その言葉の意味は
夏休みが終わった。
暦の上では随分前から秋といえどまだまだ残暑厳しい季節。
学校に来るだけで汗だくになってしまう。
そんな汗だくの身体で教室に入ると「おはよー」「久しぶりー」何て声をかけてくれるクラスメイトに「おはー」と挨拶を返して自分の席へ向かう。
その途中に教室の真ん中で紗雪と楽しそうにしている雫と目が合う。
それだけでドキッとした。
一緒に暮らしているし、お互い毎日顔を合わせていたのに違う場所で目が合うだけでドキドキしてしまう。
なんだか本当に『禁断の恋』をしているみたいだ。
雫とは学校でイチャコラするのはやめようと話になった。
クラスメイト達が目のやり場に困るし、何よりも恥ずかしいから。
だから、学校ではいつも通りに接して、その分家で爆発させようとなった。
雫と目が合ったのに無視してしまい、俺はそのまま自分の席に向かう。
「おはよう。時人君」
自分の席へ着席すると、隣の席の瑠奈がニコッと笑って朝の挨拶をする。
「あ……。おはよう」
告白されて以来の瑠奈との対面。正直、今日言おうと思っている事を考えると気不味い。
そんな俺の空気を察したのか察してないのか読めない表情で話しかけてくる。
「夏休みはどうだった?」
「満喫したよ」
人生が変わった――とまでは言わなくて良いか。
「それは良かった」
ニコッと笑ってくる瑠奈には何処か違和感があるが、それが何なのか気が付かない。
「――あのさ瑠奈?」
「ん? どうかした?」
「今日の昼空いてる?」
「あら? もしかしたらデートのお誘い?」
「いや……ちょっと話が……」
そう言うと彼女は察した様な顔をして答える。
「もしかして、あの事?」
「――うん……」
頷くと彼女は余裕のある笑みで返してくる。
「分かった。何処行けば良い?」
「そうだな……」
場所までは決めておらず、考え込むと瑠奈が「じゃあ私が決めて良い?」と聞いてくる。
「うん」
「アースフレンドでも良い?」
「アスフレ……。ああ。うん。分かった」
「じゃあ後でね」
♦︎
雫に一応『瑠奈に断りを入れるからアスフレに行くわ。昼飯はいらないよ』とメッセージを送ると『分かりました』と返ってくる。
夏休み明けの初日は昼までで学校が終わり、俺達は約束通りにアスフレへやってきた。
昼時なので瑠奈は適当に料理を注文する。俺は正直な所食欲がない。
「――食べないの?」
「ああ……」
「そう。まぁあまり料理の美味しい所じゃないもんね」
「いや……。そういう意味じゃないけど」
何とも答えにくい事を聞いてくる奴だ。
「あはは。もう少し料理のクオリティを上げれば人気が出そうなものだけど……。経営とあの人が社長な限り料理のクオリティが上がる事はないかな」
皮肉を言う瑠奈に対して俺は苦笑いしか出ない。
「――瑠奈……。早速なんだけど……」
俺は早く楽になりたくて、料理が来る前に決着をつけようと切り出したが瑠奈が「まぁ待って」と制止してくる。
「大事なお話って食事の後と相場が決まっています。だからお昼を食べてからにしましょ?」
「あ、うん」
「だから時人君も料理の注文しないと。お腹空いてるでしょ?」
そう言われた直後に腹の虫が鳴いた。
「――ね?」
瑠奈の余裕のある顔に負けて俺は「そうだな」と彼女の言う通り俺も料理を注文する。
料理が運ばれてきて、瑠奈はアスフレの目玉商品のハンバーグステーキが彼女の前に置かれる。
「鉄板がお熱くなっておりますのでお気を付け下さい」
この子が社長令嬢とは露知らず、ウェイトレスはマニュアル通りの言葉を放つ。
「ふふ……」
目の前に置かれたハンバーグステーキを見て嘲笑する。
「随分みすぼらしくなって……。曾祖父から伝わる秘伝のハンバーグだったのに」
そう言って瑠奈はハンバーグステーキを口に含んだ。
「――悲しくなりますね。お爺様が作ってくれたハンバーグとは似ても似つかない。所詮はセンターキッチンで作られた偽物」
そんな言葉に俺は何と返せば良いか分からずに戸惑うと手を口に持っていき「あ、ごめんなさい」と言った後に澄ました顔して言ってくる。
「これから言われる事を思うと性格が悪くなってしまいますね」
それは俺が今から言おうとしている事を意味しているのだろうか――。
お互い昼飯を済まして瑠奈はフキンで口元を拭くと、こちらを見てくる。
「それでは本題に入りましょうか?」
なんだか主導権を握られている様な感じがする。
何故彼女はそんなに余裕なのだろうか? 分からないが、これでようやく俺の胸のわだかまりが無くなる。
「瑠奈……。あの時――祭りの日に告白してくれて嬉しかったけど――」
言葉が詰まる。彼女は真っ直ぐこちらを見て真剣に聞いてくれている。
「――ごめん。俺は瑠奈の想いに答える事は出来ない」
初めて告白をされた。そして初めて振った。
人を振るというのはこんなにも胸を締め付けられるものなんだと実感する。
振る側がこんなにも辛いのに、勇気を出して告白してくれた瑠奈の気持ちは計り知れない程傷ついているはずだ。
――しかし。
「そう」
簡単に言ってのけて、表情1つ崩さずに言ってくる。
「折角素の私を見て欲しかったのに残念」
「――ごめん」
それしか言えなくて……。瑠奈はゆっくりと立ち上がる。
「振られ、振った者同士がいるのはお互い気不味いでしょ? 今日はこれで帰るね?」
そう言って瑠奈は立ち去る。
「時人君」
振り返り俺に言ってくる。
「その恋は本物?」
「――え?」
ふと言われた言葉に俺は訳が分からず声を漏らすと瑠奈は何かを悟った顔をして「いえ……」と呟いてニコっと笑った。
「また明日。学校で」
そう言い残して瑠奈は去って行った。




