攻撃準備
ルーア総督府陥落から10日後・・・
「閣下、まもなくポイントH829に到着します」
艦長が艦隊司令であるリカルド中将に報告する。
ルーアの反乱軍討伐を命じられた千隻の海軍艦艇は陸軍の数十隻の強襲揚陸艦と共にある艦隊と合流すべく集結ポイントへと向かっていた。
「まったくなぜ植民地の反乱ごときに私が出向かねばならんのだ!百隻も派遣すれば充分に制宙権を確保できるだろうに」
「はい、それにしても空軍とではなくセラフとの共同作戦というのはなんとも...」
副官の発したセラフというこの言葉に思わず眉をひそめた。
別に彼が特別セラフを毛嫌いしているというわけではない。
セラフは皇帝直属の武装集団、つまりは私兵であって厳密には国軍ではない。
そのため自分達は蔑ろにされていると思っている
多くの誇り高い国軍軍人ほセラフの存在を疎ましく思っているのだ。
「フン!陛下には申し訳ないがせいぜいこき使ってやるとしよう」
そう言い終わるやいなやオペレーターが既に集結ポイントに待機していたセラフ艦隊を捕捉した。
「閣下、集結ポイントに艦影を確認。数は百隻、セラフ艦隊です。」
「ほう、上官を待たせぬぐらいの礼儀はあるらしいな...あの艦隊の指揮官はなんと言ったか?」
リカルドの問いに艦長が即座に答える。
「はっ、パーベリー・フォン・クロイツェル近衛中佐です。なんでも3年前の戦争で単艦で2隻の戦艦を撃沈したと聞いております」
「あぁガレアとのか、あれは戦争ではなく只の小競り合いだろう。それにその話もどうせ誇張して宣伝してるのだろうよ」
これは数年に一回、帝国領アルザ=レーヌ星系の支配権を巡って行われるガレア共和国との国境紛争のことだ。
「でしょうな、それに彼は名門クロイツェル家の出。どうせ親の七光りで今の地位にいるに違いありますまい」
リカルド同様セラフに嫌悪感を抱いている副官もそう吐き捨てた。
「ではそのパーベリーという男がどれ程の者か見てやるとしよう。艦隊旗艦を呼び出せ」
ここはセラフ艦隊の旗艦バルンホルスト級重巡洋艦【ヴァルグリーフ】のブリッジ。
パーベリーは静かに佇みその隣にいる年若い男と会話を楽しんでいた。その年若い男というのは...
「さて、いよいよリカルド閣下とご対面だな。彼は典型的な帝国軍人らしく我々を嫌っているらしいが...そんな人間と連携が取れると思うかい?ユーリ君」
ユーリと呼ばれた青年士官は即座にこう答えた
「国軍のバカ共を気にかける必要は無いでしょう。我々はいつも通りで良いかと」
彼の名はユーリ・メア・ローゼン、18歳の若さで近衛大尉として1個航空中隊を率いている。
「はははっ相変わらず辛辣だな君は...おっ閣下の御到着だ」
オペレーターから報告が入る
「旗艦キマイラより通信です。パーベリー近衛中佐と話がしたいと」
「よしっ回線を回せ」
司令席に座るのと同時にモニターにリカルド中将の顔面が映し出された。
(大きい顔だ...)
そう思いながらも引き締まった顔付きで美しい敬礼をしてみせた。
「閣下お初にお目にかかります。私は第4セラフ艦隊所属パーベリー近衛中佐であります」
「ほぅ君が...私が此度の出征の指揮を執るリカルドだ。言っておくがセラフだろうと作戦行動中は私の指揮下に入るのだ、勝手な行動は厳として慎むように」
尊大な態度にユーリは少し顔をしかめたがパーベリーは意に介さずに
「無論、承知しております。我々は閣下の命令に忠実に従いますのでご安心を」
「よろしい、では2時間後に我がキマイラにてブリーフィングを行う。必ず出席するように」
そう言うとパーベリーが答えるのを待たずに一方的に通信を切ってしまった。
「やれやれ、前途多難だな」
「やはり僕は好きになれませんね、あの尊大な態度は無性に腹が立ちます」
ユーリの顔は未だかすかに怒気を孕んでいる。
「ふふっ淡く水色がかった髪と赤眼を持つ美少年がそんな顔をするんじゃない、せっかくの顔がもったいないじゃないか」
「...からかってますか?」
幼少の頃よりその端正な顔立ちから女の子と度々間違えられた経験があることからあまり良い気がせず、またムッとした表情になる。
「だからそういう顔はしないように。君は上を目指しているのだろう?であれば少しはポーカーフェイスというものを覚えるべきだな」
「はっ...努力してみます」
「よろしい、ブリーフィングには君にも出てもらう。今のうちに休んでおきなさい」
「はっ失礼します」
そう言うとユーリはブリッジを後にした。
「ユーリ様お疲れ様です」
「よぉユーリどうだった」
ブリッジを出ると二人の人物が出迎えた。
1人はクールビューティーな女性エカテリーナ。元々孤児だったのだが幼い頃に路地裏で飢えて倒れていたところをユーリに拾われ以後彼の御側付きとなる。
ユーリが近衛幼年士官学校に入学する時に共に入学し、今も彼に仕えている。
ちなみにユーリより2歳年上で20歳、階級は准尉だ。
もう1人は気性荒めの若者、レオン・フォン・シュルツ。
近衛幼年士官学校以来の友人で年齢はユーリと同じ18歳、階級は近衛少尉。
「国軍の提督は相変わらずだったよ」
「だろうな、頭の古いオッサンは感じ悪いと相場が決まってる」
「あぁしかもそのオッサンに会わなければいけなくなった」
「では、キマイラへ向かわれるのですか?ならば私も御一緒に」
「いやエカテリーナ、今回はパーベリー近衛中佐のお供だからな。次回に頼むよ」
「はい」
エカテリーナは表情こそ変えなかったが心の中ではすこし落胆しているようだ
「じゃあ僕は部屋に戻って休んでるよ。何かあったら呼んでくれ」
「おうっ」




