夏祭り②
「――キャ!」
人混みを歩いていると、可愛らしい悲鳴と共に瑠奈が転けそうになるので咄嗟に手を掴む。
「大丈夫か?」
「あ、はい……。すみません」
「慣れない格好だもんな。ほら、ここ」
そう言って服の袖をヒラつけせるが、瑠奈は躊躇って持とうとしない。
「どしたよ?」
「あ、いや……。ちょっと……」
「もしかして恥ずかしい……とか?」
「そりゃ恥ずかしいですよ」
「おいおいおい。今まで結構なスキンシップかましてきてたくせにどうしたってんだよ」
「あ、あれは……」
「あれは?」
「その……。何でもないです……」
観念した瑠奈はしぶしぶと俺の服の袖を持つ。
「離すなよー」
「――はい」
これで少しは安心出来るが、油断は出来ない。なんせ凄い人の数なのだから。
そんな微妙な距離の男女みたいに歩いていると瑠奈がフランクフルトの屋台で立ち止まった。
「――ん? 食べたいのか?」
「はい。食べてみたいです」
「食べてみたい?」
まるで食べた事のない様な言い方だ。
ま、そこまで気にする事でもないか。
「じゃあ並ぶか」
「はい」
そんな訳でフランクフルトの屋台に並ぶ。並ぶと言っても1組しか待ってなかったので俺達の順番は直ぐに来て、屋台のおっちゃんからフランクフルトを2本貰った。
脇の人の極力少ない所へ避難する。
瑠奈はフランクフルトをまじまじと物珍しそうな表情で見ていた。
「テレビで見た事ありますが、実物は初めて見ました」
「そうなん?」
完士に「相変わらず甚平が似合う」なんて言っていたから祭りは毎年行っているものだと思っていたが。
「はい。花火大会は毎年前の学校のお友達と、お友達が取ってくれた場所で参加させてもらっていましたが、屋台は行った事ありませんでした」
お友達か取ってくれた場所というのは、お父さんが見やすい場所を取ってくれた的な意味ではなく、VIPな場所を前もって取っているという意味なのだろうな。
「なので、本日は屋台の食べ物を食べれると楽しみにしておりました」
そう言って楽しそうにフランクフルトを食べた。
すると瑠奈は「うふふ」と笑みをこぼした。
「あんまり美味しくないですね」
「そりゃ屋台のだからな」
「でも……なんでしょうか? とても楽しいです」
「そりゃこの雰囲気だろうな」
「雰囲気……ですか……」
瑠奈が辺りを見渡したので俺もつられて辺りを見渡す。
「こんだけ楽しく騒がしい場所で食べる物は多少美味しくなくても食べれるってもんだ」
「そう……ですね」
そう言ってもう1口瑠奈は食す。
「――あはは! 全然美味しくない!」
「はっはっはっ! でも瑠奈の顔は凄く楽しそうだぞ?」
「はい! 何だかテンションが上がってきました」
「なら、そのテンションのまま屋台を巡るぞ」
「はい!」
♦︎
フランクフルトを食べ終えた俺達は射的の屋台へやってきた。
別に欲しい商品はないけど、なんかやってしまうよな。
「――ふっ……」
撃ち終わった銃口に軽く息を吹きかけて銃を置いた。
「0……ですか……」
「うるせー。こんなんは雰囲気を楽しむだけなんだよ」
「ふふふ。御曹司様と言っても所詮はその程度。見ていて下さい成金の力を」
「自分で成金言うなよ……」
瑠奈はトリガーを引くとコルクが明後日の方向へと飛んでいった。
「あーあー。大口叩いた割に何処飛ばしてんだか」
「だって初めてですもん。時人君良かったら教えて下さいよ」
「んー。そうだな」
俺は瑠奈の後ろから彼女に指導してやる。
「こうやってしっかりと照準を定めてだな」
そうやって彼女の手を思いっきり握ってしまう。
「あ……」
腑抜けた瑠奈の声が漏れたと思ったらコルクがまた明後日の方向へと飛んで行った。
「あ、あはは……。最後でした」
瑠奈は顔を真っ赤にして無理に笑って見せる。
そんな反応されたらこちらも少し意識してしまう。
「つ、次行こうか」
「は、はい」
♦︎
「――うーん……」
金魚すくいの屋台で瑠奈は破れた網をまるで虫眼鏡を覗く様に見ていた。
「こんなので金魚がすくえるのでしょうか?」
「見とけっての」
俺は無駄に腕まくりをして「うおおお!」と気合いと共に金魚をすくう。
すると網の上に乗った金魚が「あばよ」とまるで落とし穴に引っ掛かった様に水槽にリバースしていった。
「しかと見届けました」
「金魚すくいって難易度ベリーハードだよな」
「私は詐欺にあったみたいです。得意そうな雰囲気出して下手くそだなんて」
「金魚なんて持って帰っても仕方ないから、しゃーなしですくってないんだって。あえてだよ! あえて。逆にな」
「ふーん……」
「――つ、次だ! 次に行くぞ!」
♦︎
ドン! ドン!
太鼓の音をバックに瑠奈と屋台を巡り、遊んだり食べたりと楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「――しかし見つからないな」
これ程に大きな祭りだ。逸れて連絡が取れなければ出会う可能性は低いのだろう。
「はい?」
瑠奈は俺が何を言ったのか聞き取れてないみたいだ。
どうやら知らず知らずのうちに太鼓を鳴らしている場所の方へと近づいていっているらしい。
「あ、いや、良いや」
気持ち大きめの声で言う。
「そうですか? 太鼓の音が近いのでたまに声が途切れ途切れになりますね」
瑠奈も大きめの声で返してくれた。
「そうだな。あんまり近すぎるのも考えものか。ちょっと離れるか」
「そうですね」
俺達は来た道を戻る事にした。
戻って行くと多少は太鼓の音が小さくなってきたのでここら辺の脇で一旦立ち止まりキョロキョロと辺りを見渡した。
「さっき言ったんだけど、あいつら本当に見つからないな」
「本当に……」
「まぁ……。このまま探しても中途半端になるし、こうなったら瑠奈と2人で遊んでた方が賢いのかな?」
そう言うと瑠奈は少し驚いた顔をした後に笑顔で答える。
「ふふ。そうかも知れませんね」
瑠奈の何だか少し大人びた返しが妙に変であった。
いつもなら「あらあら? 私とそんなに一緒がよろしいのですか? 仕方ありませんね。婚約しますか」みたいな事を言ってくるだろうに。
違和感を抱いていると、ふと遠くの方に目立つ3人組を発見した。
「――あれ? あれって」
「間違いないみたいですね」
「だよな」
「見つかりましたね……」
何処か残念そうに呟く瑠奈。
「やっと見つかったな。じゃあ早速合流しに行くか」
「――あ! 待って下さい!」
瑠奈に制止されて俺は立ち止まる。
「ん?」
「あの……。その……」
瑠奈は言葉を詰まらせて「――すぅ……。はぁ……」と大きく深呼吸をすると俺を見つめる。
「時人君」
「どした?」
「私はあ――き――で――」
ドンッ!! ドドンッ!! ドドドンッ!!!
瑠奈が放った言葉は太鼓の音でかき消された。結構離れた位置まで来たのだが、ここまで聞こえるという事はサビみたいな所に入ったのだろうか?
「ごめん瑠奈。なんて言った?」
瑠奈は俯いて大きく溜息を吐いて微笑んだ。
「いえ。大した事ではないので」
「そうか?」
「はい。ほらほら。早くみなさんと合流しましょう!」
「あ、ちょっと待てよ」
無理に笑って俺の先を早歩きで行く瑠奈に付いて行く。
すると急に立ち止まり振り返ってくる。
「――好きって言いました」
「――え……」
「さっき言った言葉です」
瑠奈は瞳を輝かせて真っ直ぐに俺を見つめるともう1度ハッキリと言ってくる。
「私はあなたの事が好きです」
ドンッ!! ドドンッ!! ドドドンッ!!!
今度はハッキリと聞こえた後に太鼓の音が響いたので言い訳は出来ない。
――いや……。もしかしたらこの音は太鼓の音じゃなくて俺の心臓の音なのかも知れない――。




