↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
106/120

106 第6章第6話 初めて燃える勝負の種火

 ―― グワッシャーーー! ヒュウウウウー ――


 “飛んだ~、これは、大きいぞ~……おっと! センター六十畑(むそはた)は、もうフェンスギリギリのところに立っていた! ボールがゆっくり落ちて来る……ここで、六十畑は、一度フェンスから離れて、もう一度フェンスに向かって走り……ジャンプした! フェンスを蹴って跳び上がって、手を伸ばして……ボールをキャッチした!!”


『―― アウトー! ――』


 “それにしても、見事にバットは粉々になってしもうたの~”





「ふ~、危なかったな~……」

「あら? ちーっと力抜きすぎたとかな? あんまり力入れたら球場ん屋根ば、ぶち抜いてしまいそうで、加減したとばってん……」


「(な、なんだって? 力を抜いて、あれか……)」


 バッターの南口(みなみぐち)は、さっぱりした顔で、グリップだけ残ったバットを持ってベンチに帰った。

 これで、初回、3人のアウトで攻守交替になる。




「おい、今の球、よく捕ったな……」

「そりゃ、多澤(おおさわ)さんのお陰ですよ! あのサインがなけりゃ、絶対に追いつけませんでしたよ」


 ベンチに戻った六十畑は、嬉しそうに答えた。


「確かにな、まさかお前が、フェンスを蹴って跳び上がるほど飛ぶなんて思わないよな」


 ライトを守っていた千波も、まるでまぐれで飛んできたボールのように話をしていた。そして、半分冗談で「タマ子ちゃん、相手が女子だから力を抜いて投げたんじゃないの?」と、冷やかした。


 すると、いつもは、何でも笑い飛ばしてしまう珠子だったが、妙に真面目な顔で言い訳を始めた。


「あ、あの~、あのボールは、最後の1球は…………タネで……投げたんです」

「え? タネ? な~にさ、タマ子ちゃん? 投げたのは種じゃなくて、ボールだよ?」


 珠子(たまこ)の投げるボールのサインを知らない千波は、何を言ってるかまったく分からなかった。でも、横で聞いていた多澤は、真面目な顔で聞き返してきた。


「タネって……あの硬い種のことか?」

「はい……ごめんなさい。多澤さんは、『甘栗(あまぐり)』っていうサインだったんですが、はるかちゃんを見て、思わず力が入ったんです。だから、『甘栗』じゃなくて、『梅干(うめぼ)しの種(たね)』で投げちゃいました……」


「え? どういうこと? タマ子ちゃんって、ボールを投げたんじゃないの? え? でも、ボール以外投げたら反則なんじゃないの? え? え?」

「あ~もう、千波(せんなみ)はうるさいわよ! あなたは、黙って、ホームランでも打って来ればいいの!」


 話に割って入り頓珍漢(とんちんかん)なことを言う千波を、徹子(てつこ)は後ろに引っ張りながら珠子から引き離した。

 ただ、徹子にそう言われた千波は、なぜか嬉しそうに頷いて、笑顔でバットの素振りを始めたのだった。どうも、千波は、徹子に『ホームランを打ってください』とお願いされたのだと、勝手に解釈したらしかった。



「それで、タマ子、あなたの渾身の『梅干しの種』で投げた感触はどうだったの?」

「それが、テツ子さん。……確かにバットは、粉々に破壊されたんですよ! でも、粉々のバットの破片と一緒にボールも運ばれちゃったんです」


 珠子も自分の投げたボールをあそこまで運ばれたのは、初めてだった。


「確かに、私も見たわ。いつもだったら、折れたバットの先っちょはそのまま飛んでいくけど、今回は塊になっている部分はなかったのよね。だから、ほら見て! ……今、グラウンドキーパーさんたちが、大急ぎで内野じゅうを箒で掃いてるの」

「バットの破片を回収してるって訳だな……。ま、その分、時間が稼げる……でもな、彼女は、まだ本気じゃないって言ってたぞ」


「え? あれで、本気じゃないの?」


 珠子は、ゆっくり相手のベンチの方を見た。そこには、チームメートに祝福されて笑顔で話をしている南口はるかがいた。

 珠子もそれを見て笑顔を作ってはいたが、右手を強く握り締めていたのだった。





(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。