旅行①
あまり乗る事のない北陸方面への電車。
始発で乗ったので瞼が重い。
そんな車窓からの景色は代わり映えしない田舎の景色が続いている。
先程からトンネルを抜けては田舎の風景が出てきて、またトンネルを抜けては田舎の風景。
そりゃ勿論それぞれ違う伝統があるだろう。住んでる人も全然違うと思う。
だが、住んでいない俺からすると全く同じに見えてしまう。
「そんなにムスッとしないで下さいよ」
「――ふぇ? そぉ見える?」
隣に座る雫に寝惚け眼で聞くと「ええ」と頷いて言ってくる。
「時正様、莉乃様が突然来れなくなったからと膨れて見えます」
「親が旅行ドタキャンしたから拗ねるとか子供かて。そんなんで膨れるか」
そうである。
親父はどうしても外せない急な仕事が入り、母さんも親父のサポートをしなければならなくなり2人は旅行に来れなくなった。
宿をキャンセルするのは勿体無いし、俺もバイトの調整をしたので「折角だし2人で行ってこい」と親父に言われたのでこうやってメイドと2人旅行に出掛けている。
「ああ……。でしたら私みたいな容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧メイドと2人きりの旅行に緊張していたのですね。心の中はテンションMAXハイパーGOと言った所ですか?」
「ははっ」
雫の少し浮ついた言葉を適当に流して窓の外に視線を戻すと頬をつねられた。
「あでででででで!」
彼女が手を離すとパチンとゴム人間みたいに良い音が鳴った。
「――っにすんだよ!」
今ので完璧に目が覚めた。
「何かムカついたので」
「ムカついたからってご主人様の頬をつねるなよ」
「澄ました感じが凄くムカつきました」
「理由を言ったからってつねったらダメだかんな。――てか、そんな事言って雫の方が俺みたいな完璧御曹司と2人っきりの旅行でテンションMAXハイパーGOなんじゃねぇの?」
からかう様に言うと雫こそ澄ました顔をして「そうかも知れませんね」と素直に言ってくる。
「――何かいつもの雫と違う……」
「それはこっちの台詞です」
雫が少し悲しそうに言った後、すぐに話題を変えてくる。
「今日はまず何をします?」
「そうだな……」
そんな彼女の質問に俺はスマホを取り出して検索をかける。
「――てかあれだな。中心地から離れた――というか端っこも端っこの所に宿があるから、海で泳ぐ位しかないか……」
「そうですね。観光というよりは宿を楽しむ事になると思います。しかしそれでも十分かと」
「なんで?」
「なんてったって3つ星です」
そう言ってスリピースをしながら嬉しそうに言ってくる。
「3つ星の宿か……。流石は大企業グループの社長様が泊まる宿って事か」
「普段がショボい家なので高級宿はとても楽しみです」
「わーるかったなショボくて」
嫌味を言ってくるので笑いながら謝ると雫はこちらを見ながら言ってくる。
「ま、別に家なんてボロアパートだろうが何処でも構いませんがね。大事なのは――」
言いかけて雫は言葉を詰まらせる。
「大事なのは?」
「大事なのは――」
雫は頬を掻いた後で人差し指と親指で丸を作る。
「こ、これですよ!」
「なはは! 所詮はこれってか!」
爆笑しながら答えた後に俺は気になって雫に尋ねる。
「そういえば雫の貯金っていくらあるんだ? てか、お前の月収っていくらだ?」
そう聞くと雫は真顔で答える。
「そんな事聞いてくるなんてデリカシーがないですね」
「そ、そうだな。ごめん。つい気になって」
「人の預金が気になりますかね……。それならまだ私のスリーサイズを気にされた方がまだマシです」
「あはは!」
俺はつい高笑いしてしまった。それを不思議そうに見てくるので答えてやる。
「どうせBカップだろ」
「――なっ!?」
正解をえぐられて雫は言葉を失った。
「見た分かる! お前はBカップだ。うんうん」
「――は、はぁ!? ち、違いますー! Cですー! 私Cですー!」
明らかに嘘を吐いている雫に俺は悟った顔をする。
「そうかそうか。大丈夫。俺は貧乳も好きだから」
「てか、メイドにそんな事言うなんてセクハラです。労働基準監督署にチクリますよ」
「それは嫌だな」
「――ほらほらバカな事言ってないでポテチでも食べましょう」
雫は話を逸らす為にポテチを出してくる。
やっぱりBカップだったんだろうな……。
♦︎
約3時間電車に揺られて目的の都道府県へ到着した。
ここの駅には有名な門がある。高さは約14m程で、柱が螺旋状に組み上げられて、ズッシリとした作りの門。まるで旅行客である俺達をお出迎えしてくれている様である。
だが、ここが目的地ではなく、更に2時間程度車に揺られなければならない。移動の多い旅である。
「えーっと……約束の時間まではまだ少しありますね」
腕時計を見ながら雫が呟いたので眠気も吹っ飛び軽くテンションの上がっていた俺は雫の腕を掴む。
「――ぇ?」
「なら、あの門をバックに写真撮ろうぜ」
「ちょ! ちょっと!? 時人様!?」
「良いから良いから」
まるで小さな子供が母親を引っ張るみたいに彼女を門の前まで引っ張る。
門の前に立つと俺はスマホを取り出して限界まで腕を伸ばす。
「雫。もっと寄らないと入らないな」
「は、はい」
彼女は俺の肩に自分の肩が当たる位まで寄ってくる。雫の甘い匂いがして少し心臓が高鳴る。
それを隠す様に「撮るぞー」と言ってシャッターを押す。
「――ま、いっか」
写真を見て呟くと「どんな感じですか?」と雫が聞いてくる。
「こんな感じ」
そう言って見せると雫が言ってくる。
「あんまり門が見えませんね」
「あはは。もう1枚撮る?」
そう聞くと首を横に振られる。
「これで良いです。いえ、これが良いです」
「そ? なら雫にも送っとくな」
「はい」
雫は嬉しそうに頷いた。
こうして記念すべき旅行初日の写真を撮り俺達は宿へと向かったのであった。




