旅行②
写真を撮った後に俺達は宿までの迎えの車に乗った。
親父が手配してくれた車だ。
その車に揺られる事約2時間。この都道府県の最北端までやってくる。
車の運転手は「明日チェックアウトの時間にまた来ます」と言って去って行った。
「――着いたなぁ」
宿の前に立ち辺りを見渡す。外観から高級旅館感が出ているし、目と鼻の先に海水浴場が見える。
その海水浴場は場所が場所なのか、昼だというのに人が全然見当たらなかった。
「人が少なくて良いな」
「多いのは多いので賑わいがあって良いですが、少ないのは少ないので落ち着きがあって良いですね」
そんな事を言いながら旅館へ入ろうとすると仲居さん達が出迎えてくれる。
「ようこそおいでくださいました堂路様」
お辞儀をされて荷物を全て持ってくれる。
名前を呼ばれて首を傾げてしまう。
何故俺の名前を知っているのだろうか。
そりゃ予約した時に名前は言うだろうが顔なんか分かんないだろ。
そう思っていると雫が俺の心を読んで答えてくれる。
「恐らくはチェックインの時間と車種。そして人数にて予測しているのでしょう。加えて今回はご両親がキャンセルをしていて若い2人での宿泊との事で分かりやすいと思います」
「なるほどな。そこまでの気遣いがいるのか?」
「3つ星ですからね」
また嬉しそうにスリーピースしてくる雫。
「この度はお父様とお母様が来れなくて残念だとは思いますが、その分心ゆくまで我が宿でごゆっくりとお過ごし下さいませ」
「ど、ども」
雫以外からの丁寧過ぎる言葉に慣れなくて少し焦る。
――いや、こいつも丁寧語風なだけで中身は図々しいの塊か……。
旅館のロビーは広く、高そうなソファーがズラリと並んであり、大きなガラス張りで、そこからも日本海が一望出来た。
従業員とすれ違う度に「いらっしゃいませ」と立ち止まりお辞儀をしてくれる。流石は3つ星の宿だ。
中学の時修学旅行の宿は「しゃせぇー……」と目を合わす事なく適当に接客されたからな。まぁ今思えば宿も安っぺらな宿だったし、団体客が――それも中学生の団体だったからうざかったのだろう。
ロビーをそのまま抜けてエレベーター前で立ち止まる。
「――あれ? 受付は?」
俺がふと疑問に思った事を口に出すと仲居さんがすかさず答えてくれる。
「既にお支払いは済まされておられますので、本日はお気になさらずに骨休めして下さい」
「あ、そうすか……」
親父が先に出してくれてたんだな。
「本日のお2人方のお部屋は日本海を一望出来る最上級のお部屋をご用意させております。それとすぐそこには海水浴場もございますので泳ぎに行かれるお客様も多数おられます。堂路様達もいかがですか?」
仲居さんがエレベーターを待つ間に色々と言ってくれる中、雫が質問をした。
「すみません。浮き輪やボール等のレンタルは行っていますか?」
「はい。ございますよ。それとパラソルやレジャーシートといったものもございます。ロビーにてお気軽にお申し付けいただければ好きなものをお持ち頂いてかまいません」
「それはありがたいです。では後ほどお借りします」
「かしこまりました」
そんな会話をしているとエレベーターがやってくる。
仲居さんが俺達を先に中に入れた後にエレベーターガールの位置にて7階のボタンを押した。
すぐさま7階に着くと部屋数はどうやら1つしかないらしくすぐさま部屋に到着する。
「うっは……。ひっろ……」
「素敵な部屋ですね」
部屋の中はテレビに出てきそうなスイートルームという言葉がぴったりの部屋である。
そりゃ7階の全てをこの部屋で埋めてあるのだからそうなるだろう。
こんな部屋を用意する辺りに俺の家系の偉大さを知る。
1泊なんぼするのだろうか……。その点は気にしない方が良いのだろう。
仲居さんは俺達の荷物を端に置いてくれると「何かご不明点、ご不満点があればすぐさまお申し付け下さい」
そう言って仲居さんが去ろうとした時「そうです」と思い出したかのように言ってくる。
「備え付けの露天風呂から見える景色は絶景でございます。お2人の愛をそこで確かめるのも一興でございますよ。おほほほほほほ」
そう言い残して仲居さんは去って行った。
「絶景だってよ」
部屋の外に見える客室露天風呂を指差して言ってやると雫は顔を赤くした。
「だ、誰が一緒には、入りますか! ぜ、絶対入りません!」
「でもこの前勝手に風呂に入って来たような……」
「うっ! そ、それは……」
雫はボディブローを受けた様な声を出すとすぐさま切り返してくる。
「う、うっさいです! そんな事より海に行きましょう! そうしましょう! 色々レンタル出来るみたいですし!」
そう言って雫はいそいそと海に行く準備を始めた。
雫自体はしつこいくせに、あんまりしつこく言うと怒られるので俺はこれ以上は言わず共に海へ行く準備を始めた。




