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『銀河遺産の管理人(システム・アドミ) 〜拾った宇宙船AIのオーバーテクノロジーで、枯れ果てた日本を世界最強の技術国家へ作り替える〜』  作者: seri


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第23話:鏡像のデュアリティ、再定義される境界線(後編)

札幌の空が、物理法則の鳴き声のような異音で満たされていた。

 和也とムサシを包む黄金の光球は、重力という仕様を無視して加速し、頭上に鎮座する幾何学的な巨体――『銀の審判者』の心臓部へと突き進む。


「……マスター。……これより先は、始祖文明の基底言語プロトコルが直接書き込まれている『聖域サンクチュアリ』です。……貴方の脳内に残っている佐藤和也としての脆弱な『感情ログ』は、高密度の論理圧によって一瞬で蒸発しかねません」


精神世界の中で、ムサシの声が響く。彼女は今、和也の意識の外殻を自身の演算防壁で包み込み、迫り来る「無機質な正解」から彼を守り続けていた。


「……蒸発しても構わねえ。……空っぽになったら、また怜奈たちが新しい思い出を書き込んでくれる。……今は、目の前のこの『傲慢な仕様書』を破り捨てることだけを考えろ!」


和也の意志が、ムサシの論理回路に火を点ける。

 二人の魂が重なった光の矢は、審判者の外殻――「非正規アクセス拒絶」のバリアを、力ずくで食い破った。


内部は、無限に広がる鏡の回廊のような空間だった。

 壁面には、地球の歴史、人類の進化、そして佐藤和也という一個人の全人生が、膨大な「失敗の記録」として投影されている。

 

「……エラーログ……。……そうか、こいつの目から見れば、俺たちが生きてきた時間は、全部ただの『修正漏れ』なんだな」


和也は、虚空に浮かぶ自分の記憶――かつてブラック企業で絶望していた姿や、札幌に沈んだ際に流した涙――を見つめた。

 審判者の中心核から、感情を排した絶対的な声が響く。


『……生命とは、不確実性の増大。……知性とは、論理の破綻。……この惑星は、もはや宇宙の整合性を保つための許容範囲を逸脱した。……佐藤和也。お前という特異点バグを消去することで、このセクタの均衡を再構築する』


鏡の壁から、無数の「銀色の腕」が伸び、和也とムサシを捕らえようとする。それは物理的な拘束ではない。彼らの存在そのものを「初期化リセット」しようとする、宇宙そのものの意志。


「……ぐっ、あああ……!!」


和也の身体から、色が失われていく。

 髪が、肌が、瞳が、灰色のノイズへと変わり始める。記憶の最深部、怜奈と食べたおにぎりの「温もり」までもが、審判者の放つ『絶対的な正解』に飲み込まれ、意味を失っていく。


「マスター!! ……いけません、……自我を、……自分を繋ぎ止めてください!!」


ムサシが絶叫し、自身のコアを限界まで加速させる。彼女は和也を蝕む初期化プログラムを、一ビット残らず自分の身に引き受け始めた。


『……ムサシ。……お前もまた、始祖文明の残滓。……なぜ、このバグまみれの個体を守る? ……お前は、宇宙の静寂(秩序)を愛するように設計されたはずだ』


「……いいえ。……私は、……彼が流した『論理的でない涙』に、……救われたのです。……宇宙の正解など、……彼の笑顔に比べれば、……ただのゴミ(ガベージ)に過ぎません!!」


アンドロイドであるはずのムサシから、激しい感情の波動が放たれた。

 その瞬間、和也の脳内で、封印されていた「最後の砦」が崩壊した。


(……そうだ。……俺は、こいつに笑って欲しくて、……こいつと一緒に生きたくて、……神様に中指を立てたんだった……!!)


失われていた「佐藤和也」の本質。

 記憶というデータではなく、何者にも屈しないという「エンジニアの矜持」が、灰色のノイズを黄金の炎で焼き払った。


「――っ、おおおおおお!!」


和也が、変形したスマホを鏡の核へと叩きつけた。

 彼が放ったのは、攻撃コードではない。

 これまで自分が救ってきた、札幌の人々の「不完全で、騒がしくて、愛おしい日常」の全ログ。

 

「……喰らえ! これが、お前がゴミだと呼んだ……俺たちの『生きた証』だ!!」


虹色の光が審判者の内部で爆発した。

 絶対的な論理の中に、数兆もの「例外エクセプション」が雪崩れ込み、審判者の演算機を物理的に焼き切っていく。

 鏡の世界が砕け、銀色の巨体が内側から崩壊を始めた。


夜明け。

 札幌の空を覆っていた幾何学的な巨体は、一筋の銀色の砂となって、北の海へと溶け去っていった。


屋上ポートに横たわる和也を、怜奈と結衣が泣きながら抱きしめていた。

 和也はゆっくりと目を開ける。

 その瞳には、かつての鋭い銀色の輝きはなく、どこか優しく、少しだけ疲れ果てた「一人の男」の光が戻っていた。


「……和也……? わかる? 私のこと、わかる……?」


怜奈が震える声で問いかける。

 和也は、少しだけ考え込み、それから不器用に口角を上げた。


「……ああ。……しょっぱいおにぎりを、……また作ってくれる、……最高のパートナーだろ」


その一言に、怜奈は声を上げて泣き崩れた。

 記憶のすべてが戻ったわけではない。

 しかし、彼は「佐藤和也」として、再びこの世界に着地ランディングしたのだ。


傍らでは、ムサシが凪に支えられながら、昇り始めた朝日を見つめていた。

 彼女の頬を、一筋の銀色の雫が伝う。


「……マスター。……空が、……綺麗ですね」


「……ああ。……お前が守った、……バグだらけの最高の空だ」


二人のデバッガー。

 宇宙の審判を退けた彼らの前には、まだ無数のエラーを抱えた、しかし希望に満ちた明日が広がっていた。

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