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#12.



この世界には、一見当然のようでありながら、意外にも多くの人々が知らない事実がいくつも存在する。


例えば、身に覚えのない罪をでっち上げ、無辜の民に断罪劇を働いたとき。

断罪される者よりも、断罪する者の方に、より大きな報いが返ってくるということ。


身の丈に合わない無茶な事業に手を出して破滅していく様を、傍らで嫌というほど見せつけられておきながら、全く同じ轍を踏む者がいるということ。


魔族とは堕落した人間の成れの果てであり、魔族が存在する限り、魔王はいつでも復活し得る存在であるということ。そういった類いの話だ。


パメラは、師匠が遺した蔵書の中から、魔王に関する記録が記された一冊の本を取り出した。


当然ながら、パメラは師匠の本をすべて何度も読み返している。内容の大部分はとうに頭の中に叩き込まれていたため、これは書かれた情報を探すというより、一種の答え合わせに近い行為だった。


「魔物は不浄の中から生じる存在。魔族とは不浄が伝染し、最終的に堕落した人間。魔王は、その堕落した人間たちの中で、最も世界を憎悪する者から形作られる」


魔王が復活する前には、必ず前兆となる現象が現れる。


出現するはずのない強力な魔物が出没したり、大規模なスタンピードが発生したり。あるいは、低級の魔物が有り得ないほどの強大な力を得たりする、といった形で。


どれほど魔王が討伐され、世界に平和が訪れようとも、魔王はいつか必ず復活する。逆に、魔王が人類を支配したとしても、いつか現れる勇者によって首を跳ねられる。


魔王は永遠不滅の存在であり、その不浄な存在を抑え込むかのように、勇者もまた、誰もがなり得る永遠不滅の存在として確立されているのだ。


数百、数千年の間、繰り返されてきた終わりのない悪縁。勇者が勝とうが魔王が勝とうが、結局のところ、平和とは一時的なものに過ぎない。


魔王が討伐されてから、まだ四年。理論上、魔王が復活することが不可能なわけではない。


「けれど……今回のケースは、ただの偶然と片付けるのが妥当かしら?」


偶然である可能性がゼロなわけではない。たまたま魔王城の周辺を探索していた冒険者が、蔓型の魔物の標的にされ、追いつ追われつしているうちに、偶然この近辺まで転がり込んできた。何らかの理由でその冒険者は命を落とし、取り残された魔物がこの一帯に根を下ろした。そういう確率が完全にゼロだとは言い切れないのだから。


もっとも、これを偶然で片付けるには、あまりにも多くの奇跡が重ならなければならず、到底辻褄が合わなかった。

問題は、魔王の復活という線もまた、前後の脈絡が通らないということだ。


勇者であれ魔王であれ、どちらか一方が勝利を収めれば、かなり長い期間にわたって世界が平和を保つのは、ある種の暗黙の了解だった。現に、数百年に及ぶ歴史の中で、魔王が連続して出現したという記録は存在しない。


人間がどのようにして魔族になるのか、魔族がどのようにして魔王へと覚醒するのかは、未だ解明されていない。


ただ、勇者がまだ健在で、魔王が討伐されてから大して月日も流れていないというのに、もう次の魔王が現れた? いくらなんでも話が出来すぎている。


もちろん、何が有り得ないのかと問い詰められれば、言葉に詰まる。ただ……。


「何かが決定的に違う気がするのよね。時代の潮流、とでも言うのかしら?」


思考を巡らせているうちに、だんだんと頭が痛くなってきた。パメラは本を再び本棚へと戻し、ベッドへと身を投げ出した。


「あぁ、もう分からないわ。何事も起きなかったんだから、ただの偶然ってことにしましょう」


早起きをしたうえに、不味い料理をこれでもかと胃袋に詰め込んだせいだろうか、朝から異様なほど身体が重かった。特に眠るつもりなどなかったというのに、パメラは瞬く間に深い眠りへと落ちていった。



***



パメラは夢を見ていた。

これが夢であると自覚できた理由は単純だった。彼女の目の前を、まだ幼さの残る顔立ちをした自分自身が歩いていたからだ。容姿や髪の長さから推測するに、王都から追放されて半年ほどが過ぎた頃だろうか。


当時、パメラは「金を溶かして染め上げた」とまで謳われた、あの美しく艶やかだった長い髪を、うなじが露わになるほど短く切り落として生活していた。


大層な理由があったわけではない。毎日のように髪を洗うこともできず、まともな石鹸や香油すら存在しない平民の暮らしにおいて、長く美しい髪を維持するのは贅沢でしかなかったため、効率を重視して切り捨てた結果だった。


(やっぱり、短い方が動きやすそうね。ええ、あれなら不細工と言われるほどでもないし、また切っちゃおうかしら)


妙に客観的な視線で過去の自分を眺めていると、彼女が歩いている道がどこなのか、そしてこの後に何が起きるのかが鮮明に思い出された。


三年前のパメラは、現在暮らしている南西の国境地帯ではなく、カマリードの東方にある小さな村に身を寄せていた。路銀も持たされずに追い出されたため、王都から遠く離れることができなかったのだ。


おそらく、師匠に拾われて間もない頃の出来事だろう。師匠に頼まれて、少し離れた場所まで採集に出かけたときのことだ。


(そう。ここはアイストの森よ。王都を取り囲むように広大に広がる、弱い魔物しか出没しない森)


剣術の稽古も兼ねて、森の中で数日間にわたり野営を敢行していた。いつもと変わらない日常。いつもと変わらない採集。


異なっていた点がたった一つあるとすれば――魔王が復活する、その直前であったということだけ。


いつも通りの森で、いつもとは決定的に異なる魔物と遭遇した幼いパメラは、完全にパニックに陥っていた。


師匠から教わった剣術など何一つ思い出すことができず、パメラよりも数段階は上のランクにあるであろうその魔物は、既に彼女を格好のおもちゃとして認識していた。


ここで死ぬのだろうか。このまま、何の復讐も果たせないまま朽ち果てるのか。


当時のパメラは、死の恐怖よりも、復讐を遂げられないという事実に対して、より深い憤怒と恐れを抱いていた。何としてでも生き残る。何があろうと生き延びてみせる。


そう決意して両目を見開き、自分の頭部へと振り下ろされる魔物の前足をキッと睨みつけた。


その腕が肉片となって飛び散ったのは、パメラの頭が叩き潰される、ほんの寸前のことだった。


誰かが彼女を抱き上げ、赤く染まっていく視界の向こうで、きらきらと輝く灰色の髪が見えた。


遅くなりました! すみません!

この作品は完結まで連載していきますので、今日からまたガシガシ書いていこうと思います。

お読みいただきありがとうございました。

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