111 第6章第11話 試合終了
その後は、両チームとも目立った動きはなかった。珠子のチーム、ファイアースは追加点も取れなかった。ヒットこそ出るものの、後続は三振やフライアウトになり、点数には結びつかなかった。
相手のフォーグスも、珠子に球数を投げさせようと2ストライクまでは何もせずボールを見送っていた。本当は、その後もファールで粘るはずだったが、珠子のボールは、ファールすらできなかった。
南口はるかの三打席目も結果は同じだった。変化球にバットを当てることができずに、あっさり三振に倒れた。
「ふん! 今度会うときゃ、絶対そのフォークボールば打って、ホームランにしてみせるけんね!」
南口は、悔しそうにそう言ってバッターボックスを出ていった。ただ、珠子は、『今度会うとき……』という南口の言葉を聞いて、嬉しそうに手を振った。
「(やったー! また、会えるんだ! なんか、この世界で、初めて友だちができたみたい! バイバイ!)」
珠子にとって、徹子は『先生のような感じ』、多澤は『お父さんみたい』、他の選手も友だちというより普通の同級生ぐらいにしか思えなく、南口はるかが初めて対等に付き合える相手に思えて嬉しかったのだ。
“試合が終わりました。『北海道ミルクファイアース』対『九州おくらフォーグス』は、3対0でファイアースの勝利です。今日は、フォーグスの作戦で北白山に82球のボールを投げさすことができました。北白山の投球はどうでしたか?”
“まあ、初めてだね、こんなに投げたのは。……ただ、この球数は、普通や。大抵の先発投手なら100球前後は余裕で投げとるわ”
“そうかもしれませんが、北白山は誰一人として出塁させませんでしたね。それよりもです! それよりも、北白山は完全試合したんですよ!”
“あっ! そうや! 一本のヒットもなし、それにフォアボールもなしやった! う~、ついうっかりしてたな。毎回、打たせてはアウトにしてたからな。それに、北白山を見てたら、そんな緊張感はまったく感じられんかったし……”
その頃ベンチでは……。
「あっちゃ~……、忘れてたぜ! タマ子ちゃんに、フォアボールとか、ヒットを打たせるサインを出し忘れてしまったぜ!」
「そういえば、いつも早い段階で、そんなことやってましたね。多澤さん、今日は調子が悪かったんですか?」
「いや、そうじゃないんだ、テツ子。俺、嬉しくなってな。あんなにバンバンアウトがとれるピッチャーのボールなんかあんまり受けたことがなかったんだよ。大抵は、コースの調整や変化球の組み合わせだったり、ピッチャーのモーションを早めたりしながら、なんとか試合には勝つことが多かったもんでな。今日は、敵も本気だったみたいだし、つい、俺も本気になってしまったんだよ」
見ると多澤も額や首の汗をタオルで拭きながら、とても嬉しそうに試合を振り返っていた。疲れもあったろうに、自分のホームランなどもあり、今日は全力で試合に打ち込んでいたことが、徹子にも分かった。
「え? なんですか? そのパーフェクトゲームって?」
珠子は、いつものようにポカンとしながら尋ねた。
「ん? まあ、……いい投球だったっていうことさ!」
「そうなんですか? テツ子さん?」
「え? ええ、まあ、そうね。タマ子はがんばったってことよ!」
「ん~…………?」
そこへ新城監督が来て、3人に今日の試合の出来を褒めてくれた。
「まあ、細かいことは気にせず、これからも楽しんでドンドンやっておくれ。マスコミにも、……それから身内にも『気にするな』って言っておくからさ。たとえどんな記録を打ち立てようとも、タマちゃんはタマちゃんの野球をやってくれればいいの! テッちゃんも親分も、そのために力を貸してやってね……」
そう言って、笑顔でベンチを後にしたのだった。
「さあ、そういうことだから……タマ子は明日はお休みよ!」
「ええ? またですか? ホントは、明日もベンチに入りたいな~……明日はカード2戦目ですよね」
「でもね、ちゃんとやることがあるでしょ? これ、さぼると、後で響くの! いい?」
ちょっときつめの言葉で徹子は、珠子に明日の予定を告げた。そして、多澤の方をチラッと見てから……
「それにね、休養とメンテナンスが必要なの……ね、お・や・ぶ・ん!」
「は、は、はははははは……」
多澤は、腰をさすりながら、力なく笑っていたのだった。
(つづく)




