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『村ノ掟』  作者: 雨徒然
12/27

2-3

「……もういい」


 低く、通る声だった。

 村人たちの口論が、急に凍りついたように静まり返る。


 焚き火を隔てた向こう側に、村長である杜宮誠の姿があった。

 腕を組み、微動だにせず、暗がりの中でまっすぐ春人の方を見据えている。


「これ以上、議論を重ねたところで結論は出ない。そうだろう?」


 ジロリと威圧感のある目つきで周囲を見渡す。


「私が責任を持って、下そう」


 それは長としての“権威”ではなく、“決定”だった。

 迷いのないその声音に、誰一人として口を挟むことができない。


 誠は一歩、焚き火に近づいた。

 炎の光が彼の顔を照らす。

 その瞳には感情の揺れがなかった。ただ、冷静な判断を告げる者の目だった。


「和泉春人は、村の掟を破った。近づいてはならない神域に踏み入り、禁を犯した。たとえ子供であれ、その事実は消えない」


 焚き火の炎がゆらゆらと揺れ、言葉の間を照らす。


「その罰は、たとえ子供であろうとも相応のものでなければならない。和泉春人には――この村を、離れてもらう」


 まるで冷たい刃物を突きつけられたような、鋭い緊張が広がる。


 春人の身体が、小さく震えた。

 その震えを、父の腕が受け止める。

 父は、表情を変えず、口も開かず、ただ強く春人を抱きしめていた。


「村を……追い出すのか……?」


 ぽつりと誰かが呟いた。


「そんな……子供だぞ。まだ、十二歳だ」


「だが、掟は掟だ。村長の判断は正しい」


 ざわめきが再び起きるが、それも小さな波に過ぎなかった。

 村長の目が、その場全体を静かに制していた。


 そして村長は、少し間を置いて言葉を継いだ。


「……ただし」


 村人たちの視線がもう一度一斉に彼へと向かう。


「もし、和泉春人がこの先無事に十八を迎え、成人となる年が来たならば――その時は、再びこの村を訪れることを許す」


 春人の胸に、どくん、と重たい鼓動が走る。


「本人にその意志があるならば、成人の儀に加わる資格を与える」


 予想外の言葉に、村人たちの反応は揃わなかった。


「……そんな勝手な!」


「いや、それは甘すぎる。掟を破った者を、再び村に入れるなんて……!」


 反発の声が上がったが、村長はそれらを黙殺した。


「この決定は覆ることはない」


 その一言が、すべてを終わらせた。

 それ以上、誰も異を唱えなかった。いや、唱えられなかった。


 春人の父は、静かに頭を垂れた。

 息子を抱きしめたまま、言葉もなく、ただその判断を受け入れた。


 夜風が、ふっと吹いた。

 焚き火の炎が揺れ、草の葉を鳴らす。


 その音の中で、春人ははっきりと理解した。

 自分はもう、この村の一員ではないのだと。


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