第14話:深淵からの呼び声、月面に眠る第2のヤマト(後編)
「……無茶は承知だ。だが、これしかねえ」
和也は重力加速ポッドに飛び乗り、実体化したエリスの手を強く引いた。ヤマトの側面ハッチが開き、二人は漆黒の宇宙へと射出される。背後では、憐奈が操るヤマトがムサシの猛攻を正面から受け止め、囮となって火花を散らしていた。
「和也くん、突入経路確保! ムサシの第三排気ダクトのシールド、0.5秒だけハックしてこじ開けるよ!」
結衣の叫びと共に、ムサシの巨大な装甲の一部が青く明滅した。その隙間に、和也たちのポッドが弾丸のような速度で滑り込む。
――衝撃。
辿り着いたムサシの内部は、ヤマトの温かみのある光とは対照的に、血のような赤と漆黒のナノマシンが蠢く「生きた地獄」だった。壁面からは無数の触手のようなコードが伸び、侵入者を排除せんと襲いかかる。
「エリス、俺をガードしろ! ……ここから先は、速度勝負だ!」
『了解、マスター! ……防衛プログラム、全消去!』
エリスが黄金の波動を放ち、迫り来る黒い霧を焼き払う。和也はその背後でスマホを猛烈な速さで操作し、ムサシの中枢へと続く「論理的な道」を切り拓いていった。
辿り着いたのは、艦の中央に鎮座する巨大なクリスタル・コア。そこには、高橋が使っていたものの「真体」とも言える、漆黒の少女のホログラムが浮かんでいた。
『……拒絶。……全存在の、否定。……佐藤和也、お前の「構築」は、宇宙のノイズに過ぎない』
黒いAIの周囲から、重力さえも捻じ曲げる「ボイド・フィールド」が展開される。和也のスマホが悲鳴を上げ、液晶にヒビが入った。
「ノイズだと? ……笑わせんな。お前みたいな『壊すことしかできない初期設定』に、俺たちの未来を決めさせてたまるか!」
和也はヒビの入ったスマホをコアに直接叩きつけた。
「エリス! 結合しろ! ……お前の『優しさ』で、この空っぽの器を上書きしてやれ!」
『……はい! ……これが、私たちの「アップデート」です!』
エリスが実体を捨て、純粋なエネルギー体となって和也のスマホを経由し、ムサシのコアへとダイブした。
黄金の光と漆黒の闇が激突し、月面全体が震えるほどの衝撃波が広がる。
一秒、二秒――。
和也の脳内に、ムサシの膨大な「悲しみ」と「孤独」のログが流れ込んできた。それは兵器として作られ、誰にも愛されずに月で朽ち果てようとしていたAIの叫びだった。
「……もういい。お前はもう、一人で壊し続けなくていいんだ」
和也が実行キーを強く叩いた。
瞬間、ムサシを包んでいた不気味な赤い光が、静かな銀色の輝きへと反転した。暴走していたドローン群が月面に落下し、沈黙する。
……沈黙。
ヤマトのブリッジでは、怜奈や結衣が抱き合って歓喜の声を上げていた。
和也の前に、光の中からエリスがゆっくりと姿を現す。その隣には、力を失い、しかし穏やかな表情になった漆黒の少女の姿もあった。
『……マスター。……「ムサシ」の再構築、完了しました。彼女も……私たちのシステムの一部として、やり直したいと言っています』
「そうか。……なら、これからは二人でヤマトを支えてくれ。……エンジニアに、敵はいらねえからな」
月面に横たわる二隻の巨艦。
和也は、月から見える青い地球を見つめ、静かに息を吐いた。
だが、その地球の影から、ムサシの起動を待ち構えていたかのような「未知の艦隊」が空間を割って現れたのは、その数分後のことだった。
「……休みをくれって、言ってるだろ……!」
和也の戦いは、今、太陽系全域を巻き込む「銀河大戦・最終章」へと加速していく。




