#21.
追放されて平民になってから4年が過ぎたというのに、パメラ・アレイルグのカーテシーは欠点一つなく美しかった。いや、美しいのはカーテシーだけではなかった。
(パメラが……こんなに美しかったか?)
16歳、まだ幼さの残る顔立ちだったパメラの面影は、4年という歳月を経て成熟した女の姿へと変わり、憂いも悩みもない田舎での暮らしは、彼女に健康的な美しさを授けていた。
パメラをぼんやりと見つめているのは、元婚約者のルシアンだけではなかった。
絞首台の上に立っていた有力貴族はもちろん、国王さえも信じられないという目つきで彼女を見つめていた。その視線に、カッと怒りが込み上げた。
彼女に注がれる汚らわしい視線を分散させようと、ルシアンは大きな声で彼女を呼んだ。
「パメラ」
「あら、王太子殿下」
ルシアンを見つめて微笑む彼女は、花のように美しい。その笑顔に、心臓が大きく高鳴るのを感じた。無意識に彼女の方へ歩み寄りながら、ルシアンは言葉を続けた。
「パメラ。元気だったか? どうやってここまで来たんだ? いや、そんなことはどうでもいいな。ああ、どれほど会いたかったことか。本当に、よく来てくれた」
彼女が目の前にいる。一度は手を離してしまったが、今度は離さない。パメラさえいれば全て解決するのだから。だから……。
ルシアンがパメラに手を伸ばしたのと同時に、パメラが彼の手を払いのけた。ピシャリ、という派手な音がやけに大きく響いた。痛みよりも、驚きで体がすくんだ。
「パ、パメラ?」
「勝手に触れないでください。不愉快ですから」
断固とした、それどころか冷え切った拒絶の言葉に、ルシアンの顔が歪んだ。彼が怒ろうが知ったことではないといった様子で、一歩下がったパメラがうんざりしたように言った。
「あんたが触れていい女は、頭の中がお花畑な聖女様だけじゃありませんか?」
「パメラ。それは……」
「いいから、あんたに用はありません。無能で間抜けな愚図は、隅っこで黙って見ていなさいよ」
パメラの声は決して小さくなく、周囲は水を打ったように静まり返っていたため、彼女の声は壇上の貴族たちの耳にも鮮明に届いた。適当な罪状を読み上げていた宰相が、大声で怒鳴った。
「パメラ・アレイルグ! 聖女様に何という不敬な口を利くのだ!」
「ああ、無駄に声だけはデカいわね。叫ばなくたって聞こえてるわよ、豚みたいな野郎が!!!」
「なっ、今、何と……」
「何よ、聞こえないの? 脂ぎって太りやがって。宰相も、公爵も、侯爵まで。豚のほうがまだお前らよりマシだわ。4年間、どれだけ仕事をサボればそんなに醜く膨れ上がるの?」
パメラの毒舌に、貴族たちの顔が真っ赤に茹で上がった。真っ赤になった宰相の顔を見つめながら、パメラはフッと鼻で笑い、言葉を継いだ。
「それから、アレイルグですって? 一体いつ返上した名前よ? 頭まで脂肪で詰まって記憶も曖昧になったのかしら?」
「この女が……いい加減にしろ!!!」
「平民の分際で何という暴言を!」
怒りを抑えきれず、貴族たちが飛び上がるように立ち上がった。その時だった。
「静かに。席に着け」
重厚で低い国王の声音に、興奮を隠せなかった貴族たちが一斉に動きを止めた。パメラの視線が貴族たちを通り過ぎ、国王へと向かった。
「パメラ・アレイルグ。平民の身で、とどまるところを知らぬ不敬さだな。絞首台に首を吊られたいのか?」
「不敬? 事実を話しただけですけれど。不敬? 笑わせないで。あ! もしかして、名称を間違えて呼んだから腹を立てたのかしら?」
国王を見ていたパメラの視線が、隣に座るオフィリアへと向かった。彼女が片方の口角を釣り上げ、顔いっぱいに冷笑を浮かべた。
「聖女じゃなくて、娼婦と呼ぶべきでしたね。私のミスだわ。オフィリア、王太子じゃ満足できなかったの? いくらなんでも若いほうがいいでしょう?」
「な、何を……」
「まあ、似た者親子でしょうから、どっちもどっちだろうけれど」
「パメラ・アレイルグ!!!」
「叫ばなくても聞こえてるって言ったでしょう! ここは言葉も理解できない脳なしばかりが集まっているの? アレイルグなんていう汚らわしい名前を、なぜしつこく付けたがるの?」
「兵を呼べ! 今すぐあの女を捕らえろ!」
勢いがいいどころか、恐怖すら覚えさせるパメラの毒舌に、国王が首に筋を立てて叫んだ。貴族たちを護衛するために立っていた騎士たちが、一斉に剣を抜いて襲いかかった。
剣を構えた男たちが包囲しているにもかかわらず、パメラは一度も瞬きをしなかった。それどころか、騎士たちを見つめたパメラが、厳格な声で怒鳴りつけた。
「貴様らは、騎士道さえも投げ捨てたのか!!!」
どれほど声が大きかったのか、固く閉ざされていた窓がガタガタと揺れるほどだった。気迫に圧倒された騎士たちが足を止めると、パメラは炯々たる眼光で彼らに近づいた。
「国民の血税で生きている貴様らが! 罪なき国民を捕らえて粛清しようとする王家を見過ごした挙句、武装もしていない女を包囲して攻撃するのか! それで、自分たちを騎士と呼べるのか!」
パメラの言葉に、数人の騎士の視線が揺らいだ。
「騎士団! 何をしている! さっさとその女を捕らえてこい!」
しかし、続く国王の怒号に再びパメラへ飛びかかり始めた。その瞬間、パメラを包囲していた騎士たちの剣が、一斉に砕け散った。金属が割れる鋭い音が響き渡り、ワンテンポ遅れて騎士たちの顔が地面に叩きつけられた。
騎士たちが全員倒れ伏すと、広い広場には冷たい沈黙だけが漂った。パメラは自身の前で倒れ伏した騎士団長を見下ろすと、その顔を足で踏みつけた。ゴホッという音とともに、血が激しく飛び散った。
「騎士道を忘れたウジ虫ども。粛清されないことを感謝することね」
「な……にを」
「ルシアン」
騎士団長を軽やかに踏みつけながら歩みを進めていたパメラが、突然ルシアンの名を呼んだ。呆然とパメラを見つめていたルシアンは、ハッとして反射的に答えた。
「あ、ああ」
「さっき聞いたでしょう? どうやって来たのかって」
「そ、そうだな」
ルシアンの答えに、パメラが再び蠱惑的な微笑みを浮かべて答えた。依然として彼女の足元には騎士団長が踏みつけられている。
「皆様も気になっていることでしょう。皆さん、お待たせいたしました。このパメラ、本日、カマリッドの王位を簒奪するために、わざわざここへやってまいりましたの」




