第9話:銀河の門(ゲート)、開戦の狼煙(後編)
ヤマトの広大な独房エリア。そこは拘置所というよりは、エリスの重力制御によって「物理法則すら和也が支配する」特殊空間となっていた。
膝をつく帝国の司令官——ゼノスの前に、和也は静かに立った。
「……信じられん。辺境の猿どもが、これほどの『始祖』の遺物を使いこなすなど。貴様ら、自分たちが何に触れたか分かっているのか?」
「『触れた』んじゃない。俺が『作り直した』んだよ」
和也がスマホを操作すると、ゼノスの目の前に帝国の軍事ネットワークが丸裸にされた状態で投影された。アリスがその横で、香水の香りと共に冷徹な笑みを浮かべる。
「ねえ、司令官閣下。貴方の母国では、失敗した指揮官にはどんな『ご褒美』が待っているのかしら? このまま地球の捕虜として、美味しい和食でも食べて余生を過ごす方が、幸せだと思わない?」
「くっ……殺せ! 帝国の栄光は揺るがない!」
「栄光、ね。……エリス、見せてやれ。こいつらが守ろうとしているものの正体を」
『了解です、マスター。……帝国の基幹サーバー、深層領域より抽出。……司令官、貴方が忠誠を誓う「皇帝」は、既に生身の人間ではありませんよ』
投影されたのは、機械の巨大な繭の中に閉じ込められ、銀河中の生命エネルギーを吸い上げて延命する「皇帝」の異形な姿だった。ゼノスの顔が絶望に染まる。
「そんな……。我々は、この怪物を守るために……」
その時、ヤマトの全ブリッジに緊急のアラートが鳴り響いた。
『緊急通信! 発信源は銀河中心部、反帝国組織「リベレイター」! ……マスター、映像を繋ぎます!』
メインスクリーンに映し出されたのは、燃え盛る戦艦のブリッジ。そこに立つ、ボロボロになりながらも気高い光を瞳に宿した、白銀の髪を持つ少女だった。
『――聞こえるか、未知の星の開拓者よ。私は反乱軍の指導者、セレス。……帝国が「禁断の兵器」を起動させた。このままでは数千の星系が消滅する。……エリス……私たちが放流したAIを受け継いだ者がそこにいるのなら……どうか、銀河の「明日」を救ってほしい!』
「エリス、あいつ……今、お前の名前を呼んだか?」
『……。マスター、私の元々の開発者は、彼女の一族です。彼女こそが、私が地球に落ちる前に最後に守りたかった人……。私の「本当のマスター」の娘です』
エリスの声が、人間のように震えていた。
和也は、横で控えていた凪、結衣、怜奈、そしてアリスの顔を順番に見つめた。彼女たちは、迷いのない瞳で頷いた。
「よし。……全艦、位相跳躍スタンバイ。ターゲットは銀河中心部、帝都星ケルヌンノス」
「和也さん、本気なのね? 日本の、地球の守護者から、銀河の救世主になるつもり?」
怜奈の問いに、和也は不敵に笑い、ヤマトの艦長席に深く腰掛けた。
「エンジニアの仕事は、バグ(帝国)を見つけたら、根こそぎ削除することだ。……行くぞ、エリス。俺たちが銀河のルールを書き換えてやる」
『了解、マイ・マスター! ……始祖エンジン、全開! 空間のカーテンを開きます!』
ヤマトが黄金の光に包まれ、木星の宙域から一瞬で消失した。
残されたのは、帝国の支配が終わる予感と、新たな神話の幕開けだけだった。




