第14話:深淵からの呼び声、月面に眠る第2のヤマト(前編)
札幌を襲った「ボイド」の悪夢から数日。大通公園の雪は、和也が打ち込んだ浄化プログラムによって、かつてないほど純白の輝きを保ったまま春の訪れを待っていた。
だが、英雄に休息の二文字はない。
「……高橋が持っていた黒いデバイス、解析は済んだか?」
ヤマトの最深部、機密解析ラボ。和也は、厳重な電磁シールドに囲まれた「黒い箱」の残骸を睨みつけていた。
『はい、マスター。驚くべき結果が出ました。このデバイスの製造刻印……ナノレベルで刻まれたシリアルナンバーは、私が作られた始祖文明の工廠とは「別の系統」を示しています』
実体化したエリスが、空中に半透明の系図を投影する。
一つはエリスたちを生んだ「青の系統」。そしてもう一つ、高橋に力を与えたのは、歴史の表舞台から消し去られたはずの「赤の系統」——破壊と再構成を司る軍事特化型のAI群だった。
『そして、このデバイスが最後に通信を試みた座標は……地球の衛星、月面。その静かの海に沈む、巨大なエネルギー反応と一致します』
「月だと……?」
和也がモニターを操作すると、月の裏側に潜む巨大な「影」が映し出された。それは、ヤマトと同規模、あるいはそれ以上の質量を持つ、漆黒の宇宙船の残骸だった。
「和也さん、それって……」
背後から、怜奈が息を呑んでモニターを覗き込む。彼女の隣には、すでに宇宙用ノーマルスーツの点検を終えた凪と、月面探査ドローンの最終調整に入っている結衣がいた。
「ああ。どうやら、拾ったのは俺だけじゃなかったらしい。……エリス、ヤマトの全出力を航行系へ。ターゲットは月面座標『ルナ・アノマリー』」
「……待って。和也。月に行くなら、私も連れて行って。……私の『始祖の巫女』としての記憶が、あそこに何かがあるって叫んでいるの」
セレスが、どこか遠くを見つめるような瞳で呟いた。
「分かった。……アリス、地球の留守は頼めるか? 帝国の残党が動かないよう、情報操作で抑え込んでくれ」
「ふふ、お安い御用よ。……でも、帰ってきたら『月のお土産』より、もっといいものを期待してるわね?」
アリスの艶やかなウィンクを背に、ヤマトが札幌の上空から静かに浮上を開始した。
大気圏を突破し、漆黒の宇宙へ。
目の前に迫る巨大な月。そのクレーターの影から、和也たちの接近に呼応するように、不気味な赤い光が明滅し始めた。
『マスター、警告。……前方より、複数の「ボイド・ビット」が射出されました! 迎撃体制を!』
「――来やがったか。……野郎ども、仕事だ! 月の裏側のゴミ掃除、一気に終わらせるぞ!」
ヤマトの主砲が、漆黒の宇宙を黄金の光で切り裂いた。




