日の出の誓い
目が覚める。
寝起き最初に目にしたものを見てドキッとなった。
それは美少女の寝顔だったから。
それを見て寝起きの悪い俺がパッと目が覚めた。
今何時だろう? と疑問に思い、枕元に置いてあるスマホを見ると朝の5時前――。
まさか雫よりも早起きしてしまうとはな。
起こして欲しいと頼んだ奴が先に起きる事になるとは。なんて思いながら俺は布団を出る。
「ふぁーあ……」
目は覚めたが眠りが浅かったのでまだ脳内が覚醒しきっておらず大きな欠伸が出てしまう。
「――折角だし、露天風呂でもいれるか……」
折角の客室露天風呂付きの部屋なのに昨日はそれを堪能していなかった。勿体ないので日本海を眺めながらの絶景朝風呂と洒落込むとしよう。
俺は部屋の外にある客室露天風呂へ出る。
まだ太陽が昇ってきていない早朝の外の景色。
夜と朝の間――瑠璃色の空の下の日本海がとても綺麗で、ついつい眺めてしまう。
湯船に全身浸かるのも良いと思ったのだが、浴槽のふちに座り浴衣を着て露天風呂を贅沢にも足湯代わりにして神秘的な姿を見せる日本海を眺めた。
そんな景色を眺めながらさっき見た夢の内容を思い返す。
正直はっきりとは思い出せないが、昔の夢を見た気がする。
雫と一緒に寝たからだろう。雫の悲しい過去の夢――。
そして、覚悟がないと雫とは付き合わない方が良いと言われた時の夢――。
この場所でグルグルと夢の事――過去の事を考えていると、この世界に俺しかいない様な気になってきて、センチメンタルになる。
「おはようございます」
そんな1人しかいないと思ってた世界に舞い降りてきたのは雫であった。
「おはよう」
「昨日は良く眠れましたか?」
そう言われて「あんまり」と苦笑いで答えると雫も俺の真似して足湯代わりに浴槽のふちに座り日本海の景色を見た。
「絶景……ですね」
「だな……」
目の前には日本海の絶景。隣には美少女。まさに楽園と呼ぶに相応しい。
「雫は眠れたか?」
そう聞くと拗ねた様な声を出す。
「眠れるはずないじゃありませんか……」
言いながら湯を足でバシャバシャとする。
「あはは。折角の高級旅館なのに2人共寝不足か」
冗談交じりで言ってみると雫は少し怒った様な声を出した。
「――こっちの気も知らないで……」
雫は俺の浴衣の袖を強く握ってきて、今度は弱々しい声を出す。
「瑠奈さんが来てから……。瑠奈さんが時人様に告白してから……。私……不安で……。時人様が私から離れてしまうんじゃないかって……」
そしてジッと涙目で俺を見つめてくる。
「だから覚悟決めて勇気だしたのに……。なのに……時人様は……」
「覚悟……か……」
「――え……?」
呟いて俺は強く握られている袖の手を握った。
俺は大きく深呼吸して雫をジッと見る。幼い頃から知っているその顔を。
まさに天使の様な子から女神の様になった女の子。こんな子がいつも俺の側にいて感情が湧かないはずがない。
「雫には強い覚悟があるか? 俺は覚悟したぞ……。強い……覚悟だ」
「覚悟って?」
「俺と結婚する覚悟だよ」
俺の言葉と共に空の色は変わっていた。
日の出手前の薄明の空の下。雫が俺の言葉に答える。
「そんなの……。そんなのメイドになる前から……。ずっと前からあるに決まってるじゃありませんか!」
涙声で雫は俺に抱きついてくる。
「ずっとずっと好き。好きなんです。大好き。大好きなんだから! あなたの事ずっと前から大好き!」
「ごめんな。色々考えちゃって……。関係を進める事が本当に良いのかどうかとか……。でも、もう迷わない。だって俺は雫の事が大好きなんだから」
大好きという言葉で返すと雫の瞳から涙が溢れてきた。
俺はそれを見ないように口付けを交わす。
「――時人……様……」
口付けをやめると物欲しそうに雫が見つめてくる。
まだ足りないのだろうか。俺はもう1度口付けをしようとしたら――。
「――あ……」
「――キャ!」
お尻を滑らせて雫と共に湯船にダイブしてしまった。
着衣のまま湯船に浸かってお互いのビシャビシャの顔を見合うと「あはは!」と笑い合う。
「なんだか締まらないですね」
「だな。ま、俺達らしいっちゃらしいか」
「達? 達って事は私も入っているのですか?」
「なんだ? 不服そうだな。これからは夫婦同然なんだぞ?」
「――ふふ。はい。そうですね」
嬉しそうに笑いながら雫は俺に抱きついてきた。
「浮気したら許さないんですから」
「出来るかよ。雫以上の女の子なんて世の中にいるもんか」
「じゃあ誓って。雫だけしか見ないって」
そう言う雫に言葉では無く、2回目のキスで証明してやる。
日の出の空の下で誓ったキスは1回目よりも何倍も長く口付けを交わしたのであった。




