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「……もういい」
低く、通る声だった。
村人たちの口論が、急に凍りついたように静まり返る。
焚き火を隔てた向こう側に、村長である杜宮誠の姿があった。
腕を組み、微動だにせず、暗がりの中でまっすぐ春人の方を見据えている。
「これ以上、議論を重ねたところで結論は出ない。そうだろう?」
ジロリと威圧感のある目つきで周囲を見渡す。
「私が責任を持って、下そう」
それは長としての“権威”ではなく、“決定”だった。
迷いのないその声音に、誰一人として口を挟むことができない。
誠は一歩、焚き火に近づいた。
炎の光が彼の顔を照らす。
その瞳には感情の揺れがなかった。ただ、冷静な判断を告げる者の目だった。
「和泉春人は、村の掟を破った。近づいてはならない神域に踏み入り、禁を犯した。たとえ子供であれ、その事実は消えない」
焚き火の炎がゆらゆらと揺れ、言葉の間を照らす。
「その罰は、たとえ子供であろうとも相応のものでなければならない。和泉春人には――この村を、離れてもらう」
まるで冷たい刃物を突きつけられたような、鋭い緊張が広がる。
春人の身体が、小さく震えた。
その震えを、父の腕が受け止める。
父は、表情を変えず、口も開かず、ただ強く春人を抱きしめていた。
「村を……追い出すのか……?」
ぽつりと誰かが呟いた。
「そんな……子供だぞ。まだ、十二歳だ」
「だが、掟は掟だ。村長の判断は正しい」
ざわめきが再び起きるが、それも小さな波に過ぎなかった。
村長の目が、その場全体を静かに制していた。
そして村長は、少し間を置いて言葉を継いだ。
「……ただし」
村人たちの視線がもう一度一斉に彼へと向かう。
「もし、和泉春人がこの先無事に十八を迎え、成人となる年が来たならば――その時は、再びこの村を訪れることを許す」
春人の胸に、どくん、と重たい鼓動が走る。
「本人にその意志があるならば、成人の儀に加わる資格を与える」
予想外の言葉に、村人たちの反応は揃わなかった。
「……そんな勝手な!」
「いや、それは甘すぎる。掟を破った者を、再び村に入れるなんて……!」
反発の声が上がったが、村長はそれらを黙殺した。
「この決定は覆ることはない」
その一言が、すべてを終わらせた。
それ以上、誰も異を唱えなかった。いや、唱えられなかった。
春人の父は、静かに頭を垂れた。
息子を抱きしめたまま、言葉もなく、ただその判断を受け入れた。
夜風が、ふっと吹いた。
焚き火の炎が揺れ、草の葉を鳴らす。
その音の中で、春人ははっきりと理解した。
自分はもう、この村の一員ではないのだと。




