102 第6章第2話 気分上昇
“みなさん、こんにちは。今日は、5月2日の土曜日、ゴールデンウィークの中盤になります。今日の試合は、ここ北海道の旭川市、キタシロファーム球場から『北海道ミルクファイアース』対『九州おくらフォーグス』の3カード目の試合になっています。試合開始は、まもなく午後1時からのプレイボールです。ようやく北海道も桜の季節となりました。旭川は、ちょうど今が満開で見ごろとなっていますね~。そんな桜の花びらが舞う真っ青な五月晴れの今日、球場にもたくさんの親子連れが来てくれています。この試合は、実況の田中と解説の岩木さんでお送りいたします”
“いや~旭川も最高のお天気でんな~。ワテな、さっきこの球場の隣にある動物園へ行ってきたんや。すごかったで~、まるでな、水槽の中にいるみたいな場所があんねん。ワテらが通る道の天井をペンギンが通るねん。ワテな、ペンギンの泳いでるお腹を見るのは初めてやったわ!”
“あ、えっと岩木さん? 動物園の話は、また今度ということで、今日は野球の解説をお願いいたしますね”
“あはははは、すんまへんな。そやかて、ここの動物園な、大きな象もいたし、ガタイのいいゴリラもいたんや。特になゴリラなんか、野球やったらえらいホームランを打つんやないかって思ったわ。こう、肩の筋肉がな、モリモリっとしててな……”
“オッホン!……”
“ああ、すまんすまん。動物園も久しぶりやったんで、はしゃいでしもうたわ!”
その頃、出場を待つファイアースのベンチでは……。
「……あ! いたいた、タマ子! 遅いわよ!」
「テツ子さん、ごめんなさい。でも、ちゃんと森元ヘッドコーチには断って行ってきたんですよ!」
「ホントにもう、午前中の練習も半分でいなくなるし……森元ヘッドコーチは、ちょっとタマ子に甘いのよね!」
「あはははは……そりゃあ、おじいちゃんみたいなものだからな」
―― オッホン! ――
「あ、森元ヘッドコーチ!」
「おいおい、多澤君?……誰が、おじいちゃんだって?」
「あ、いえ、そういう訳では……」
「あ、森元ヘッドコーチ! はい。お土産です!」
「おお、すまんなあ~タマ子ちゃん! これは、いったい何かな?」
「これね、空中水槽を泳ぐペンギンのペンちゃんよ! とっても可愛いでしょ! キーホルダーになってるから、使ってくださいね~」
「ああ~そうかい、そうかい、ありがとうな~」
「なっ、テツ子、見たろ?」
「ええ、やっぱり、どう見てもおじいちゃんよね……」
「おい! お前ら! ……何とでも言え! ふんっ、タマ子ちゃんの可愛さはな、不滅なんだよ! お前らだって、じきに分かるさ……」
「ところで、タマ子、ひょっとして、隣の動物園に行ってたの?」
「はい! テツ子さん。今日からゴールデンウィーク特別のペンギンウォークも始まるんです。ついでに白熊水槽やゴリラの檻も見てきたんですよ! もう、嬉しくって!」
「なあ、タマ子ちゃんは、この旭川の近郊で育ったんだろ? ここの動物園にはよく来てたんじゃないのかい?」
「はい、多澤さん。もちろん、小学校のバス遠足も、中学校の施設見学も、全部この旭山動物園でしたよ! 家族とだって、年に3回は来てました! もちろん、友だち同士での待ち合わせだって、オラウータン館のクライミングロープの前だったんですよ!」
「そんなに行っていて、この大事な試合前に動物園に行ってたの?」
「もちろんです! とっても大事なことじゃないですか? 動物って、常に変化してるし、その時々で違う顔を見せてくれるんですよ! こんなに天気のいい日はなおさらなんです! 行かないわけには、いかないじゃないですか!」
「あはははは……タマ子ちゃんにとっては、動物園の方が何十倍も大事なんだね。それで、動物に会えてどうだったい?」
「ええ、多澤さん、もちろん、気分バッチリですよ!」
「お、そうか、そうか。……な、テツ子よ、これはな、タマ子ちゃんのメンタルトレーニングだったんだよ。これだけ、晴れやかな顔をしていれば、今日のピッチングだって、何があっても大丈夫だ!」
「う~ん……そうだといいんだけど。試合中に、動物園のことを思い出して、はしゃがないでよ、分かった? タマ子!」
「はい! 分かりましたで、あります!! テツ子さま!」
「なんか、もう、はしゃいでるような気がするんだけど……」
(つづく)




