ファ・レス攻防戦-2
ヴァルグリーフへと帰艦したシャトルよりパーベリーとユーリが降りてきた。
機外には取り巻きの士官達が待機して先に降りてきたパーベリーに「お疲れ様でした」「首尾はいかがでしたか?」などとご機嫌取りに勤しんでいる。
(ムリもない、クロイツェル家の次期当主だからな)
それに比してユーリには誰も声をかけようともせずそれどころかある士官は疎ましそうに睨みつける始末。
(なんなんだ、あいつは...)
よせばいいのにユーリも眉をひそめて嫌そうに睨み返す。
この剣呑な空気を察してか奥に控えていたエカテリーナが駆け寄ってきた。
「大尉、お疲れ様です。会議は如何でしたか?」
そう言いつつユーリの手の甲を軽くつねった。
顔は微笑んで見えるが目は笑っていない。
余計な揉め事を起こすなという意味なのだろう。
「あ、あぁ予想通り上陸部隊の航空支援を命じられたよ」
「やはりそうでしたか」
そうエカテリーナと話しているところへパーベリーが声をかけてきた。
「ユーリ君、さっきの話を他の指揮官達にも話す。付いてきてくれ」
「はっ!」
「...?大尉何かあったのですか?」
「戻ったら話すよ。レオン達を部屋に集めておいてくれ」
「は、はぁ」
ユーリはパーベリーの後を追いかける。
エカテリーナはその後ろ姿を不思議そうに見つめていた。
やがてパーベリーに追い付くと彼は既にブリーフィングルーム前に立っていた。
「さぁ入るぞ」
そう促されブリーフィングルームへと足を踏み入れた。
そこには航空隊の指揮官達が着席しており今か今かと待っていた。
「さて、皆そろっているな。」
「これより作戦を伝達する...と言ってもやることは同じだ。」
「制空権を確保しつつ敵拠点を爆撃する。」
指揮官たちからは余裕の笑みがこぼれる。
「いつも通りの」
「楽な作戦だな」
そんな彼らにパーベリーは衝撃的な人事を伝えた
「なお、航空隊第1陣の指揮はローゼン近衛大尉に執らせることとする。」
彼らは一瞬呆気にとられたが、今度はさっきの余裕な態度とは打って変わり多くの指揮官達が口々に反対意見を述べ始めた。
「ちょっと待ってください中佐!子どもに指揮を執らせるのですか!」
「俺達に死ねというのですか!」
この予想以上の反発にさすがのパーベリーもたじたじとなりながらも
「まぁ彼も実戦経験はあるのだから問題は...」
無いと言おうとすると別の指揮官がその言葉を遮る。
「中佐、実戦経験があるというのなら皆がそうです。ローゼン大尉はまだ若く百機単位の航空隊を指揮が出来るとは私には思えません」
「そのとおりだ。中佐、第一陣は私に指揮を執らせてもらいたいがよろしいか?」
そうしゃしゃり出てきたのはオスヴァルト・ヘプナー近衛少佐。
その実力を以て一兵卒から近衛少佐にまでなった文字通り叩き上げの指揮官なのだがそれ故か子どもに先陣の栄誉を奪られるのが嫌らしい。
「いや悪いがこれは命令だ。ヘプナー少佐は第二陣の指揮を任せる」
「しっしかし!」
「聞こえなかったかヘプナー少佐?これは命令だ!」
上官に命令だと言われればさすがにこれ以上抗弁することも出来ず、渋々席に座った。
だがその表情は明らかに納得したようには見えない表情だ。
やがて声が静まるとパーベリーは惑星に突入する航空隊の編成を発表し始めた。
「さて、では突入部隊の陣容を発表する」
「ローゼン近衛大尉率いる第一陣は3個航空中隊及び2個軽爆中隊の総勢50機。第二陣はヘプナー近衛少佐に1個航空連隊と2個軽爆大隊及び1個重爆中隊の100機を充てる」
つまり一つの戦場に150機が展開することになる。
「以上を突入部隊の編成とする。第一陣は敵野戦司令部・重砲陣地・物資集積所等の拠点を殲滅し第二陣で敵地上戦力に対し爆撃を敢行する。なお、これ以外の航空隊は艦隊の防空任務に当たることとする」
「作戦開始は今から7時間後となる。それまで各自休息を取るように...では解散!」
・・・作戦の伝達が終わりブリーフィングは解散となった。
ユーリはブリーフィングルームを出て行こうとするとある人物に呼び止められた、ヘプナー近衛少佐だ。
「ローゼン大尉、中佐に気に入られたからといって調子に乗るなよ...作戦が失敗すれば全て貴様の責任だからな!」
彼の背後には侮蔑、嫉妬、あらゆる感情を宿した視線がユーリを貫いていた。
しかしユーリはそれに怖じることなく毅然としている。
「それは重々承知しています。初の航空連隊規模の指揮ですが作戦行動中に背後から撃たれぬ限りは上手くやって見せますよ」
毅然とし過ぎていたようだ。
ヘプナーの挑発を受け止めるどころか逆に煽って余計にキレさせてしまった。
「何だと貴様ぁっ!もう一度言ってみろ!!」
「このガキ!ヘプナー少佐に何て口のききかたしやがる!」
ぶちギレたヘプナー達がユーリを袋叩きにしようとしたそのとき...
「まぁまぁ少佐これくらいで良いではありませんか、そう十代相手にムキにならなくても」
そう言って仲裁に入ったのはマクシミリアン・フェーゲライン近衛大尉。
御年64歳の大ベテランだ、彼は第221軽爆中隊の隊長を務めている。
階級ではフェーゲライン近衛大尉のほうがヘプナーより下だがその豊富な実戦経験からヘプナーも頭が上がらない人物だ。
本来ならとっくに軍隊を退役しているハズだが軍隊以外に自分の場所は無いと言って未だ現役である。
また、後輩の面倒見が良く特に新兵からの信頼が厚い。
「フェーゲライン大尉か...いやなに、このアホに教育的指導をしてやろうと思ってな」
「では私からきつく言っておきますので...」
「そっそうか、では大尉に任せる」
そう言い残すと足早に立ち去って行った。
「さて、大丈夫だったかな?ユーリ君」
「はっ、申し訳ありませんでした。ご迷惑をおかけして」
そう言うとマクシミリアンは笑いながら
「いやいや若いうちは元気なほうがいい。まぁ程々にな」
そう言って立ち去ろうとするとくるっとこちらに向き直り
「あぁそれと今回の作戦で君の指揮下に入ることとなった。その時は頼むぞ」
「・・・え?」
呆気に取られるユーリを尻目にマクシミリアンは悠々と立ち去った。




