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『銀河遺産の管理人(システム・アドミ) 〜拾った宇宙船AIのオーバーテクノロジーで、枯れ果てた日本を世界最強の技術国家へ作り替える〜』  作者: seri


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第23話:鏡像のデュアリティ、再定義される境界線(中編)

――ビ、ビィィィィィィ……!!


耳鳴りではない。空間そのものが、巨大な音叉で叩かれたかのような高周波の振動。新銀河連邦本部の防振窓が、目に見えるほどの振幅で震え、屋外の景色を波立たせている。


和也、怜奈、ムサシの三人が屋上ポートへと駆け出すと、そこには既に凪と、端末を必死に叩き続ける結衣の姿があった。結衣の顔色は蒼白で、ゴーグルに投影されたログは、物理法則を無視した「未定義のオーバーフロー」を告げ続けている。


「……あれは、何?」


怜奈の声が震えていた。

 札幌の夜空。月さえも覆い隠すほどの巨大な「影」が、雲海を裂いて静かに下降してきていた。それは戦艦でも、衛星でもなかった。

 正四面体テトラヘドロンを組み合わせたような幾何学的な結晶体。表面には複雑な回路のような発光ラインが走り、その一つ一つが、地球上のどの言語にも属さない「神の言語プロトコル」で明滅している。


『……あれは、始祖文明の自動防衛プロセッサ――通称「銀の審判者シルバー・ジャッジ」。……宇宙の整合性が一定基準を超えて乱れた際、その原因となった惑星ごと「ガベージコレクション(一括消去)」するための……執行プログラムの物理実体です』


ムサシの瞳が、頭上の巨体と同調するように銀色に発光する。彼女の中に残る始祖文明の記憶が、その絶望的な正体を即座に定義した。


「ガベージコレクションだと……? 俺たちが、ゴミだって言うのかよ」


和也は、頭痛に耐えながら屋上の縁へと進み出た。

 「審判者」から放たれる論理圧は凄まじく、立っているだけで自我が散逸しそうな感覚に襲われる。だが、今の和也には、それを受け止める「器」が二つあった。

 人間としての怒りと、アンドロイドとしての演算能力。

 

「……結衣、本部の全演算リソースを俺に回せ! 凪、地上に『審判』の光が落ちないよう、重力刀で空間の歪みを斬り伏せてくれ!」


「……了解! 和也くん、今いくよ! ……新銀河連邦、全クラスタ解放! 脳波同期シンクロ開始!」


結衣がコマンドを入力した瞬間、本部の建物全体が黄金の輝きを放ち、和也へと膨大なデータパケットを供給し始めた。

 和也の身体を、青白い放電が包む。


「……ぐ、あああああ!!」


意識が拡張していく。

 和也の視界は、もはや肉眼のそれを超えていた。札幌の街、人々の命の波形、そして頭上に浮かぶ巨大な「審判者」の内部構造までもが、透視されたソースコードのように脳内に流れ込んでくる。


「……マスター。……これ以上の深度アクセスは、貴方の『人間としての記憶セクタ』を完全に破壊します。……これからは、私が貴方の『論理演算ロジック』を受け持ちます。……貴方は、……『意志コマンド』だけを握っていてください」


ムサシが和也の背中にそっと手を添えた。

 その瞬間、和也の脳内で「二つの思考」が完璧に同期した。

 

 ――ダブル・ハッキング。

 

 一人が「管理者ルート」となり、もう一人が「実行(実行)」を担う。人間とアンドロイドが、一つのOSとして機能する究極の並列処理。


「……行くぞ、ムサシ! 宇宙のゴミ箱に、俺たちのログを放り込ませるわけにはいかねえ!」


和也が右手を天に掲げた。

 彼の手に握られたスマホが、変形メタモルフォーゼを開始する。始祖文明のパーツを吸い込み、巨大な「論理の槍」へと形を変えたデバイスが、銀色の審判者に向けて黄金の閃光を放った。


――ドォォォォォォォン!!


空中で、光と光が衝突し、札幌の夜が昼間のような白銀の世界に染まる。

 物理的な爆発ではない。それは、宇宙の「仕様」を巡る、言語と言語の激突。


「……会長! 次が来ます!」


凪が重力刀を抜き放ち、審判者から零れ落ちた「消去パケット」の断片を、空間ごと両断する。

 だが、審判者は無傷だった。

 それは単なる機械ではない。全宇宙の「正解」を保持する、絶対的な規範。


「……佐藤和也……および、非正規アンドロイド、ムサシ」


空間を震わせて、審判者の意思が届く。


「……お前たちは、システムの均衡を著しく損なう『例外エクセプション』である。……宇宙の安定のため、このセクタを『初期状態デフォルト』に還元する」


審判者の頂点が開き、札幌全域を、いや地球そのものを一撃でフォーマットするほどの巨大な論理爆弾が、チャージを開始した。


「……デフォルトに戻すだと? ……お前たちみたいな『完璧なプログラム』には、一生かかっても分からねえよ……」


和也の口角が、不敵に上がった。

 彼の瞳は、もはや人間のものではない。だが、その瞳に宿る「反骨心」だけは、かつてブラック企業で不条理な仕様変更に中指を立てていた、あの佐藤和也そのものだった。


「……バグがあるから、世界は面白いんだ。……ムサシ、準備はいいか! 宇宙の根幹カーネルを、俺たちの手で『書き換え(パッチ)』てやる!!」


和也とムサシ。二人の魂が重なり合い、絶望の空へと跳ね上がった。

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