108 第6章第8話 思惑(おもわく)
千波に続くかと思われたファイアースの打線だったが、すべて平凡なゴロやフライに終わった。
次の3回表と裏も、両チームとも決定打に欠け無得点だった。
“3回まで終わりましたね。どうですかここまでの試合状況は?”
“フォーグスはとにかく北白山に球数を投げさせる作戦なんや。2ストライクまでは絶対にバットを振らん。ただ、そこからはファールで粘るはずなんやけど、北白山も最後のボールは決め球やな。相手によって、バットをへし折る剛球を投げるか、空振りを誘うフォークを投げとる。キャッチャーの多澤が、上手いことバッターの心理を読んどるの~”
“そうですね、北白山は、それでもここまで28球投げてますよ。今までは、一番多くて1試合に32球でしたからね。今日は3回で、もう28球も投げています。これは、フォーグスの作戦が上手くいっているということでしょうか?”
“バカ言っちゃいかんよ。3回で28球なんて、とっても少ない投球数や! これくらいの球数なら、ピッチャーなんか疲れもせえへんぞ! これは、作戦の大失敗やと思うんや……けどな、フォーグスのベンチはそのことに気付いていないんじゃないか?”
“それは、どういうことですか?”
“それは、実況の田中はんが言ったのと同じや。最大でも32球しか投げたことがない北白山に、もう28球も投げさせた、これはすごいことやって、監督も思っているんや”
“え? 監督も私と同じ感覚だっていうんですか?”
“だって、みてみい。初球からあんなに打ちごろのボールを投げられてるのに、誰もバットを振らんのや。これは、作戦に自信を持ってるということやな!”
“じゃあ、この作戦は、この後も続くということでしょうか?”
“そりゃ、分からんな。4回からは、フォーグスの攻撃でバッターは二回り目に入るんや。ひょっとして、違った作戦に切り替えてくるかもしれん。それにや、4回の表の攻撃には、また南口が来るんや! これは、見ものやで!”
“それでは、ここで九州おくらフォーグスの打順をご紹介しておきましょう。
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1番 ライト 見藤
2番 センター 周西
3番 DH 南口はるか
4番 サード 栗草
5番 ファースト 海山
6番 レフト 尾方
7番 セカンド 今下
8番 ショート 海瀬
9番 キャッチャー 甲賀
ピッチャー 有村
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ちょうど、4回は1番の見藤からの打順になります“
ピッチャー珠子は、多澤のサインに頷き、第1球目を投げた。
―― ストライク ――
“おっと、やっぱり、1球目は見逃しましたね”
“こりゃ、作戦はそのまま継続やな……”
やはり、解説の岩木が睨んだように、2ストライクまではバットはピクリとも動かなかった。
そして、3球目は、珠子の渾身のジャイロボールが決まり、ファール線ギリギリではあったが、サードフライになった。やはり、守備位置は多澤から細かな指示が出ていて、ライン際に守っていたサードは、まったく動かずにフライをキャッチしたのだった。
“これで、1アウトです。これは、今までの流れと同じですね~”
“いや、この回は、南口にまわるんや。ここで、何かが起きるかもしれん……”
2人目の周西も3球でアウトになり、次のバッターは南口はるかになった。はるかは、少し薄笑いを浮かべながら、ゆっくりと左バッターボックスに入ってきた。
「今度は、めいっぱいいかせてもらうけんね、ふふふ……」
はるかは、誰に言うのでもなく、視線は珠子に向けたまま呟いた。
(つづく)




