103 第6章第3話 試合開始
“今、監督同士のメンバー表の交換が行われています”
「新城監督! 今度こそ、うちが勝ち越しますから、覚悟していてくださいね!」
「あははは……お手柔らかにお願いしますよ、古九保監督」
「いいや、今日こそは、あのタマ子ちゃんのボールを打って見せますよ。うちのはるかちゃんに期待してくれよ!」
「はるかちゃん?……ん? やっぱり新人を入れたんですね。噂には聞いていたけど……」
「ははははは……じゃあ、よろしく!!」
“なんでしょう? 古九保監督は、メンバー表を受け取ると高笑いをしながらベンチに戻りましたね”
“う~ん、それに引き換え、新城監督は、その場で九州おくらフォーグスのメンバー表を食い入るように見つめて動かなくなっとるわ”
“分かりましたよ! 岩木さん。こちらにも今、メンバー表が届きました。これです! フォーグスのDHの『南口はるか』です。この選手は、つい最近、フォーグスの支配下になったばかりの新人だそうです”
“どこかで、野球をやっとったんかな?”
“えっとですね…………いいえ、野球の経歴はありません。以前は……あ! 九州出身の全日本女子相撲のチャンピオンです”
“相撲のチャンピオンか……。相撲は、体重別とかは無いからな。体格も結構いいんじゃないかな?”
“あ~……。ダメですね。女子なので、身長、体重などパーソナルデータは、いっさい非公表となっています。姿も、ベンチの奥にいるようで、ここからではまったく確認できません”
“これは、DHやからバッターで出てくるまでは分からんちゅうことやね。えっと、打順は……3番や! この球場は、ファイアースの本拠地やから、フォーグスの攻撃は表や! そや、1回も表には姿を見れるで!”
“それでは、守備につきました北海道ミルクファイアースの選手をご紹介いたします!
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1番 センター 六十畑
2番 ショート 氷田
3番 ファースト 喜代宮
4番 DH エイエス
5番 ライト 千波
6番 セカンド 形山
7番 レフト 今河
8番 サード 野町
9番 キャッチャー 多澤
ピッチャー 北白山 珠子
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さあ、今、審判が手を上げました“
『―― プレイ! ――』
“フォーグス1番は、見藤です。軽く素振りを2回してから、左バッターボックスへ入りました。ピッチャー北白山、サインに軽く頷いて、第1球、投げました!”
―― バシッ! ――
『―― ストライク ――』
“おや? 今のは、ど真ん中で打ちごろのはずですよね。なぜ、バットを振らず見送ったのでしょうか?”
“う~ん……これは、作戦かもしれんな。今まで、フォーグスは、北白山に少ない投球数で負けてるんや。今日は、今まで以上に球数を放らせて、隙を探ってみようということかもしれんな”
「(よし、タマ子ちゃん、次もこれだ!)」
「(うん、分かった……ジャイロボールで、リンゴ、ど真ん中ね!)」
珠子は、ノーワインドアップで、2球目も投げた。今回は、球数も多くなるかもしれないという徹子の読みで、初めから大きなモーションは避けて、体力を温存することにしたのだ。
―― バシッ! ――
『―― ストライク ――』
「ん? どうした? ど真ん中なのに、怖気づいたか?」
多澤は、わざとバッターボックスの見藤に声をかけた。しかし、見藤は、見向きもしなかった。
「(おかしいな? 今日は、やっぱりテツ子の言ったように、球数を投げさす作戦なんだろうか? じゃ、これなら、どうだ!)」
「(うん、……今度は、ツッパリボールのたまごね!)」
珠子は、同じノーワインドアップのモーションからフォークボールを投げた。しかも、一番力を抜いたボールだ。
力を抜いて投げたボールは、空気抵抗に負けて、バッターの足元まで落ちた。
―― カコ~ン ――
『―― ファール ――』
「(やっぱりそうか……今日は、タマ子ちゃんにボールをたくさん投げさすつもりなんだ。今のフォークなら、普通は空振りするはずなんだ。初めからファールを狙ってるから、バットに当てることができたんだな)」
「(うっわ~! あたしの投げたボールが、打たれたわ! うれし~やった!! ファールなんて、初めてよ!)」
マウンド上で嬉しそうに飛び跳ねている珠子を不思議そうに見ているのは、守備についている味方だけでなく、バッターボックスの見藤や敵のベンチの面々であった。
しかも、観客と放送席の実況や解説者も意味が分からず、球場は一瞬の沈黙が襲った。
(つづく)




