夏祭り①
夏の夕方はまだまだ明るい。
そんな時間帯に乗る電車は満員であった。恐らくは殆どの人が祭り会場へ行く人であろう。それが分かるのも、浴衣や甚平を着ている人がいるからだ。
雫の言う通り甚平を着ている人が多数いた。もしかしたら逆に普段着の方が目立つのではないかと思える程だ。
折角の夏だし着ても良かったかな? なんて思ったが、そもそも持っていないから着れないな。
そんな満員電車に揺られて目的地に到着すると、駅のホームは牛歩でしか動けないレベルだ。
ちょっとずつ、ちょっとずつ歩いて行ってようやく改札を潜る事に成功する。
『今のうちにお帰りの乗車券をお求めくださーい! 帰りは混雑しまーす! 今のうちに――』
駅員か、警備員か、はたまたボランティアか――。頑張って働いている人に心の中でこっそり会釈して駅から出て、約束の地へと赴く。
「――おーい! 時人ー!」
聞き慣れた声が聞こえてきたので見てみると、甚平を着た完士がこちらに手を振っていた。
「お前着てきたんかよ」
言いながら彼に近づく。
「夏しか着れないからな。いわば夏の風物詩だ。逆に着てこなかったんだな」
「持ってないからな」
「なんだよ。言ってくれれば貸してやったのに」
「あー……。うん。そうだな。言えば良かった」
「はは。ま、次の機会に着れば良いんじゃね?」
「そうだな」
そんな会話をしていると「お待たせー!」と元気な声が聞こえてきた。
振り返るとそこには――。
「お、おお……」と完士と反応が被ってしまう。
振り返った先にはピンク色の瑠奈。水色の雫。白色の紗雪。
それぞれ色の違う浴衣を着ていて全員がバッチリ似合っていた。
「お嬢様。よくお似合いで」
「ありがとう。完士君も相変わらず似合ってますよ」
自然と完士がお嬢様へお褒めの言葉を投げると満足そうに瑠奈が答えた。
「時人くん! どう? 似合う?」
俺の前にやって来た紗雪は、袖を掴んで両手を広げる。
「似合う似合う。紗雪なだけに雪女?」
「それ褒めてるの?」
「褒めてる褒めてる。こんな雪女なら会いたいもん」
「あはは。ありがとう。――って、雫? どしたの?」
紗雪は振り返り先程からモジモジとしている雫に問いかけた。
「い、いや……。やっぱりちょっと恥ずかしい……かな……」
「もう……。バッチリ似合ってるって! ――ほら! 時人くん! いっ――たげて!」
紗雪に背中を押されて「おっとと」と転けそうになるのを耐えながら雫の前に立つ。
間近で見る雫の浴衣姿は――正直、周りの連中とは比べ物にならない程に綺麗だった。
「――あ、あの……。見つめられると困るのですが……」
「あ、ああ……。ごめん」
「に、似合います?」
そう言われて視線を逸らして「似合う……な」と心の底から思った事を言うと雫は「ど、ども……」照れた声を出した。
「さ! みなさん! 早速行きましょう! イェーイ!」
テンションが高い瑠奈が手を叩いて言ったので俺達はそれに反応して従う。
この祭りは駅前の大通りを車両通行止めにして行われる大きなお祭りだ。
いつもは自動車が通る道にはびっしりと屋台が並んでいる。
それと。駅前にある学校の運動場を借りてそこにも催し物があったり、そこから太鼓の音が聞こえてくるので夏祭り感が増す。
大きな祭りなので人の数も多い。地元の人もいれば遠方から来ている人もいるので、人でごった返している。
「相変わらず多いねぇ」
何処へ行くかの宛てもなく適当に歩いていると、自然と紗雪が隣にいた。
「だなぁ」
「――ね? ね? 時人くんはどっち派?」
「ん? かき氷か? 俺はブルーハワイ」
「あはは! 違うよー。雫と瑠奈ちゃん。どっちの浴衣がそそる?」
「そそるって……。そうだな……」
俺は笑いながら紗雪を指差した。
「紗雪かな」
「え? 嘘? 私?」
「あはは」
「あー。笑って誤魔化してる。ちゃんと答えてよ」
「ちゃんとって言われても……」
ちゃんと答えるのも恥ずかしくて抵抗がある。
「――あ……」
ここで本音を言っても良いのだけど、それだと紗雪にからかわれそうだから言いたくない。
だけど紗雪は悪ふざけをするタイプじゃないから言っても――。
「――って? あれ? 紗雪?」
ふと気がつくと紗雪の姿が見当たらなかった。
それ所か前を歩いていた3人も見当たらない。
「うそん。この年で迷子?」
ちょっと泣きそうになるのを耐えて、人の流れに逆らえずに流される様に歩く。
あーれー。カッパの川流れー。
なんて思っていると、服の袖を掴まれて引っ張られる。
引っ張られたおかげで人の流れから解放されて、脇の方の流れていない場所で立ち止まる。
「――っとと……。あ!」
俺を引っ張った人物を見て俺は声を漏らした。
「良かった。見つかって」
「瑠奈」
瑠奈は手を胸に置いて安堵した表情を見せる。
「瑠奈も逸れたんか?」
「ええ。気が付いたら雫ちゃんと完士君がいなくて、後ろを振り返ってもお2人がいなくなっていました。でも良かったです、時人君がすぐに見つかって」
「そうだな。他の3人は何処だろう?」
「完士君に連絡はつきませんでした。今から雫ちゃんか紗雪ちゃんに連絡してみるつもりですが――」
「分かった。なら俺は雫に電話するわ」
「では、私は紗雪ちゃんへ」
お互い役割が決まり即座に連絡するが、どちらも繋がらない。
「――折角みんなで来たのに逸れてしまうなんて……」
瑠奈は心底残念そうな声を出した。
「うーん……。仕方ないな……。このまま突っ立てても勿体ないしさ。2人で回ろうぜ」
「よろしいのですか?」
「当然だろ。折角来たのに待ちぼうけで終わるなんてつまんないし」
「そうですね……。では、お祭りを満喫しながら他の人達を探しましょう」
そんな訳で、瑠奈と3人を探しながらお祭りを見て回る事になった。




