私たちの仲間
秋も深まる頃、辺境伯の代理の者が、内密に王都に向かった。
社交シーズン直前に友好を深め合った領主たちは、それぞれの領の収穫物と量を報告し合った。今まで王都へ出荷していた分を、互いの領で売り買いするのだ。
領主たちは、王太子のわがままを放置している国王にうんざりしていた。
「野心がなく平和な時代を作っていると評価していたが、王妃殿下が出しゃばり始め、王太子殿下を諫めることもできないでいる。どう思う?」
「王太子殿下が王位に就いたら、どんな国になるかわからない。側妃腹の第二王子殿下に期待したいな」
「第二王子殿下は、来年学園にご入学されるのか。どんな方かを見極めたい」
第二王子に期待するか、王の権力を削ぐか、最悪の場合は隣国への帰属も視野に入れるか――そんな話し合いが水面下で進められた。
辺境伯の代理は領地に戻り、その報告をした。
「時代の分岐点か。王太子は見せしめのように、納入品検査で我々に不利益を被せた。未だに国王はそれに気付かない。気付いていて放置しているなら、論外だ。
娘を愚弄されたことを許してはいないし、次男が隣国にいることを忘れているのか……」
「どう転んでもいいように、準備だけはしておきましょう。次期領主夫婦には伝えないでいいの?」
辺境伯夫妻は、夫婦の寝室でまったりとした時間を過ごしているはずだった。だが、会話の内容は自然と領地経営の話になっていく。
「そうだな。重荷を背負わせるのはもう少し先にしてやりたかったが、マルティナが復学するかどうかにも関わってくるからなぁ」
二人の間に沈黙が落ちる。
国王の願いでルチアリアを王太子の婚約者にしたこと、彼女が王都でひどい目に遭わされたこと、婚約破棄されるまで救いの手を差し伸べられなかったことが、思い起こされた。
王家への忠誠心は薄れてしまったが、領主として派手な反抗をしてしまえば領民にしわ寄せが行く。
そう考えて王家に一矢報いることもできずにいた。辺境伯といえども、王家に楯突いたらただでは済まない。
娘たちが始めた板芝居は、思わぬ形で王家を追い詰めていくだろう。
「ふふ、続編を考えるか、別のお話にするか悩んでいましたよ」
「なんだ。もう復讐には飽きたのか」
「そうみたいです。さっぱりした性分ですから。夫のニコラの方が根に持っているかもしれませんよ」
「ああ、あいつはなぁ……」
冬になり、マルティナは学園に復学した。
「自信がついたし、あんな人たちに負けないわ。ピクニックで友達になった子が、ランチを一緒に食べようって言ってくれたの」
板芝居で鍛えられた発声は力強く、笑顔が眩しいくらいだった。
王都へ移動する時の護衛を増やし、学園の近くに護衛が常駐できる部屋まで借りた。もう二度と、辺境伯家の人間を傷つけることは許さない。
マルティナに代わるお姫様役も見つかった。
第二作目は新たな登場人物マルティンという騎士が、がんばり屋さんのお姫様の危機を救うというお話だ。
「そこはニコロじゃないんですか」
と、ニコラが拗ねた。
第一作目を二グループ、第二作目を一グループが持って、巡業に行く。
冬は雪が降らない地域を回った。春には第二作目の複製が完成し、合計四グループが始動した。
第一作目を披露した土地には第二作目がいいかと思っていたら、別の語り部なら第一作目でもいいという意見が出て来た。
語り部の組み合わせのリクエストまで出てきて、本当に人気役者の舞台のようになってきた。
春の終わりとともに、社交シーズンが終わる。
王都から領地に戻るついでに、また辺境伯領でピクニックをしませんかと案内状を出した。
ほぼ全員から喜んで参加すると返事が来る。
隣国へ婿に行った次男も家族を連れて来た。
ピクニックの招待客は貴族だが、板芝居を披露するために語り部たちも呼んでいる。慰労と第二作目を上演するためだ。
語り部は、継ぐ家がない貴族と平民で構成されている。平民の語り部たちはかなり緊張していた。
そこへ、若い令嬢たちが突撃した。
「第二作目、楽しみにしています!」
「私は第一作目をもう一度見たいです」
「領地にいる弟から、板芝居に感激したという手紙をもらって、王都で勉強している場合じゃないって気が気じゃなくて」
「魔女のお色気と、底意地の悪さが絶品だと思います。憧れです。握手してください」
「あらあら、お嬢さんたちは元気ねぇ」
「辺境伯家は大らかだから、許されると思っているのよ。ごめんなさいね」
「いいのよ。王都では淑女らしく振る舞っていたのでしょう? 息抜きになっていたら嬉しいわ」
辺境伯夫人は、鷹揚に答えた。
「板芝居を見たいという方々が、このピクニックに『頼むから同行させてほしい』とすがりつく勢いでしたのよ」
「まあ! シーズンの始めには、『わざわざ辺境まで行くなんて』と馬鹿にしていたのにね」
「お招きしていない方には、ご遠慮いただくしかないのよね。皆様、気苦労をおかけして、申し訳ないわ」
そんなご夫人たちの会話から少し離れた場所で、男性たちは、密談をしていた。
王都がこちらへの嫌がらせをやめるのか。
それとも、更なる圧力をかけてくるのか。
商人たちが築き始めた新しい交易路をどう守るか。
春から学園に通い始めた第二王子をどう見るべきか。
王都を経由しなければ手に入らない品を、隣国から調達するか。
初夏の陽ざしの下で笑い声が響く。そのすぐ側では、国の行く末を左右しかねない話し合いが続いていた。




