#19.
見た目にはボロ雑巾のように乱れた髪だが、彼の髪の毛は意外にも手触りが良く、柔らかい。しっかり手入れさえすれば、長髪でも十分似合いそうだった。
(まあ、切るけれど)
ベインの髪を何度か指で梳いたパメラは、迷いなく彼の髪を首元まで切り落とした。長い灰色の髪が床に落ち、狭い部屋の中にサクサクという鋏の音が響き渡る。
威圧的な言動とは裏腹に、パメラの散髪の腕前はかなりのもので、瞬く間に奇妙な部分一つない整ったヘアスタイルが完成した。
前髪はわざと少し短めに切ったが、おかげで彼の瞳がよく見えるようになった。人を見るときは目を見て会話するのが好きなパメラにとっては、非常に満足のいく状態だ。
「伸び放題の髪を切ると、心までスッキリするわね。ただ……」
(まだ足りないわ)
口の周りを覆う髭が非常に目障りだ。これでは、王都の愚か者たちに威圧感を与えることはできない。
「ベイン。髭は自分で剃れるでしょう? 剃れないならやってあげてもいいけれど、私も初めてだからね。顔中傷だらけになっても覚悟して頂戴」
「いや、自分でできる。……ただ、顔がすごく寒くてな……髭はこのままでもいいんじゃないか?」
「甘ったれないでさっさと剃りなさいよ。必要なものは何? 短刀と鏡?」
腕を組んだパメラが尋ねると、ベインは肩を落として首を振った。
「部屋で剃ってくる……」
「いいわ。じゃあ片付けをしてからリビングに降りているから、準備ができたら降りてくるように」
「ああ……」
ベインを送り出し、綺麗に部屋の片付けを済ませてから窓の施錠まで念入りに行ったパメラは、1階へ降りてコーヒーと軽食のサンドイッチを作り始めた。
パメラは貴族の令嬢だが、昔から紅茶よりもコーヒーを好む。濃いめに淹れたコーヒーを飲んでいると、階段を降りてくる足音が聞こえてきた。
「ベイン、ちょうどよかったわ。あんたもコーヒーを飲……」
「コーヒー、いいな」
カップを持ったままリビングの入り口に目を向けたパメラは、言葉を失ったまま目を丸くした。髪と髭を整えたベインは、パメラよりも3、4歳年上に見えるだけの若い青年だった。貴公子のようには秀麗ではなく、消えることのない深い傷跡もいくつもあった。しかし、パメラの目には息を呑むほどの美男子に映った。顔の傷跡は、彼の魅力を引き立てこそすれ、決して損なうことはなかった。
(こんな顔だなんて知っていたら、無理矢理にでも手入れをさせていたのに)
正直に言うと、少しドキドキする。どうやら男らしい顔立ちが好みのようだ。
自分の好みに今さら気づいたパメラが、瞬きも忘れてベインを見つめると、ベインは気まずそうに尋ねた。
「おい、パメラ? どうした?」
「あんた、記憶していたよりずっといい男だったのね?」
「え、ええ?」
赤色が混ざった彼の黄色の瞳がパメラを捉えると、すぐに露骨なほど視線を逸らした。顔色に変化はないが、耳と首元が真っ赤に染まっているのが少し可愛らしい。
「こんな傷だらけの顔のどこがいいんだよ」
「本当よ? もったいない。どうしてこんな顔を隠していたの?」
「お世辞を言っても腹は膨れないぞ。コーヒーをくれるんだろう」
「あ、そうだった。ちょっと待って」
普段ならベインに言い返していただろうが、イケメンだから許すとしよう。席を立ったパメラは、一口サイズのサンドイッチと淹れたてのコーヒーを持って彼に近づくと、その耳元で囁いた。
「ベイン、私はお世辞でこんなことを言う人間じゃないわ。あんた、本当にかっこいいわよ。ふふ」
「……!? うっ、パメラ!」
「さあ、遅れないうちに食事を済ませて。先は長いんだから」
ふふ。顔まで真っ赤に染め上げることに成功した。満足げに微笑んだパメラは、ベインを背に旅行用の食料を詰め込んだ。家の片付けを適当に終え、本格的に王都へ向かうべく店の入り口へ向かうと、跪いていた騎士たちが不慣れな手つきで店を整理しているのが見えた。
「あら? あんたたち、ここで何をしているの?」
「あ、パメラ様……!」
「申し訳ございませんでした、パメラ様」
「私たちがしたことへの贖罪にはなりませんが、ご迷惑をおかけしてはいけないと思いまして……」
「ふーん?」
どうやら罪悪感から、自分たちがしでかしたことを収拾しようとしたらしい。どのみち誰かに片付けを頼むつもりだったので、整理してくれたのはありがたいことだ。ただ。
(これくらいで許すわけにはいかないわね。どうするのが一番かしら)
腕を組んで悩んでいたパメラは、これだと言わんばかりに指を鳴らした。
「あんたたち。私に償いたいんでしょう?」
「え? あ、はい」
「何か命じることがあれば、何なりとお申し付けください」
「いいわ。じゃあ当分、家の留守番をしてくれるかしら?」
「えっ?」
「おい、パメラ? それはどういう意味だ?」
「どのみち誰に家を預けようか悩んでいたところなのよ。あんたたちは騎士だから、せこい泥棒なんてしないでしょう?」
いくらなんでも初対面の相手にいきなり家を任せるパメラの行動に、ベインは目をパチクリさせたが、パメラは気にすることなく深淵な笑みを浮かべて言った。
「あんたたちがここに留まっている理由。私が現国王の暴政を止めてくれることを願っているからでしょう?」
「それは……」
「止めるのは構わないわ。ちょうど、利子がつきに付いた長年の借りを精算しに行く予定だから」
パメラが本当に動いてくれるとは思わなかったのか、騎士たちの瞳に希望が宿った。するとパメラは騎士の一人を指さして言葉を続けた。
「さあ、それじゃああんたと、あんた。名前は?」
「あ、私はジャン・カエルです」
「エミル・スタインです」
「いいわ。ジャン、そしてエミル。二人は留守番をしてちょうだい。セルドン、あんたは私についてきなさい」
「えっ? 私はなぜ……」
「こう見えて、私は追放された身分なのよ。ベインを通行証代わりに使ってもいいけれど、こういう場合は現役の騎士であるあんたを使い倒す方が、何かと都合がいいでしょう?」




