#24.
リハルト・グレイル。
彼に関する詳細な内幕を知る者は少ないが、彼がどのような人物かを知らない人間など、この世には存在しないだろう。
彼は現在、帝国に編入され消滅した隣国との長きにわたる戦争の中で、魔族へと堕落した。
しかし、魔族と化してもなお、リハルトは超人的な忍耐力で自身を抑制し続けた。
魔族に堕ちながらも理性を保つ怪物を使役する帝国に、平凡な王国が勝てるはずもなく、帝国は圧倒的な兵力差で諸国を蹂躙した。
そうして帝国は圧倒的な勝利を収め、敗戦国の土地をすべて奪い、大国の列に名を連ねた。
公式発表では、リハルト・グレイルは敵国の権謀術数によって外見が怪物のように変わってしまっただけだとされた。
だが、すでに怪物となったリハルトに誰も近づこうとはせず、リハルト自身も時が経つにつれ、敵味方の区別もつかないほどに狂っていった。
詳細な内幕は誰にもわからない。
ただ、何らかの理由でリハルト・グレイルは帝国から追放され、戦争が終わって数年後、魂までもが狂うという『深い砂漠』に捨てられたとされている。
すべての人の記憶から忘れ去られていくはずだった戦争英雄。
一体、彼はどうやって人間に戻ったのか。
どうやって深い砂漠から脱出したのか。
わからない。だが、燃え上がるような赤髪は帝国皇族の証であり、何よりもその顔立ちは、かつて戦争英雄として名を馳せた皇子の肖像画と瓜二つだった。
唯一違う点といえば、魔物の象徴である黄金色の瞳だけ。
目の前の男は間違いなくリハルト・グレイルであり、たとえベインであっても、彼に勝つことは不可能だった。
リハルトとレアリアの手に触れたパメラが、微笑みながら尋ねた。
「お二人がここまで来てくださったということは、私のプレゼントを喜んで受け取ってくださるという意味ですよね?」
「まあね、私は正直どっちでもよかったんだけど、リハルトが『カマリッドの民が哀れだ』だの『正しい統治者が必要だ』だの、正論ばかり並べ立てるものだから」
「弟子が滞在する国が暴政に苦しんでいるのを、見過ごせないと言ったのは君だろう? 私はただ、君が愛する弟子と、その弟子が生きる国を守りたかっただけだ」
「あら? お兄様。お兄様は私のことを愛していないのですか?」
「もちろん、パメラ、君のことを心から愛しているとも。だから手紙を受け取ってすぐに駆けつけたんだろう?」
「ふふ、よかった。寂しい思いをするところでした」
「やれやれ、アツアツだねえ。いつからそんなに仲が良かったんだか」
実に久しぶりに交わす二人の師匠との会話は、あまりにも懐かしく温かかった。彼らと過ごしたのはたった一年間だけだったのに、まるで十数年を共にしてきた家族のように、見るだけで心が満たされた。
(お兄様がカマリッドの王になれば、師匠の放浪癖も落ち着くでしょうね。二人とも顔を見せに来てくれないから、私が会いに行ける場所を作るしかなかったのよ)
追放された皇太子であり魔族でもあるリハルトは、一国に長く留まることはできなかった。そのため、レアリアもまた放浪商人として一箇所に腰を据えることはなかった。
彼女が唯一、一年近く同じ場所に留まったのは、パメラを拾った年であり、魔王が復活した四年前のことだけだ。
(まさか、その後一度も顔を見せに来てくれないとは思わなかったけれど……まあ、今度はいつでも会いに行けるわ)
カマリッドの国王は、実に絶妙なタイミングで没落してくれたものだ。
戦争英雄と、勇者を背後に控えたパメラは視線を移し、カマリッド国王を見つめた。
「陛下。あなたには二つの選択肢があります。一つは、側にいる腰巾着たちと一緒に、今すぐカマリッドを立ち去ること」
パメラが指を上げ、口角を釣り上げた。
「もう一つは、あつらえたように用意された処刑台で首を刎ねられて死ぬこと。どちらになさいますか?」
「パメラ・アレイルグ。貴様、狂った皇太子がこの国を正しく統治できると本気で思っているのか?」
「罪のない若者たちを強制的に連行して殺そうとしていた方が、口にする言葉ではないと思いますが」
「あれらは勇者を誘い出すための囮に過ぎん!」
「そう? じゃあ、勇者と仲間を死地に追いやったことは? それも必要に駆られてのこと?」
「それは……」
「国王アレクサンダー・ウィミル・カマリッド。私は二度繰り返すのが嫌いでしてよ。最後に聞きます。消えますか? それとも死にますか?」
パメラが腰に下げていた剣を抜き放った。
実際、パメラの力では長剣を振るうことはできない。しかし、人を脅すには短剣よりも長剣の方が視覚的に効果的ではないだろうか。事実、その効果はてきめんで、国王は一歩後ずさった。
頬を伝った冷や汗が床を濡らす。短い沈黙が処刑台に降り注いだ。
「パメラ。私たちはこのままカマリッドを去る。だから、命だけは助けてくれないか?」
重い沈黙を破ったのは、国王のアレクサンダーでも、貴族たちでもなかった。
「ルシアン! 貴様、何を……」
「では、このまま全員首を刎ねられて死ぬのですか? 私は構いませんが」
「それは……」
「父上。今、私たちの目の前にいるのは、かつての英雄と、現役の勇者です。軽々しく口を開かないでください」
ルシアンの言葉に国王の顔に怒気が浮かんだが、リハルトが視線を向けると、すぐに目を伏せた。パメラは、そう遠くない場所に立っていたルシアンを見つめた。
彼女と目が合うと、ルシアンは虚ろな笑みを浮かべた。
「パメラ。四年前に、僕が君に言ったことを覚えているかい?」
「『パメラ・アレイルグ。無能なだけの悪女である君との婚約は、今この時をもって終わりだ』という言葉なら、覚えていますよ」
「そうだね。やっぱり覚えているのか。僕の馬鹿な戯言に、君は言ったよね。四六時中意味のない魔法の勉強だの、女遊びだのにうつつを抜かしている君のような奴が、無能を論じるのかと」
「そうでしたね。今考えても、実に滑稽な話ですわ。ところで、その話は何ですか?」
パメラの疑問混じりの問いに、かつての自信満々だった声とは比較にならないほど、疲れ果てた憔悴した声でルシアンが言葉を継いだ。
「君の言う通り、女遊びをして、身の丈にも合わない魔法の勉強に熱を上げるなんて、無能で愚かなことだった。ねえ、パメラ。もしあの時、君の言葉を聞き入れていたら、すべてが変わっていただろうか?」
パメラの淡々とした言葉に、ルシアンが俯いた。パメラの言う通り、政治を勉強していれば、社会を知っていれば、賢明な君主として帝王学を学んでいれば……。
「さあね。変わったかもしれないし、変わらなかったかもしれない。けれど、あなたは聖女を選んだ。その結果がこれなのです」
「……ああ。そうだろうな」
「あ、ついでですから挨拶しておきますね。あの日のあなたには、心から感謝しているのですよ。あなたが馬鹿だったおかげで、師匠と兄様に出会うことができたのですから」
「ねえ、パメラ。もう一つだけ答えて」
パメラが肯定の意味で頷くと、ルシアンは尋ねた。
「皇太子なら、この国をうまく統治できるのかい? もうこれ以上、この国の民が苦しまずに済むのか?」
「未来のことは誰にも確約できません。ただ、五歳の子供を連れてきて統治させたとしても、あなたたちよりはうまくやるだろうと、断言はできますわね」
「そうか……そうなんだね……」
パメラが蠱惑的な笑みを浮かべた。その笑みが、ルシアンをより一層惨めな気分にさせた。虚ろな目でパメラを見つめていたルシアンは、何百回、何千回と練習した王族の礼法で、最後の一礼を捧げた。
「無能なだけの王太子は、これにて失礼させていただきます。どうか……この国を、よろしくお願いいたします」




