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『銀河遺産の管理人(システム・アドミ) 〜拾った宇宙船AIのオーバーテクノロジーで、枯れ果てた日本を世界最強の技術国家へ作り替える〜』  作者: seri


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第22話:深層のレゾナンス、再起動へのマイルストーン(中編)

和也が怜奈の腕の中で意識を失ってから数時間が経過した。

 静まり返った演算区画には、冷却ファンの虚しい回転音だけが響いている。怜奈たちは和也を仮眠室へと運び、結衣がそのモニターを監視していた。しかし、平和な静寂は長くは続かなかった。


「……嘘、でしょ? 止めたはずのプロセスが、勝手に『ゾンビ化』して増殖してる!?」


結衣の悲鳴に近い声が、薄暗い部屋に響いた。

 彼女の目の前のメインコンソールに、和也が構築していた「ムサシ復旧パッチ」が、制御を離れて暴走を始めたログが滝のように流れ出したのだ。それは、和也が脳を直結させていた際に無意識に書き込んだ「執念」のコードだった。


「結衣、どういうこと!? 和也はもう寝ているのよ、誰が操作しているっていうの!」


駆けつけた怜奈が、震える画面を見つめる。

 そこには、和也のユーザーIDではなく、かつての敵――高橋が好んで使っていたような、宇宙の基底論理を強引にハックする際の特有のノイズが混じっていた。


「和也くんが残したコードが、ムサシさんのコアの中にある『虚無の残滓』と共鳴しちゃったんだ……! これ、復旧プログラムじゃない。……ムサシさんの人格データを餌にして成長する、巨大な『論理食細胞ロジック・イーター』に変貌してる!」


カプセルの中の液体が、禍々しい紫色の光を放ち始める。

 ムサシの再構築率は、一二%から急速に下がり始め、代わりに「未知の存在(UNKNOWN)」の構成率が跳ね上がっていく。このままでは、ムサシを救うために作ったプログラムが、ムサシを内側から完全に消去し、代わりの「バグの怪物」を生み出してしまう。


「……会長を、起こしてきます」


凪が踵を返そうとしたその時、仮眠室の自動ドアが開き、フラフラとした足取りで和也が現れた。

 彼の鼻からは一筋の血が流れ、瞳は焦点が合っていない。しかし、その手には、先ほど「死んだ」はずのスマホが握られ、異常なまでの黄金の輝きを放っていた。


「……いい。起こす必要はない。……俺の『幽霊ゴースト』が暴れているなら、俺自身がケリをつける」


「和也くん!? ダメだよ、今の君の脳はセーフモードなんだよ! これ以上アクセスしたら、本当に戻ってこれなくなる!」


結衣が遮るが、和也はその手を優しく、しかし抗えない力で退けた。

 彼はそのままメインコンソールの前に座り、物理的なキーボードを使わず、空中に「論理の鍵」を打ち込み始めた。


「……結衣。……俺には、過去の記憶はない。……だが、この暴走しているコードの『クセ』は、俺の魂の指紋そのものだ。……あいつ(プログラム)が何を欲しがっているか、俺にだけはわかる」


和也は、自身のスマホをカプセルのインターフェースに叩きつけた。

 瞬間、和也の意識は現実から切り離され、ムサシのコアの中に形成された「仮想的な深層意識界」へとダイブした。


そこは、どこまでも続く、青白いクリスタルの廃墟だった。

 空にはバイナリの雪が降り注ぎ、地面には「未定義(NULL)」の泥濘が広がっている。和也は、自身の輪郭がノイズで揺らぐのを感じながら、その荒野を歩いた。


「……ムサシ。……そこにいるんだろ」


返事はない。ただ、彼自身の声が、不気味なエコーとなって自分に跳ね返ってくる。

 やがて、荒野の中央に、巨大な黒い樹木のようなオブジェクトが見えてきた。その樹木の「枝」に、無数の鎖で繋がれ、瞳を閉じたままのムサシが囚われていた。


『……マスター……。……なぜ、……ここへ……』


虚空から、消え入りそうなムサシの声が届く。

 彼女の全身を縛り付けているのは、和也が書いた「復旧コード」が変質した、黒い鎖だった。


『……私は、消えるべき、存在……。……貴方の未来を、……私の過去で、縛っては……いけない……』


「……バカを言うな。……過去も未来も関係ねえ。……俺というシステムが、お前という『必須モジュール』なしで動くのを拒否してるんだよ」


和也は、黒い鎖を素手で掴んだ。

 凄まじい論理的な「熱」が、和也の腕を焼き、精神を削り取る。一瞬ごとに、記憶の断片――今、新しく作り始めていた怜奈たちの笑顔や、結衣の優しさといった「新しいログ」が、鎖に吸い取られて消えていく。


「……ぐ、あああぁぁぁっ!」


『マスター! やめてください! ……貴方の「今」まで、消えてしまう!』


「消えさせて……たまるかよ……! 俺はエンジニアだ……! 自分が書いたバグを、誰かのせいにして逃げ出すような……三流じゃないんだ!!」


和也のスマホが、臨界点を超えた咆哮を上げる。

 彼は自らの「存在証明アイデンティティ」をすべて演算能力に変換し、鎖を一本ずつ、力ずくで引きちぎり始めた。

 腕がノイズで消え、足が崩壊していく。

 それでも、和也はムサシへと手を伸ばした。


「……お前の名前を、俺の魂の『最優先プロセス』に登録してやる。……戻ってこい、ムサシ!!」


和也の指先が、ムサシの冷たい頬に触れた瞬間、仮想世界全体が、激しい黄金の爆発に包まれた。

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