100 第5章第19話 タマ子の効果
“みなさん、こんにちは。今日は、『九州おくらフォーグス 対 北海道ミルクファイアース』の第2戦をお送りいたします。場所は、昨日と同じく九州クマモンパークです。まだ春休みですし、しかもデーゲームです。お子さんを含め多くの方が応援に駆けつけていますね。……あ、ご紹介が遅れましたが、今日の解説は、元ファイアースのキャッチャーだった亀岡さんです。実況の田中でお送りいたします”
“みなさん、こんにちは。今日は、天気も良くて野球日和ですね。まあ、くまもんパークは、ドーム球場ですが、やっぱり天候はとても重要です。ちょっとした気温や湿度の変化で、ボールの飛び方も変わりますからね”
“さすが、亀岡さん。細かな所にも繊細な神経を使っていたキャッチャーならではの視点ですね。……今日のスターティングメンバーは、昨日と同一です。お互いのチームとも、ベテラン投手を先発に起用してきました。フォーグスはピッチャー有村、ファイアースはピッチャー伊東でキャッチャー田木矢です”
“やっぱりファイアースのキャッチャー多澤は、北白山専属みたいですね。今日は、出番はないみたいです”
“あ、それが、北白山も多澤もベンチには入っています。ひょっとして、中継ぎとして出場するんでしょうかね……”
“あ、それはないかな”
“え? もうお分かりになるんですか?”
“北白山については分かりませんが、少なくとも多澤さんについては分かります。僕、多澤さんの弟子みたいなものだと思っているんです。練習もよく一緒にやりました。彼は、一流です。それは間違いありませんが……いかんせん、もう年齢が……たぶん、今日はベンチに座ってるだけでも体中が痛いんじゃないでしょうかね……”
「多澤さ~ん……なんで、そんなベンチの隅っこにいるんですか? 一緒に前の方に座って、みんなを応援しましょうよ!」
「こら! タマ子ちゃん、引っ張っちゃいかんって! 痛てて……」
「え? 多澤さん、どっか怪我でもしたんですか?」
「ん? そ、そんなじゃないけど……」
「タマ子、いいから、そっとしておいてあげて。多澤さんは今日はお休みだったのよ。それを、無理言って試合を見ておいてもらってるの。絶対に今後の役に立つからね」
「そうなんですか~じゃあ、早くお怪我を治してくださいね。あたし、多澤さんじゃないと投げられないので!」
「怪我じゃないってば……あ、は、は、は。明日には痛みもなくなってる……はず……なんだけど」
多澤は、体中に痛み止めの膏薬を貼り付け、プンプンと匂いをまき散らしていたが、珠子にはまったく通じていなかった。
―― ポン ――
「ぎゃあ!」
「あはははは……多澤親分も筋肉痛には敵わないみたいだね」
「もう、何するんですか! 監督!」
新城監督は、多澤の背中を軽く叩いてから、笑顔で自分の定位置に座り、試合開始に備えた。
「あたし、今日は、全力でみんなの応援をします!」
珠子は、その言葉どおり、ベンチから大きな声でチームのみんなに声援を送った。打撃で活躍した人には、わざわざベンチの前まで出て、選手たちを迎えた。その満面の笑顔で迎えられた選手たちは、体中に力がみなぎるように、目が輝いた。
もちろん、守備でもファインプレーだけでなく、何気ない普通のプレーにも、珠子は少し大げさに拍手を送り、褒めたたえた。
「うん、思ったとおりだね、哲ちゃん。みんながこんなに元気になるとはね……」
「そうですね、監督。やっぱり、タマ子ちゃんはうちの秘密兵器なんですな」
ベンチのみんなの様子を見ながら、新城監督と森元哲也ヘッドコーチは、嬉しそうに選手たちのはしゃぎぶりを眺めていた。
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“今日も、ファイアースが勝ちましたね。7対0で、ピッチャー伊東が完封しました。打つ方も、エイエス、氷田にホームランが飛び出し、それから、ヒットも10本と、バッターたちが大活躍でしたね”
“そうですね、それにしてもファイアースのベンチは、盛り上がってましたね。ヒットを打つたびに、とても大きな歓声が上がっていましたよ”
“見ましたか、亀岡さん。ヒットを打ったり、守備でも上手くプレーできたりすると、北白山選手がベンチの前に出てきて、両手を振っていましたね”
“はい、とってもいい笑顔をしていましたね。あんな笑顔をされちゃ、誰だって嬉しいんじゃないでしょうか? 僕だって、ちょっと現役に復帰しようかなって思ったくらいですよ!”
“え? ホントですか? 亀岡さんなら、まだまだいけるんじゃないですか? あの多澤さんがベンチにいるんですよ!”
“そ、そうかな……えへへへ。”
解説の亀岡も、珠子の応援に目尻が下がっていたのだった。
(第5章 完 ・ 物語はつづく)




