんは、マイペースだな。まあ、そんなに朝から元気だったんなら、今日は大丈夫だな」
「はい! 多澤さん。今日も、バッキバキといきましょう!」
「おやおやタマちゃん? 今日もバットを折りまくるのかな?」
笑顔で近寄ってきた新城監督は、微笑みながらそんな言葉を珠子にかけた。そして、ベンチの中にいる選手たちに向かって、いつものように試合前の一言をさりげなく放った。
「どんなときもマイペースって大事だよ。僕らは、敵地で戦うことが半分なんだ。だから、慣れない環境に惑わされていたら、発揮できる力も半分になっちゃうよ。新しい環境は楽しめばいいんだよ。そして、その中でもマイペースでやれる気持ちを大事にしてね。……それじゃあ、今日もよろしく頼むよ、みんな!」
「「「 おおー! 」」」
ベンチの中では、新城監督の言葉に応えるように、選手たちは息を合わせて声を張り上げた。
(つづく)




