気になる事
「時人様?」
ゲーセンに行ったり、雑貨やアクセサリー見たりしてりしてショッピングモールをブラブラしていると雫が呼んでくる。
「ん?」
「こんな時に言うのもなんですが……。瑠奈さんの事は――?」
そう言われて、心の奥底に閉まっていたパンドラの箱を開けられた様な――そんな感覚に陥る。
「すみません。時人様がどうするか気になってしまって。場の空気を読まずに聞いてしまいました」
俺の表情を見てすかさず雫が謝る。
「いや、それは全然……。そうだな――」
「まさか! 二股かけるとか!?」
「早い早い。あともの凄い近い」
「近いのは良いでしょ?」
「近いのは何の問題もない」
そうは言ったものの雫はある程度の距離を保ってくれる。
「二股なんてするはずないだろ」
はっきり言ってやっても雫は少し拗ねた様な声を出す。
「だって……。瑠奈さん可愛いですもん……」
「可愛いとかそんなの関係ないだろ」
「ホントに?」
「ホント」
答えると「なら信じます」と言って雫は立ち止まった。
「時人様? これなんてどうですか?」
適当にメンズファッションショップで雫が店頭に飾ってある服を俺に勧めてくる。
「これ? うーん。ちょっと色合いがな」
「確かに時人様はあまり色物を着ないですね。ですが、試しに着てみてはどうです?」
「夏服は結構持ってるからな」
「結構持ってるって……。それ中学生の時の服ですよね?」
「そうだけど?」
「言おうと思ってたんですけど……。あれ、もうヨレヨレで着ていて正直イタイですよ?」
「そうかぁ? まだまだ現役だぞ?」
「現役じゃありません。もう引退も引退です」
「うーん……。でも、秋服の方が無いから、秋服が出たら欲しいかな」
「そうですか……。なら秋になったら一緒に行きましょうね」
「おう」
そんな小さな約束をして俺達は食品売り場に向かった。
♦︎
「――しかし不安です」
食品売り場にて、雫が俺の前を歩き、俺がショッピングカートを押して付いていく。
「何が?」
「瑠奈さんの事ですよ」
「だから――」
俺が否定しようとした所、雫が後ろを振り向いて「あ、違います」と先に否定される。
「時人様ではなく、瑠奈さん本人の事です」
「本人?」
「はい」
「何が不安なん?」
「いえ……。実は、夏休み前に少し気になる事を言って――あ、時人様。そこのジャガイモ取ってもらっても良いですか?」
「あいよ」
言われた通りに俺はジャガイモを取ると雫はニンジンを両手に取り、見比べて右手の方のニンジンを袋に入れてカゴに入れる。
「気になる事って?」
「あ、はい。その……。時人様が野球部の助っ人で大会に出てた時、スタンドで瑠奈さんが私に『宣戦布告します』って」
「宣戦布告?」
「その後に――っと……。ありました。これです」
言いかけた言葉を止めた雫は牛肉を手に取りカゴへ入れる。
「その後に『お互い頑張りましょうね』と言われたんですよ」
「ふむ……。どういう意味だ?」
「瑠奈さんが時人様に告白した所をみると、時人様を巡ってお互い頑張ろう、みたいな感じかと捉えていたのですが何か引っかかって……」
「――あー!」
俺はふとこの間の事を思い出して手を叩いた。
「どうしました?」
「だから雫ハイパーブーストが発動したんだな」
「雫ハイパーブースト?」
雫は、今までの雫みたいに、何を阿呆な事を言っているんだ? と言わんばかりの表情をした。
「ネコミミ付けたり、お風呂入って来たり――」
「――なっ!?」
雫は顔を赤くして言葉を詰まらせる。
「もしかして雫ぅ? 瑠奈に俺が取られると思ってあんな事したのかぁ?」
からかう様に言うと、いつも通り「うっ! うっさいです!」とキツめの口調に変わる。
「図星か……」
「あ、あれは! 時人様が瑠奈さんに優しくしたから……。それが悔しくて……。雫の事を見て欲しくてやった……だけです。――そっ! それに! あれは野球の試合より前の日です!」
「あ、そだっけ?」
「そうです!」
「まぁあれだ。またやって欲しいんだけど?」
「――えっ!? あ、あれを!?」
「ネコミミメイド。イン風呂」
「――へんたい……」
「でも? そんな時人様が?」
「――大好きな私も変態なんですかね?」
「同じ変態なら付けなきゃ損損!」
「うう……。あれ、恥ずかしいんですよ……」
それ以上に恥ずかしい事をしている様な気がするが黙っておこう。
「期待してる」
「やめて下さい! や、やりませんよ?」
「かーらーのー?」
「やりません!」
♦︎
「――まぁでもあれだな」
買い物が終わり、すぐ家に帰ってくるとお互いキッチンに入り、俺は買ったものを冷蔵庫や棚に並べ、雫はエプロンを手に取る。
エプロンを着用した雫に1言申す。
「裸エプロンもアリだな」
「……」
いつもの目をされちゃった。
「――って言うのは冗談でー」
「ホントに冗談ですか?」
俺は雫の言葉を無視して話を続ける。
「瑠奈には申し訳ないけどキチンと断りを入れないといけないな」
「当然です。――あ、野菜出しといてもらって良いですか?」
「あいよー」
冷蔵庫の野菜室に入れようとした野菜達をそのままキッチン台へ置いてやる。
「――普通に『ごめん。俺は雫が好き――』」
「大好きです」
すかさずツッコミを入れられる。
「『――大好きだから瑠奈の気持ちには応えられない』って言えば良いと思うんだけどさ……。それって恨まれたりするよな……」
「そりゃそうですよ」
雫はニンジンの皮を慣れた手つきで包丁で剥きながら答える。
「やっぱり?」
「表向きは『そっか、気不味くなりたくないから普通に接して』何て言ってくるくせに裏を見れば『あいつは良く見ればブス』とか『性格悪すぎ』とか陰口のオンパレードです。相手を振るというのは同時にプライドも傷つけてしまいますからね。幾ら綺麗事を言っても恨み妬みは生まれるでしょう」
「流石は幾千の男を振ってきた美少女。勉強になりやす」
適当な事を言うと雫は溜息を吐いた。
「時人様は八方美人な所がありますからね。そこが不安です」
「だからさっきも――」
「分かってます」
下ごしらえした野菜達をフライパンで炒める。
「でも、やっぱり不安にもなりますよ。これだけカッコよくて優しくて一緒にいて楽しくて毎日ドキドキさせてくれる人が私の想い人なのですから」
そう言われたので俺は少し意地悪な事を言ってやる。
「身長は雫よりも15センチ高くてスタイル良くて、顔はケチャップ顔で、髪型は短めが好きだけど似合っていたら良くて、優しいのは当たり前で、たまに強引な感じで引っ張ってくれて、そこにドキっとして、いつも雫の事考えてくれていて、寂しい時は口に出さなくても分かってくれて、手を差し伸ばしてくれる――奴じゃないけど?」
そう言うと雫はフライパンで野菜を炒めるのをやめて、火を止めて俺の前に立つ。
すると自分の頭に手を置き、その手をそのまま水平に俺の方まで伸ばしてくる。
「身長は私と15センチ位の差ですね」
嬉しそうに言うとくるりと回り、仕込んで置いた鍋に先程の野菜達を挿入してカレールーを入れてかき混ぜる。
「顔もカッコいいし、優しいのは当たり前だし、強引に私を引っ張ってくれるし、私がどん底の時、優しく手を差し出して私に生きる道を与えてくれた――そんな人大好きになって当然でしょ?」
言いながらもこちらに首を傾げてくる。
「だから不安ですし、心配なんです」
「どうやったら安心する?」
「――多分安心する日は来ないですよ。だから――」
雫はかき混ぜるのをやめて小皿にカレーを少量入れると俺に差し出してくる。
「毎日愛を囁いて下さい」
それを味見した後に言ってやる。
「これからもずっと雫の美味しい料理が食べれるなんて俺は世界一幸せな男だ。雫、愛してる」
「ふふ。良く出来ました」
雫は幸せそうに笑うと俺の頭を撫でてくれた。




