第4話:不落の島、エネルギー革命(後編)
「……来たわね。予想より三分早いわ。アメリカ、それとも多国籍連合かしら?」
アリスが窓の外、夜の帳が下り始めた東京の空を見上げて呟いた。
レーダーには映らないはずのステルス爆撃機群。だが、エリスの「空間歪曲センサー」の前では、それらは泥の中を泳ぐ魚も同然だった。
『マスター。接近中の機体数は三十六。各機、巡航ミサイルをフルロードしています。目標は……このビル、および国内各地の主要変電所。彼らは「奇跡」を無かったことにするつもりです』
「……凪さん。迎撃準備だ」
和也が低く命じると、凪は短く「了解」と答え、無線を起動した。
「全自衛隊、および特別防衛区画の各ユニットへ。会長より『権限』が譲渡された。……これより、人類史上初の『重力防衛』を開始する。市民に被害を出すな。一発の着弾も許さない」
その瞬間、日本各地に設置された「和也製の街灯」や「中継タワー」が、一斉に蒼白い光を放ち、空に向かって不可視の波動を放射した。
上空一万メートル。
最新鋭のステルス機を駆るパイロットたちは、信じられない光景を目にしていた。
「……なんだ!? 操縦桿が動かない! 空間が……空間が『固まって』いるようだ!」
ミサイルを発射しようとしたその時、爆撃機群は目に見えない巨大な琥珀に閉じ込められたかのように、空中で完全に制止した。
慣性の法則を無視した完全停止。エリスが展開した『局所的空間固定』だ。
「結衣、仕上げだ。彼らに『技術の差』を刻み込んでやれ」
「おっけー! 全機、オートパイロットの権限奪取。……はい、お家に帰りなさーい!」
結衣がタブレットの画面をスワイプすると、停止していた三十六機の爆撃機は、一斉に反転。自分たちが飛び立ってきた母艦、あるいは基地へと強制的に送還される進路を取らされた。
兵器としての機能は全てロックされ、ただの「空飛ぶ鉄屑」として、彼らは自分たちの敗北を司令部へ持ち帰る役目を与えられたのだ。
「……信じられない」
アリスが呆然と呟く。
世界最強の軍事力が、一人の男が持つ「スマホ一つ」で無力化された。
銃声一つ響かない。だが、これほど残酷で圧倒的な敗北は歴史上に存在しないだろう。
「アリス。あんたの雇い主に伝えておけ。……日本はもう、奪われるだけの島国じゃない。これからは、俺たちが世界のルールを決める側だ、とな」
和也は窓から離れ、執務室の椅子に深く腰掛けた。
怜奈が温かいコーヒーを淹れ、和也の隣に立つ。結衣は満足げにコーラを飲み、凪は静かにドアの前で警戒を解かない。そして、アリスは複雑な表情で和也を見つめている。
「……さて。エネルギーは無料になった。外敵も追い払った。……エリス、次は何が必要だ?」
『マスター。次は「人」です。この圧倒的な技術を正しく運用し、世界に輸出するための組織……。いわば、地球連邦の雛形となる「新日本政府」の樹立を提案します』
「新政府か……。面白いな。……よし、明日から日本を丸ごと『アップデート』するぞ」




