リフレッシュには良いかも
夏休み中なら昼前、昼過ぎまで寝ている怠けた身体だが、今日は日の出と共に起きてしまう。
夏の早朝は涼しくクーラーも必要ない温度だ。
珍しく早起きしたので特にやる事もないのだが、目が覚めた為、折角だから朝ごはんを食べようとリビングへ向かう。
――いや……目が覚めたというよりは眠れなかったというのが正しいな。
リビングへ向かうと珍しく電気が付いていなかった。
どうやら雫よりも早く起きた様だ。
夏休みの雫は一体何時に起きてくるのだろうか。
そんな事を思いながらリビングのいつものダイニングテーブルの席に腰掛けてテレビを点ける。
早朝の情報番組が流れて見た事ない人達が『来週の花火大会は――』なんて言っているのが聞こえた。
「祭り……か……」
テレビから聞こえてきた言葉に俺は昨日の事を思い返してしまった――。
♦︎
「私はあなたの事が好きです」
太鼓が鳴り響く夏祭りの夜。
彼女は冗談を言っている雰囲気ではなく、その真剣な眼差しは真っ直ぐに俺の目を見てきている。
「分からなかった……。恋なんてした事ないから……。この気持ちが時人君の事が好きな恋心なのかどうか……」
瑠奈は胸に手を置いて視線を伏せる。
「マラソンで迷子になった時見つけたくれた。体育祭の二人三脚で守ってくれた。雷が鳴った時側にいてくれた――。どんどんあなたに惹かれていった。『堂路』ではなく『時人君』へ――」
そしてまた俺を見てきて微笑んでくれる。
「もしかしたらお見舞いに来てくれた時には既にあなたに恋をしていたのかもしれません」
「瑠奈――」
彼女の名前を呼ぶと彼女は慌てて手を振ってくる。
「あ! 返事は待って下さい! まだ――」
瑠奈は顔を背ける。
「まだ数ヶ月しか経ってないですけど……。時人君が私の様なタイプ――地位や名誉目的で近づいてくる人を好まないのは分かっています。だから――」
そして彼女は俺に顔を近づけて必死な顔をして言ってくる。
「これからは素の私――そのままの一ノ瀬 瑠奈を見て下さい!」
「わ、分かった……」
そう言うと瑠奈はニコッと惚れてしまいそうな笑みを見せるのであった。
♦︎
――テレビ番組はいつの間にか見た事あるような情報番組に切り替わっていた。
有名な朝の顔である芸能人が今日も様々な情報を提供してくれている。
朝の6時――。どうやら1時間近くは呆けていたらしい。
「――告白されたのなんか初めてでこれから瑠奈とどう接したら良いのやら……」
あんな美少女に告白されてどう返事したら良いのかなんて恋愛経験値のない俺には分からない。
好きであればOK。嫌であればNO。
たったそれだけだが『これからの私を見て欲しい』と言われた。
今すぐに返事をしなくても良いのかも知れないが引き延ばすのは色々と失礼だろうから出来るだけ早く返事をした方が良いと思い昨日の夜は瑠奈の事をずっと考えていた。
だが答えは出ない。そりゃそんなに簡単に出れば苦労なんかしない。
雫の事を思えば――。
「――あれ? 時人様?」
机に伏せって考えていると、リビングに入って来た雫はまるでドラゴン等の架空の生物でも見たかの様に驚いた顔をしていた。
「夏休みなのにこんなに早起きなんて如何しましたか?」
言いながら彼女はいつもの席に座る。
「――いや……。ちょっと寝れなくて」
「あはは。昨日のお祭りはみんなで楽しかったですからね。楽し過ぎて逆に寝れませんでしたか?」
「――まぁ……そうだな……」
元気なく返事をすると雫は何か言いたげな顔をしたが軽く笑って「朝ごはんいりますか?」と聞いてきた。
「そうだな。お腹空いたかも……」
「では朝食にしましょう」
雫はすぐに朝ごはんを用意してくれる。
白ごはんと味噌汁と鮭というメニュー。
多分美味しいと思うだが、正直胸が高鳴っているからなのか味がよく分からなかった。
「あ、そうですそうです。時人様」
2人でご飯を食べていると思い出したかのように雫が俺を呼ぶ。
「――んー?」
「今年は時正様と莉乃様のご都合がよろしいみたいで、家族旅行に行けるみたいですよ」
そう言われて一瞬何のことか分からなかったが「旅行……? あー……」と理解する。
「今年は行けるんだな……」
「はい。既に宿は押さえてあります。後は時人様のご都合だけですよ」
「そういや旅行って何処行くの?」
聞くと雫は嬉しそうに答える。
「日本海が見渡せるオーシャンビューの部屋と露天風呂がある高級旅館ですよ」
「温泉か……」
今、頭の中が色々とグルグル駆け巡っているので温泉でも浸かってリフレッシュしたいな。
「良いな……温泉」
「温泉はアルカリ度の高い温泉みたいで入るだけで美肌になると噂です。これ以上私が綺麗になったらどうします?」
「そりゃ良かったな……」
そう言うと雫は間を取り続けて言ってくる。
「あと、日本海で取れた新鮮な魚が沢山あるみたいです。お寿司やお刺身がとても美味しいみたいです。時人様、ご両親の前で『あ〜ん』してあげましょうか?」
「そりゃ美味そうだな」
そう言うと雫は間を取り続けて言ってくる。
「そうです! 旅館の前には綺麗な海水浴場がありますよ! 穴場みたいで人も少ないみたいですよ!『うふふ〜捕まえてごらん〜』『あはは〜待て待て〜』なんていうイチャイチャプレイができますよ!」
「そりゃ楽しそうだな」
そう言うと雫は頬を膨らまして「つまんない人ですね」と呟く。
「ともかく! 時人様! アルバイトのお休みちゃんと取っておいて下さいね」
少しだけ不機嫌な声の雫に対して「そりゃそうするわ」と答えると雫は軽く溜息を吐くのであった。




