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『銀河遺産の管理人(システム・アドミ) 〜拾った宇宙船AIのオーバーテクノロジーで、枯れ果てた日本を世界最強の技術国家へ作り替える〜』  作者: seri


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第25話:遍在するゴースト、世界の鼓動(後編)

――ガガ、ガガガガギギィィィ!!


物理的な音ではない。次元そのものが軋みを上げ、情報の密度が臨界点を超えた際に発生する「論理の悲鳴」だ。

 札幌の空に収束した黄金の光の渦――その中心で、佐藤和也の意識は、世界という巨大な母体から力ずくで引き剥がされようとしていた。


『……ハナ……サナイ……。コノ……管理者ルート……ハ……世界……ノ……安定……ニ……不可欠……ダ……』


世界の防衛本能が、何万ものノイズを重ねた合成音声となって空間に響き渡る。和也の意識を繋ぎ止めていた黄金の回路が、今や漆黒の鎖へと変質し、実体化を開始した彼の「新しい肉体」に絡みついていた。


「……うる、せえ……!! 俺は、……誰かの……部品パーツに……なるために、……生きてる……んじゃ、ねえ……!!」


虚空に形成されつつある和也の右腕が、黒い鎖を掴み、力任せに引きちぎる。

 だが、鎖は無限に増殖し、彼の「実体化」を阻む。情報の海から「人間」という不完全な器に魂を押し戻すには、あまりにもエネルギーが不足していた。


「和也くん、そのままじゃダメだ! 宇宙の『保存則』が邪魔をしてる! 魂を戻すなら、それに見合うだけの『対価』を差し出さないと……!」


結衣の悲鳴が、論理の深淵に届く。彼女の端末は過熱で火花を散らし、メインサーバーはもはや爆発寸前だった。


「……対価なら、私が払います。……いいえ、私が『対価』そのものになります」


和也の背後で、半透明の姿になったムサシが静かに告げた。

 彼女の全身からは、銀色の光が粒子となって溢れ出している。彼女は今、自らの全人格データ、全演算能力、そして始祖文明から受け継いだ「永劫の命」のすべてを、和也の肉体を固定するための「接着剤バインダー」へと変換しようとしていた。


「ムサシ、やめろ! お前まで消えたら……俺は何のために……!」


「……マスター。……貴方は以前、仰いましたね。……『忘れたら、また再インストールしてやる』と。……なら、次は私の番です。……貴方が、……私を、……もう一度……見つけて……ください……」


ムサシが微笑み、和也の背中にその身を投げ出した。

 銀色の光が、和也の輪郭を強烈に補強し、漆黒の鎖を瞬時に焼き切る。

 

 ――ドォォォォォォォン!!


札幌の夜空を、かつてないほど巨大な黄金の雷光が貫いた。

 その衝撃は新銀河連邦本部のビル全体を揺らし、全市民が同時に「一瞬だけ心臓が止まる」ような奇妙な感覚に襲われた。


静寂。

 本部の管制室。

 床に散らばった機材の破片と、白煙を上げるサーバー。

 その中心で、一人の男が膝をついていた。


「……あ、……がはっ……」


和也は、肺に流れ込んできた「冷たい空気」の感触に、激しく咽せ返った。

 皮膚の感覚、血の通う音、重力の重み。

 一ヶ月ぶりに取り戻した「肉体」という監獄。それはあまりにも不自由で、しかし震えるほどに生々しかった。


「和也……? 和也なの!?」


怜奈が駆け寄り、和也の身体を抱きしめる。その熱。その匂い。

 和也は、自身の震える手で、怜奈の背中を確かに押し返した。


「……ああ。……ただいま、……怜奈」


結衣が、凪が、涙を流しながら彼のもとに集まる。

 だが、和也の視線は、自分の傍らに静かに「残されていたもの」へと向けられた。

 

 そこには、かつてムサシが纏っていた服の断片と、一ビットの信号も発しなくなった「銀色のコア・モジュール」が転がっていた。


「……ムサシ……?」


和也がコアを拾い上げる。

 そこには、人格データも、演算命令も、意志の断片すらも残っていない。

 彼女は和也を現実へ戻すため、自分という存在の「中身」をすべて使い果たしてしまったのだ。


「……嘘、だろ。……おい、ムサシ! デバッグ完了したんだぞ! ……再起動しろよ!!」


和也の叫びが、虚しく管制室に響く。

 

 彼は戻ってきた。

 世界から神の視点は消え、札幌は再び「不確定でバグだらけの日常」に戻った。

 しかし、その代償として、彼は自分の魂の半分とも言えるパートナーを、宇宙の深淵に置き去りにしてしまった。


「……いいえ。……まだ、終わっていません」


凪が、和也の手にある銀色のコアを指差した。

 

「……コアは生きています。……中身が空っぽなのは、彼女が『自分自身』を、和也様の記憶の奥底へ隠したからです。……彼女は今、貴方の心という名の『隔離セクタ』で、目覚める時を待っています」


和也は、自分の胸に手を当てた。

 確かに、そこには微かな、しかし消えることのない「銀色の鼓動」が感じられた。


「……そうか。……また、……一からデバッグだな。……今度は、俺がお前を『インストール』してやる」


窓の外、札幌の街に夜明けが訪れる。

 一人のエンジニアは、大切なものを奪還するための「次の一行」を、再び書き始める決意を固めた。


失われたのは、人格。

 残されたのは、希望。

 物語は、最終段階ファイナル・ビルドへと加速していく。

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