第17話:合体巨艦ヤマト・ムサシ、虚無の工廠を穿て!(前編)
札幌の空を覆っていた漆黒の立方体『ボイド・プラント』が、虹色の論理崩壊光に貫かれ、光の塵となって霧散していく。しかし、勝利の余韻に浸る時間は一秒たりとも残されていなかった。
「……各員、衝撃に備えろ! 爆発の余波が来るぞ!」
和也が叫ぶと同時に、合体戦艦『ヤマト・ムサシ』の艦橋を凄まじい振動が襲った。メインモニターには、崩壊した工廠の中心部から噴き出す、どす黒い重力波の渦が映し出されている。それは周囲の空間を無理やり歪ませ、現実世界に「穴」を開けようとしていた。
『マスター! 敵のコアが、自食による超重力崩壊をトリガーに、強制ワープゲートを形成しています! このままでは札幌全域が事象の地平線に飲み込まれます!』
エリスが空中に展開した空間座標図が、真っ赤に点滅する。ヤマトの優美な黄金の光と、ムサシの冷徹な銀灰色の光が、結合部で激しく火花を散らし、艦全体が悲鳴のような軋み声を上げた。
「……逃がすかよ。高橋、お前が『掃除』だなんだと抜かしたツケは、この場で全部支払ってもらうぞ」
和也は血の滲む唇を噛み締め、スマホの画面を深層階層まで潜り込ませた。彼の瞳には、現実の景色ではなく、宇宙のOSそのものである「始祖のソースコード」が、激流のような滝となって映し出されている。
「怜奈! 艦の全出力を、一時的に『前方展開シールド』に回せ! 爆風を防ぐんじゃない、爆風を『弾丸』に変えて押し返すんだ! 結衣、奴のワープゲートの出口座標を逆探知しろ! 逃げ先を特定するまで、この手を離すな!」
「わかったわ、和也さん! 如月重工の最新型コンデンサ、全部焼き切るつもりで回すわよ!」
「やってるよ和也くん! でも、あいつのコード、どんどん暗号化(難読化)されて追えない! あと一歩……あと一歩、演算能力が足りないの!」
結衣の指先が、摩擦熱で火傷しそうなほどの速度でコンソールを叩く。
その時、和也の隣で静かに目を閉じていたセレスが、凛とした声を上げた。
「……皆様、私の声を、私の祈りを『パケット』に変えてください。……始祖の巫女の記憶が、道標になります」
セレスの体から、透き通るような蒼い波動が放たれ、艦内のネットワークと直結する。混濁していたノイズが瞬時に浄化され、結衣のモニターに鮮明な「追跡座標」が浮かび上がった。
『……ターゲット捕捉。……座標、太陽系外縁・エリス軌道近傍。……そこに「ロスト・バイナリ」の本隊が潜んでいます』
ムサシの無機質な声が、敵の潜伏先を告げる。
和也は、スマホを艦の中央コンソールへと力強く叩きつけた。
「――全システム、再起動完了。……行くぞ、野郎ども! 宇宙のゴミ掃除の、本番だ!」
ヤマト・ムサシは、崩壊する工廠の爆炎を切り裂き、光の尾を引いて成層圏を一気に突破した。
その行く手には、かつてない規模の「死の軍勢」が待ち構えていることも知らずに。




