105 第6章第5話 大型新人
『―― アウト ――』
“2番周西選手も同じように2ストライクまではバットを振りませんでした。そして、3球目でバットが折れ、ボールはまたもやピッチャーの北白山が処理しました。これは、やっぱり今までフライを打たせていたボールとは違うんでしょうか?”
“う~ん……たぶん、ボールに込める力が違うんやないかと思うねん。今までは、それでも当たれば内野、運がよければ外野まで飛んでいたはず。ところが、今日の試合で、2ストライク後の決め球は、バッターがいくら打つ角度を工夫してもピッチャーの近くにボテボテのゴロしか飛ばんな。よっぽど重いボールなんやと思う”
「(さあ、次のバッターが問題のはるかちゃんか?)お! おいおい!」
フォーグス3番、DH登録の南口はるかが、バッターボックスに現れた。ネクストバッターズサークルにいた時は、それほど気になることはなかったが、バッターボックスに入った南口選手を見た多澤は、思わず声を上げてしまった。
「おや? なんか私、間違っとると? ほら、野球始めたとは先週からだけん、もし違っとったら教えてね、ふふ」
キャッチャー多澤の驚きの声を聞き、笑顔で返した南口だったが、迫力はどんなプロ野球選手をも凌駕しているように思えた多澤だった。
「あ、いや……べつに……」
珍しく自信なさげな多澤だったが、立ち上がって内野と外野に大きくブロックサインを出した。
「(ん? 外野は、めいっぱい下がれ?……いいのか?)」
センターの六十畑は、レフトの今河とライトの千波を確認し、お互いに頷いてフェンスギリギリまで下がった。
合わせて、内野も今の場所よりも少し後ろに下がって守備についた。
「監督? ベンチからの指示はいいんですか?」
「ああ、哲ちゃん。今は、多澤ちゃんに任せよう。今年のうちの方針は、一人一人が考える野球だからね。みんなが、考えに困るような場面まで黙って見守ることにしようよ」
「まあ、そうですね……あの南口はるかっていう新人も、どんな力をもっているかまだ未知数ですからね」
「おや? 哲ちゃん。哲ちゃんともあろう人が、彼女の力をまだ把握していないのかい? 多澤ちゃんは、見た目でピンと来たようだよ。だから、守備を下げたんだ」
「あ、ああ……そ、そうですね。間違いなく、怪力の持ち主だとは……」
“出ましたね、期待の新人、南口はるか。しっかし、あの体格は、相撲取りというよりレスラーと言った方がいいかもですね。ざっと見て、身長は180センチぐらい、肩幅は物凄く広いです。胸囲もきっと1メートルは超えてますね。単に重い、大きいんじゃなくて、鍛え上げた大きさというでしょうか……”
“確かにな、相撲の全日本チャンピオンだとは言っていたんやけど、これは野球をやらせてもいいとこ行くんとちゃうかな。やっぱり相撲でも、それなりの筋力が物を言うんやろな。ただ、体重が重ければいいというわけじゃないと思うんや”
「ほんなら、どっからでもかかってきなっせ!」
「(うっわ! あれが、はるかちゃんなのね。体の割には、なんて可愛い顔をしているのかしら。ヘルメットの下から飛び出してる三つ編みのツインテールも可愛い! ……うん、そうね、多澤さんのサインは、スイカのジャイロボールね!)」
“北白山、第1球目を投げました……”
―― バシッ! ――
『―― ストラーイク! ――』
“審判も力が入ったようです。今のボールはどうでした?”
“あの球は、本気の球やな。今まで2ストライクまでに投げてたやつとは違っとるぞ”
“それでも南口はバットを振りませんでした”
“やっぱり、チーム作戦には従うんやな。フォーグスの作戦は、鉄壁やからな。選手なら例外はないとゆうことやね”
「(ふん……それでも、こっちは手を抜かんぞ!)」
「(はい、次も、同じですね……)」
“北白山、第2球目を投げた……”
―― バシッ! ――
『―― ストライク ――』
“また振りませんでしたね”
“やっぱり、チーム全員で2ストライクまで待つ作戦なんや。でも、3球目は打ってくるはずや!”
“北白山、サインに頷き、3球目、投げました……”
―― グワッシャーーー! ヒュウウウウー ――
(つづく)




