#08.
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パメラが行動で承諾の意思を示すと、ベインの赤みの混じった琥珀色の瞳がパメラの足へと向いた。考えてみれば、パメラ自身も自分の傷をまともに見るのは今が初めてだった。
(わぁ。これは酷いわね)
パメラの白い足には、蔓に絡み取られた痕が鮮明に残っていた。
さらに、腫れ上がった皮膚は火傷の痕のように剥がれ落ち、膿の混じった血が流れ出ていた。血の量はそれほど多くはなかったが、いかんせん傷口がグロテスクで、自然と顔が歪んだ。
(どうりで痛むわけだわ。これじゃあ痛くて当然よ)
この様子だと、傷痕がかなり長引くか、最悪一生消えないかもしれないという思いが頭をよぎった。
こんな状態でベインの後を追って走った自分を、我ながら大したものだと感心したのも束の間、早く傷の手当てをした方が良さそうだと、パメラはベインに視線を向けた。
ベインは真っ青な顔でパメラの傷を確認していたが、今にも気絶しそうな表情だったため、見ているパメラの方が不安になるほどだった。
「ベイン。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。待ってろ。手当ての道具を持ってくる」
言い終えるや否や、瞬間移動でもしたかのようにパメラの視界から消え去ったベインは、瞬く間に綺麗な水の入った洗面器とタオル、包帯の入った救急箱などを両手いっぱいに抱えて戻ってきた。
手当ての道具を持ってきてくれたところまでは良かったが、タオルを持つ手が情けないほど小刻みに震えていた。
(手当てを受けている間に夜が明けちゃうわね。気絶しなかっただけ、ある程度は多めに見るとしてあげるけれど)
一度傷を自覚してしまうと、一刻も早く手当てをしたくなる。ベインが落ち着くのを待つよりも自分でやった方が遥かに効率的であるため、パメラが彼の手からタオルを受け取ろうとすると、ベインは首を横に振って手を引いた。
「俺がやる。俺にやらせてくれ」
「いつまでかかるんですか?」
「今すぐやる。ごめん。すごく痛いだろ」
ベインはガタガタと震える手で、パメラの足の手当てを始めた。冷たいタオルが傷口に触れると、突き刺すような痛みが走った。
思わずうめき声が漏れそうになり、唇を強く噛み締めた。万が一、ベインに気づかれたら大変だと思い、彼の顔を窺った。幸い、彼はパメラの足の手当てに全神経を集中させているようで、彼女の表情にまでは気が回らない様子だった。
傷口を綺麗に拭き取り、消毒薬でもう一度処置する。その後にパメラが調合した軟膏と回復薬を重ねて塗り、湿布と包帯で仕上げる。
時間は少しばかりかかったものの、手当ての手際自体は非常に鮮やかだった。
(意外ね……)
血を見るとショック状態の手前まで行く人間が、傷の手当てに手慣れているなんて。
「終わったよ、パメラ。もうだいぶ楽だろ?」
「ええ。随分と楽になりました」
実際、傷を手当てしたからといって痛みが消え去るわけではないので、ベインの問いかけは実のところ何の意味もない質問だった。
しかし、震える手で自ら手当てをしてくれたその心遣いは、ありがたいものだったから。パメラが微笑みながら頷くと、ベインはそこでようやく安堵のため息を漏らした。
「本当にすまない、パメラ。俺がもう少し周囲に気を配っていれば……」
「何を言っているのですか? 気づかないのが当然でしょう。そもそも植物型の魔物は、この周辺には自生すらしていないのですから」
「いや、俺は気づくべきだった。もう少しだけ注意を払っていれば察知できたはずだ。まだ気が緩んでいて油断したんだ。お前一人守れないなんて、俺は本当に……」
この村に定着する前、パメラは短い期間ではあるが冒険者として活動していたことがあった。
そのため、大地の深くを移動する植物型の魔物がどれほど厄介であるか、察知しづらい代わりに殺傷力は高くないことなどを十分に熟知していた。
あの状況では、王国の騎士団長を連れてこようがパメラを守ることはできない。だから誰のせいでもないのだ。ただパメラの運が悪かっただけ。
それにもかかわらず、ベインは過剰なまでに自責の念に駆られていた。どれほど酷く自分を責めているかというと、傍から見ればパメラが死んでしまったのではないかと錯覚するほどだった。
(あぁ、面倒くさい……一体今、何をしているわけ? 懺悔?)
自責も大概にすべきだ。そもそも過ちを犯したわけでもないのに、自分を責める理由は何なのだろうか。被害妄想でもあるのだろうか。
訳ありの人間だということは最初から分かっていたが、どうやらこのおっさんはパメラの想像以上に、さらに根深い事情を抱えているようだった。こういう人間は一度トラウマが再発すると、人の言うことに一切耳を貸さず自己批判にばかり陥るため、隣で見守る側としては苛立つほどに面倒くさい。
何はともあれ、時は金なりだ。こんなくだらない呟きをずっと聞いていられるほど、パメラは暇ではない。そこでパメラは両手をガバッと跳ね上げた。そして、深くうつむいたベインの頭を強引に持ち上げた。彼の琥珀色の瞳がパメラを捉えた。そして。
――ゴッ!
「うぐっ?!」
「痛っっっ!!!」
パメラは見せつけるかのように、ベインの額に自分の額を叩き込んだ。
頭突きを噛ましたのはパメラの方なのに、パメラの方がより痛そうな表情を浮かべて自分の額を押さえていると、ベインは困惑したように目をパチクリとさせながら彼女を呼んだ。
「あの、パメラ? 何をしたんだい?」
「あぁ、もう、この穀潰しおっさん! なんでこんなに頭が硬いわけ?!」
「え、え? 俺のせい?」
「そうですよ! 貴方のせいです! 貴方がいつまでも無駄なことばかりブツブツ言うから、こうなったんじゃないですか!」
理解しがたいパメラの奇跡の論理に、ベインは呆然とした表情で口を金魚のように開閉させた。パメラの努力が実を結んだのか、先ほどまでの陰鬱な空気は跡形もなく消え去っていた。
それはそれとして。
(めちゃくちゃ痛い……)
本当に、この世でこれ以上ないほどの役立たずの石頭おっさんだわ。




