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『銀河遺産の管理人(システム・アドミ) 〜拾った宇宙船AIのオーバーテクノロジーで、枯れ果てた日本を世界最強の技術国家へ作り替える〜』  作者: seri


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第12話:凱旋、そして札幌の雪まつりをハックせよ!(後編)修正版

――ズ、ズズ、ズゥゥゥゥン!!


大通公園の地下深くから、世界そのものが断末魔の叫びを上げているような重低音が響き渡る。

 さっぽろテレビ塔が、まるで見えない巨人に押し潰されるかのように、ゆっくりと、しかし確実に垂直方向へと沈み込んでいく。周囲のビル群は、基礎部分から「存在の定義」を失い、コンクリートがデジタル・ノイズとなって夜の闇に霧散していた。


「……ふざけるな。……沈むなら、沈ませてやるよ。……ただし、俺の決めた『深度』までだ!!」


和也の叫びと共に、スマホから放たれた黄金の光が、網目状の回路となって大通公園の四方へと広がっていく。

 それは沈没を力ずくで止めるための力ではない。物理的な地殻変動には逆らわず、代わりに沈みゆく札幌全体を一つの巨大な「仮想化サーバー」として再定義し、崩壊し続ける現実のレイヤーから論理的に切り離す――超大規模な『ライブ・マイグレーション(稼働中データ移行)』という、狂気じみたハッキングだった。


「怜奈、新銀河連邦本部の重力制御装置をオーバークロックさせろ! 結衣、札幌中の光回線をすべて『存在証明パケット』の転送路に回せ! 凪、ムサシ、沈む衝撃で人々の精神が焼き切れないよう、全市民の意識を一時的に仮想バッファで包み込め!」


「……ええ、わかったわ! 如月重工、全リソースを和也に捧げるわ! 落ちなさい、札幌! でも、その着地点は和也が作るわよ!」


怜奈が通信越しに絶叫し、本部のメインフレームが臨界点を超えた咆哮を上げる。

 和也の視界には、数百万人の命を示す光の点が、滝のようなログとなって流れ込んでいた。一人一人の名前、記憶、存在の重み。それらすべてを自分の脳という脆弱なプロセッサに通し、新しい「安全な階層」へと書き出していく。


「……ぐ、あああああ!!」


和也の目から血が溢れ、視界が真っ赤に染まる。脳細胞が、情報の激流に晒されて焦げ付くような異臭さえ感じられた。

 その時、巨大モニターの中の高橋が、驚愕と嘲笑の混じった表情で身を乗り出した。


「……馬鹿な、街一つを丸ごと、沈みながら『バックアップ』するだと!? 佐藤、お前の脳が保つはずがない! お前が救おうとしているのはデータじゃない、重さを持った『罪』そのものなんだぞ!」


「うるせえ……! 重いからなんだ、データが多いからなんだ! ブラック企業で一晩に一万件のバグを捌いてきた俺を、舐めるんじゃねえぞ……!」


和也の指が、血に濡れたスマホの画面を光速で叩く。

 黄金の光が臨界に達した瞬間、札幌の街全体を、見たこともないほど眩い光の繭が包み込んだ。


「……ムサシ、リンクを固定しろ! 凪、衝撃が来るぞ!」


「……承知。会長、一ミリも離しません!」

「……同期完了(チェックポイント作成)。マスター、地獄の底まで……お供します」


次の瞬間、札幌全域を、宇宙の誕生にも匹敵する衝撃波が貫いた。

 さっぽろテレビ塔が、大通公園が、そして逃げ惑う人々が――札幌の街並みそのものが、現実の地表から完全に姿を消した。


残されたのは、完璧なまでの円を描いた、直径数キロメートルに及ぶ漆黒の「穴」だけ。

 地上にいた観測者から見れば、札幌は一瞬にしてこの世から「消去」されたように見えただろう。


しかし、暗黒の深淵へと落ちていく「沈没」の渦中で、和也は戦い続けていた。

 周囲のビルが、空中でバラバラになりながらも、和也が放つ黄金の糸によって「形」を維持している。重力さえもが混濁し、上下の感覚が消えた世界で、和也は沈下速度をハックし、物理的な衝突ダメージを最小限に抑えるための演算を、コンマ数ミリ秒単位で繰り返していた。


「……結衣、着地点の座標、固定できたか!?」


『……できた! 地下三〇〇〇メートル、始祖文明の「セーフティ・バッファ」区画! あと一五秒で接地(着陸)するよ! 和也くん、今の出力じゃ……衝撃でみんなのデータが壊れちゃう!』


「……だったら、俺の『予備メモリ』を全部投げ打つまでだ! エリス、ムサシ、俺の全精神ログを防御に回せ! 俺が誰か忘れたって構わねえ、この街の『明日』だけは死守する!」


和也のスマホが、眩いばかりの青白い炎を上げた。

 それは、彼のエンジニアとしての矜持が、魂そのものを燃料にして燃え上がった光だった。


――ドォォォォォォォン!!


地下の底で、宇宙をも揺るがす着陸音が響く。

 沈みゆく札幌の街並みが、始祖文明の遺した広大な地下空洞へと、奇跡的なまでの精度で「着艦」したのだ。


激しい砂埃とノイズが静まり返る中、和也は膝をつき、力なくスマホを落とした。

 手足の感覚はない。思考も、霧の中に閉じ込められたように曖昧だ。

 だが、窓の外――地下に沈んだはずの札幌の街には、まだ、電気が灯っていた。

 逃げ惑っていた人々が、腰を抜かしながらも、お互いの生存を確認し合う声が、微かに聞こえてくる。


「……はぁ、はぁ、……デバッグ、成功……だろ……?」


和也が意識を失う直前、背後から怜奈が、そして凪と結衣が、泣きながら彼を抱きとめた。

 

 札幌は沈んだ。

 しかし、壊れてはいなかった。

 和也の手によって、この街は「現実」から切り離され、地下という名の巨大なサーバーへと、一時的に避難させられたのだ。


暗闇に包まれた地下の札幌。

 そこには、地上の誰にも見えない「雪まつり」の灯りが、まだ静かに、しかし力強く灯り続けていた。

 

 だが、和也たちはまだ知らない。

 この沈没そのものが、高橋が仕掛けた「第二段階」の始まりに過ぎないことを。

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