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『銀河遺産の管理人(システム・アドミ) 〜拾った宇宙船AIのオーバーテクノロジーで、枯れ果てた日本を世界最強の技術国家へ作り替える〜』  作者: seri


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第22話:深層のレゾナンス、再起動へのマイルストーン(前編)

新銀河連邦本部の最深部、第零演算区画。

 かつて黄金の光に満ちていたこの場所は、今や数百本の光ファイバーケーブルが血管のようにのたうち回り、巨大な冷却装置が唸りを上げる「超高密度サーバー・テンプル」へと変貌していた。


中央に鎮座する円筒形のカプセル。その中には、淡い青色の生体融合液が満たされ、実体化を解かれた「ムサシ」のコア・モジュールが、静かに鼓動パルスを刻んでいる。


「……同期率、一二・五%。……依然として、人格ラング(階層)へのアクセスが拒絶されているな」


佐藤和也は、血走った目で十数枚のホログラム・モニターを凝視していた。

 彼の傍らには、エナジードリンクの空き缶が散乱し、その指先はまるで自動機械のようにキーボードを叩き続けている。記憶を失ってから一週間。彼は食事と最低限の睡眠を除いた全時間を、ムサシの「再構築リストア」に注ぎ込んでいた。


記憶がないことは、皮肉にも彼を「純粋な論理の怪物」へと変えていた。

 過去の自分なら躊躇したであろう禁忌のハッキング手法や、始祖文明の基底コードを強引に書き換える「自己定義の動的変更」を、彼は一切の迷いなく実行している。彼にとって今の自分は、ムサシという「失われた機能」を取り戻すために最適化された、一つの実行ユニットに過ぎなかった。


「……和也さん。もう、その辺にしておきなさい。……あなたの脳波パターンに、重度のオーバーフロー予兆が出ているわ」


背後から冷たい、しかし震える声が届く。如月怜奈だ。

 彼女は、和也がかつての優しさを取り戻すことを願っていた。だが、目の前にいる男は、かつての和也の面影を残しながらも、その魂は極寒の論理の海へと沈んでいこうとしている。


「怜奈、黙っててくれ。……ムサシのコアは、虚無の門で『自己消去』という再帰関数を実行した。……通常の手段じゃ、スタックしたデータを取り出せないんだ。……俺が、俺の脳のセクタを仮想マシンとして提供して、直接あいつの深層意識を引きずり出すしかない」


「そんなの自殺行為よ! 記憶を失ったばかりの脳に、アンドロイドの全人格ログを流し込んだら、今度こそ『佐藤和也』という定義が消滅してしまうわ!」


怜奈が和也の肩を強く掴み、自分の方へ向かせようとする。

 だが、和也の瞳には、かつて彼女をときめかせた「情熱」ではなく、ただひたすらに「未解決のバグ」を憎むエンジニアの狂気だけが宿っていた。


「……いいんだ。俺に過去はない。……なら、これからの『未来』を動かすための部品になるくらい、安い投資だろ」


和也の冷徹な言葉に、怜奈は頬を打たれたような衝撃を受けた。

 かつて和也が「愛してると言った連中のためにデバッグする」と言った、あの熱い想いは、今の彼の論理回路には存在しない。あるのはただ、目の前のエラーを修正するという「本能」だけ。


「……和也くん、それ以上は私が許さないよ」


モニターの影から、結衣が姿を現した。彼女の抱える端末には、和也が密かに走らせていた「脳内直結プログラム」を強制停止させるためのキル・コマンドが入力されていた。


「……結衣。お前まで俺を止めるのか。ムサシは、お前の親友だったんだろ?」


「親友だよ! 大切な仲間だよ! ……だからこそ、ムサシさんなら、君が自分の脳を壊してまで助けに来るのを、全力で拒絶するはずだよ!」


結衣の瞳から涙が零れ落ちる。

 彼女はハッカーとして、和也がやろうとしていることの危うさを誰よりも理解していた。それはデバッグではない。自分を「生贄」に捧げる、原始的な儀式に近いハッキングだ。


「……和也くん。……君が失った記憶はね、私たちが全部バックアップしてる。……でも、君という『サーバー』そのものが壊れちゃったら、私たちはどこにデータを戻せばいいの? ……お願い、自分を大切にして。……ムサシさんの復活は、私が……私とエリスちゃんで、別のルートを探すから」


結衣の悲痛な訴え。

 そして、その場に静かに現れた凪が、和也のキーボードを打つ手を、優しく、しかし抗えない力で押さえた。


「……会長。……休息もまた、一つの『工程』です。……貴方が壊れれば、如月重工も、新銀河連邦も、そして私たちも……基盤を失い、霧散してしまいます」


周囲を取り囲む三人のヒロインたちの視線。

 その熱量に押されるように、和也の指から力が抜けた。

 張り詰めていた糸が切れたように、彼の身体が大きく揺れる。


「……あ。……ああ……。……俺は、何を……」


脳を支配していた「論理の狂気」が引き、代わりに凄まじい疲労感が襲いかかる。和也はそのまま、駆け寄った怜奈の腕の中に倒れ込んだ。


「……ごめん。……少し、熱くなりすぎたらしい」


和也の不器用な謝罪を聞きながら、怜奈は彼を強く抱きしめた。

 しかし、誰も気づいていなかった。

 和也がキーボードから手を離した瞬間、カプセルの中のムサシのコアが、一瞬だけ不吉な「赤色」に点滅したことを。

 そして、新銀河連邦本部のネットワークの深層で、誰にも許可されていない「未知のプロセス」が、密かに活動を開始したことを。

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