第14話:深淵からの呼び声、月面に眠る第2のヤマト(中編)
漆黒の宇宙空間。月面のクレーターから湧き出した「赤い光」の群れが、ヤマトの黄金のシールドを激しく叩く。それはかつての帝国艦隊のような組織的な攻撃ではなく、獲物を食らう「電子の蝗」のような狂暴なドローン群だった。
「――主砲、斉射! 凪、迎撃機隊を率いて出ろ! 一機も懐に入れるな!」
「了解! ……会長、道は私が切り拓きます!」
ヤマトのカタパルトから、始祖技術で強化された凪の専用機が、流星のような軌跡を描いて飛び出す。彼女の操る重力ビットが、赤いドローンたちを次々と圧壊させていくが、敵の数は一向に減る気配がない。
『マスター、解析完了。……敵のドローンは、月面の砂をナノマシンでその場で再構成して増殖しています。……このままでは、ヤマトのエネルギーが底を突きます!』
実体化したエリスが、焦燥の色を滲ませて報告する。
和也はスマホの画面を凝視し、月面のクレーターの中央——「静かの海」の底に沈む、巨大な影の輪郭を捉えた。
「……やっぱりな。あいつが親玉だ」
月の地表を割り、姿を現したのは、ヤマトの優美な曲線美とは対照的な、鋭角で凶悪な装甲を持つ漆黒の巨艦だった。その全長はヤマトを凌駕し、艦首には巨大な「負のエネルギー」が渦巻いている。
「あれは……始祖文明の軍事制圧艦『ムサシ』。……私の記憶にある、終わりの象徴……」
セレスが震える指でモニターを指差す。
ムサシの艦橋が不気味な赤色に明滅した瞬間、全通信回線にノイズ混じりの「声」が響き渡った。
『……エラー。不純物を検知。……定義を「不要」に変更。……これより、地球全域の「初期化」を開始する』
「初期化だと? 勝手なこと抜かすな!」
和也が叫ぶと同時に、ムサシの艦首から漆黒の熱線——ボイド・ビームが放たれた。ヤマトのシールドが限界まで軋み、警告音がブリッジに鳴り響く。
「憐奈、ヤマトをムサシの『懐』に潜り込ませろ! 結衣、月面のナノマシン工廠に直接、論理爆弾を流し込め! 増殖を止めろ!」
『無茶言わないでよ和也くん! あんな怪物に近づいたら、こっちの装甲が消滅しちゃう!』
「いいからやれ! ……エリス、俺を『ムサシ』の外部通信ポートに繋げ。……物理的に潜り込んで、中のOSを直接ハックしてやる」
『……! マスター、正気ですか!? あの中はボイドの塊ですよ!』
「エンジニアの仕事は、バグの根源を叩くことだ。……外から治せないなら、中に入る。……それだけだろ?」
和也はスマホを握りしめ、格納庫へと走り出した。
月面の静かな海で、始祖の遺産同士が激突する、史上最大のデバッグ作業が始まろうとしていた。




