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23/25

#23.



(勇者と持ち上げていた時はいつのことやら。結局、平民だと侮っていたというわけね)


無理もない。ベインを真に英雄だと思っていたのなら、このようなお粗末な扱いは出てこなかったはずだ。


国王の嘲りに対し、パメラは冷ややかな笑みを浮かべて答えた。


「ええ、私たち二人だけでも簒奪は可能ですわ。愚かな国王。ご自分がまだ威勢を張れる立場だとでも思っていらっしゃるの?」


パメラは本当に憐れだというように、深々とため息をついた。彼女の皮肉に国王の額に青筋が浮かんだが、パメラはフッと鼻で笑い、言葉を続けた。


「見てください。あなたが自慢していた王国の近衛騎士は、私の足元で這いつくばっているじゃありませんか? 騎士をもっと呼ぶおつもり? 私たち、賭けでもしましょうか?」


パメラが壇上の貴族たちへ一歩近づくと、ベインが彼女を護衛するように寄り添った。


「騎士たちがここへ来るのが早いか、貴方たちの首が飛ぶのが早いか。ベイン、あなたはどう思う?」

「首を刎ねて地面に埋めるまでやっても、まだ時間が余るだろうな」

「あらあら。ティータイムを楽しむ時間までありそうですね。我が国って、こんなに無能だったかしら?」

「パメラ・アレイルグ。この厚かましい……」


パメラが片手で頬を杖、首を傾げた。それに貴族の一人が怒りを堪えきれなかったのか、剣を抜いた。


いや、抜こうとしたが、彼の手が剣に触れるより先に切り落とされた。


「アアアアアッ!!!」

「あら。あらあら。一体どこまでおバカなのですか? まだ状況が把握できないのですか? ここにいるのは、魔王を討伐した勇者ですよ?」


一体どんな考えで、勇者を前にして剣を抜くのか。想像以上に愚かな貴族たちの姿に、パメラは困ったような笑みを浮かべた。


「支援要員を呼びすぎたかもしれませんね。困ったわ」

「……支援要員だと?」

「ええ、当然でしょう? 陛下もおっしゃったじゃありませんか。二人で王位を簒奪するなんて話になるのか、と」

「き、貴様……国を売り飛ばす気か!!」

「売り飛ばす、だなんて。口汚い方ですね。精神が正常でない方から譲り受けるだけのことなのに」


勇者だけでも手一杯なのに、支援要員まで来るというパメラの言葉に、国王の顔面が蒼白になった。今日という今日、顔色がコロコロと変わるのが滑稽だ。


クスクスと笑っていたパメラは、すぐにシュンと肩を落とした。


「そんなことより……皆様が私の予想以上に無能で愚かなので、恥ずかしくなってきました。お兄様……いや、グレイル卿になんと説明したものか」

「なんだと? グレイル!? パメラ。王位を継ぐ者がまさか……リハルト・グレイルなのか?」


『グレイル』という名前を聞くやいなや、ベインが目を丸くした。驚いたのはベインだけではなかった。カマリッドの貴族たちも、青を通り越して真っ白になった顔で震え始めた。


その姿に、パメラは悪戯が成功した子供のように笑って言った。


「ええ、そうです。皆様ご存知だったのですね? まぁ、知らないほうが不思議でしょう?」

「君、どうして彼を知っているんだ? あの男は……」


パメラの淡々とした答えに、ベインが顔を青ざめさせながら言ったが、彼の言葉は最後まで続くことはなかった。


「やれやれ、私たちが遅すぎたか?」

「君たちだけで楽しんじまったんじゃないだろうな?」


背後から聞こえてきた見知らぬ声にギクリとして、ベインはパメラを抱き寄せて剣を振るった。

殺意を込めた攻撃ではなかったが、鋭い一撃だった。


それにもかかわらず、ベインの攻撃はあまりにも容易く防がれた。


ベインの前に立った、ベインと同じほどの大柄な体格を持つ赤髪の男が、ベインの剣を払いのけながらニヤリと笑った。


「手癖の悪い護衛だな、パメラ」

「お兄様!」


赤髪の男がパメラの名を呼ぶと、パメラは待っていたかのように彼に駆け寄り、抱きついた。パメラの猪突猛進な抱擁に、男は笑いながら彼女を抱き返した。


『お兄様』と呼ぶのを見る限り、恋愛感情があるようには見えなかった。


しかし、飾らないパメラの笑顔を見ていると、男に対する恐怖よりも強い嫉妬心が先に込み上げてきた。


反射的にパメラを自分の胸元へ引き寄せ、ベインが彼女を強く抱きしめた。それにパメラが二つの目をパチクリとさせ、ベインを見上げた。


「ベイン? どうしたの?」

「あ、それは……」

「見ればわからんか? 嫉妬しているんだよ。私だって嫉妬するわ。リハルト、私にはそんな抱きしめ方をしてくれたことがないのに」


赤髪の男、リハルトの背後から黒髪の女、レアリアが微笑みながら歩いてきた。それを見てリハルトが彼女へ手を伸ばした。


「君はパメラのように飛び込んではこないだろう。一度やってみるか? あの男がしているように、強く抱きしめて離さないから」

「窮屈そうだから遠慮しておくわ。パメラ、あなたは大丈夫? 苦しそうに見えるけれど」

「まぁ、それなりに大丈夫ですよ。少し暑いですけれど」


自分でも子供っぽい行動だと思ったのか、ベインの顔が赤らんだ。しかし、気まずそうにするベインとは対照的に、リハルトも、レアリアも、そしてパメラさえも気にも留めていなかった。


「それはさておき、師匠。どうしてそんなに遅れたのですか。どれだけ待ったことか」

「遅れただと? お前から連絡が来てすぐに出発したわ。そもそも『破格の価格で国家を譲渡します。結婚祝いとして差し上げたいので、早く来てください』なんて言って師を呼びつけるのは、この世でお前くらいなものだ」


パメラの額を軽く小突いて、彼女の師が言った。それにパメラが笑って答えた。


「えー、師匠も。面白いだろうと思って慌てて来たくせに。一番美味しいところも残しておきましたから」

「パメラも本当に……それなら遅れてはいないんじゃないか。ちょうど良い時間に来たということだよ。そうだろう? リハルト」

「もちろんだ、君の言う通りだよ。レアリア」


リハルトがパメラ越しに立っている貴族たちを見て言うと、貴族たちは誰しも震え上がった。

当然のことだった。


リハルト・グレイルは、カマリッド王国とは比較にもならない大帝国オルデンの第3皇太子だったが、隣国との戦争中に堕落し、魔族と化した怪物ではなかったか。


戦争英雄でありながら帝国から追放され、魂まで狂うという『深い砂漠』に捨てられたまま、人々の記憶から忘れ去られていた存在が、どうしてカマリッドに存在するというのか。


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