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俺達の関係

 朝食を食べ終えて食器を片し、雫はすぐさま戻ってくる。

 彼女は俺の肩に頭を乗せて心地良さそうな表情をしていた。


「時人様。本日はどうしますか?」

「そうだなぁ……」

「ふふふ。お悩みでしたら私に1つ提案があります」


 雫は人差し指を立てて嬉しそうに言ってくる。


「なになに?」

「今日1日ずーーーっと! 雫とイチャイチャラブラブする。――というのは如何でしょう?」


 少し前までの雫なら言わなさそうな台詞だが――。


「それはかなり魅力的だな」


 そんな雫が凄く可愛い。


「でしょー? 今日は1日ずっと時人様とこうやって過ごします」


 そう言うと雫は俺の手をギュッと握ってくると、すぐに何かを思い出しかの様に「あ……」と声を漏らした。


「どうした?」

「忘れてました。旅行に行くから、冷蔵庫の食材はほとんど空にして旅行に行ったのを」

「それならスーパーに行かなくちゃな」

「でも……」


 雫はこの状況から抜け出したくないらしく、顔を伏せて難しい顔をした。


「だったらさ。デートしない? その帰りにスーパーで買い物したら良いんじゃないか?」


 そう言うと嬉しそうに握った手に力を入れてくる。


「雫とデートしたいですか?」

「したい」

「だったらギュッてしてくれたらデートしてあげます」


 そう言われたので迷う事なく雫を抱きしめた。


「うっ……。は、時人……様……」

「――あ……ごめん!」


 苦しそうな雫の声に俺は反射的に離れる。


「苦しかったか?」

「い、いえ。お気になさらないで下さい。強く抱きしめてもらえればもらえる程に私への愛を感じます。なのでもっと強くても良いんですよ?」

「いや、雫が苦しそうなのは嫌だよ。だから気をつける」


 俺は優しく手を握った。


「――優しく手を握って下さるのも愛を感じますね」




♦︎




 食材の買い物もあるという事で、俺達はショッピングモールへ行く事にした。

 最寄り駅から10分程度。駅直結のショッピングモールへやってくる。

 別に普段から来た事のあるショッピングモール。何の変哲もないただのショッピングモール。


 だけど――。


「――なんだか、いつもの場所と全然違う気がしますね」

「俺も同じ事を考えてた」


 関係が変われば見える世界も変わるのだろう。ただのショッピングモールなのにとても楽しい気分になってくる。


 俺達は笑い合いながら繋いだ手をご機嫌に揺らしてショッピングモールの玄関口を抜けて中へ入る。


 このショッピングモールの1階には有名大手チェーンのカフェがあり、そこの前を通った時に俺は「あ……」と声を出してしまう。


「どうかしました?」

「新作出てんだ」


 カフェの看板に『夏の新作』とデカデカと書かれておりミーハーな俺は『新作』と名の付くものはなんでも試したくなる性分なのである。


「入りますか?」

「良いの?」

「はい。時人様が行きたい所が私の行きたい所なので」


 そんな嬉しい事を言ってくれるので俺は遠慮なくカフェに入って行った。




「珍しく席が空いていましたね」

「だなー」


 いつもは平日でも関係なく埋まっている席は、珍しくも2人席が空いており、俺達は上手いこと座る事が出来た。

 どうせ空いていないから持ち帰りで飲みながらブラブラしようとしたけど空いているなら丁度良い。


 俺は新作のフローズンみたいな飲み物を飲み、雫はアイスコーヒーを買った。


「時人様。1口頂いてもよろしいですか?」

「ん? いいよ」

「ありがとうございます」


 嬉しそうに言って雫は新作を飲んだ。

 すると難しい顔をする。


「――なんだか不思議な味ですね」

「今年以降出る事はないかもな」

「あはは。そうですね。でも、何事も挑戦。それが大事ですもんね」

「何がバズるか何てホント分かんないもんな」


 そう言いながら俺は雫に返してもらった新作を飲む。


「そういえばさ」

「はい」


 飲みながらふと思った事を雫に言う。


「俺達の関係って何だろう?」

「関係……ですか?」

「そう。お互いが好――」

「大好きです」

「早い早い。びっくりした」


 めちゃくちゃ食い気味で言ってくるから焦ってしまった。


「いや、時人様が『好き』って言うから……。『好き』じゃなくて『大好き』ですよ?」

「そうだな。ごめん。――お互いが『大好き』ってのは打ち明けただろ?」

「はい」

「だったら俺達は恋人だよな?」

「恋人……ですか……」


 そう言う雫は難しい声を出す。ただ――顔はめちゃくちゃニヤけていた。


「え、えっと……。ど、どうしてですか?」


 ニヤけながら質問してくる。


「いや……。恋人だったら言葉遣いとかこのままで良いのかな? ――とか思って」

「あー。なるほど」


 雫は理解してくれたみたいで頷いてくれる。


「確かに……そうですね。普通の恋人同士なら『ハルくん』『しずたん』と呼び合いますもんね」

「『しずたん』……? そう呼んで欲しいの?」


 そう言うと現実に戻ってきたかの様な顔をして、視線を逸らして恥ずかしそうに言う。


「ふ、2人っきりの時に……」


 なるほど……。雫は思いを打ち明け合い、抑制していたものが解き放たれ、リミットが解除されている状態。

 深層心理ではバカップルみたいなイチャイチャが御所望らしい。

 ――今度『しずたん』と呼んでみよう。


「コホン」と雫は咳払いをして話を戻す。


「私達はそんじょそこらの男女がカップルになったわけではなく『主人』と『メイド』の禁断の恋に走っていますものね」

「いや、別に禁断じゃないけど? 親は絶対反対しないよ? てか、むしろ祝福してくれるぜ?」

「いえ、ここはあえて『禁断の恋』って事にしましょう。そっちの方が何かゾクゾクします」

「設定中毒だなぁ」

「――冗談は置いといて」

「ホントに冗談か?」


 俺の言葉を無視して雫は語り出す。


「私は『幼馴染』よりも『メイド』として時人様の側にいた方が圧倒的に長いです」

「そうか? あんまり変わらない様な気がするけど?」

「幼馴染だった時は四六時中一緒では無かったでしょ?」

「あー……。確かにな……。メイドなら家まで一緒だもんな」

「そうです。なので言葉遣いを変えろと時人様が仰るのならそうします。ですが、正直に言うと、今の喋り方の方が楽なんですよね」

「そっか……。いや、雫がそれで良いなら良いんだよ。ただ、雫的にはどうなのかな? って。ほら、結構さ、自分達の関係とか? 言葉遣いとか? 気にする人とかいるだろ? だから、それなら――と思って」


 そう言うと雫は微笑んで言ってくれる。


「呼び方や言葉遣い何てものは何でも構いませんし、後で変える事が出来ます」


 そう言って雫は自分の胸に手を置いた。


「変えられないのは私の想い――時人様を想う大好きという想いです。この想いは絶対に揺るぎません。そして、どんな関係でも、どんな言葉遣いでも、時人様が私を――雫の事が大好きという想いが変わらなければ、他の事なんて些細な事に過ぎませんよ」


 そう言った後に雫は自分の台詞が恥ずかしくなったのか顔を赤く染めて立ち上がる。


「――そ、そろそろ行きましょ?」


 そう言って先に行こうとする雫の手を取る。


「手繋ごう。俺達はお互い大好き同士なんだから」

「――はい」


 そうだよな……。雫の言う通りだ。どういう関係とか、言葉遣いなんか些細な事だ。


 大事なのは俺が雫の事が大好きだという想いだよな。

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