ダブルデート?③
「――ゼェ……ハァ……」
ジェットコースターを終えて地に足を着けるとフラフラとしてしまう。
千鳥足――したくもない酔っ払い経験を果たしてしまう。
何なの? ジェットコースターってこんなに辛かった? めっちゃキツいんですけど……。
「大丈夫ですか?」
「――な、なんとか……。うぷ……」
「時人様、昔は乗り物大丈夫だったのに……。弱くなりましたね」
「うん……。もう無理かも……」
俺が既にグロッキー状態になっているのにも関わらず、左耳に付けたインカムから通信が入る。
『き、聞こえるか? 2人共』
「ええ。若干1名瀕死状態ですが……」
『堂路が? 大丈夫なのか?』
「大丈夫です。問題ありません」
雫の奴即答しやがった……。うっ……。気持ち悪い……。
「こちらの事はお気になさらず。それよりもどうかされましたか?」
『あ、ああ……。つ、次は何処へ行けば良いかな?』
「次ですか? ――そうですね……」
雫が少し考えているので、俺は彼女に言ってやる。
「ジェットコースターに乗って今日のパーク内の観察したんだろ? どうだったんだ?」
「で、出来る訳ないでしょ!」
雫は少し焦った様な声を出した。
「何で? パーク内の観察は余裕だって言ってたろ?」
俺は少しニヤケながらポンと手を叩く。
「あ、分かった。雫も怖かったんだな?」
絶対違うけど、違うからこそそうやって言っておく。
「は? そんな訳ないでしょ?」
「んじゃ何で? 余裕って言ってたのに」
「――そ、それは……。ああ……もう! 分かんない人ですね!」
「何で怒ってんだ?」
「う、うるさいです!」
俺に言うと雫は左耳に手を持っていき先輩に答えた。
「次は魔法の国エリアなんてどうでしょう?」
「お、もうそこ行くか」
魔法の国エリアは映画とコラボした大人気エリア。混み具合によっては入場規制もかかる大変混雑する場所だ。
「ええ。あそこは混みますが絶対に行って損はありません」
『OK! 分かった。ありがとう。――松井――』
塩路先輩が松井先輩を嬉しそうに呼ぶ声を最後に通信が切れた。
「では、私達も急ぎましょう」
「ちょ……。ちょっと休憩を……」
「何を休日のパパみたいに弱気な声を出しているのですか! ほら! シャキッとする!」
「うへぇ。スパルター……」
鬼教官の様な雫に反抗できずに俺達は次のエリアを目指した。
♦︎
魔法の国エリアに向かい、そこの人気アトラクションに並ぼうとして俺達は絶句する。
入り口の所の看板にデカデカと『180分待ち』と書かれていたからだ。
どうでも良いが、何で遊園地等のアトラクションは分単位で記載するのだろうか。
「流石はこのテーマパークでも上位中の上位クラスの人気を誇るエリアですね」
「これ……待つの?」
俺が眉を潜めて聞くと雫も同じ様な顔をした。
「――せ、先輩? もう並びましたか?」
雫が先輩に呼びかけると『おう』と返ってくる。
『松井がこの映画の大ファンみたいでな。テンションMAXで並んだよ』
「そうなんですか。意外ですね……」
筋肉とはかけ離れたファンタジー映画だからな。
ま、面白い作品にそんなものは関係ないか。
『――あーっと……。さっき並んでる時も結構良い感じだったしお前達は別に無理して3時間も並ばなくても良いぞ』
あれを良い感じと言っている辺り、先輩が明らかに俺達に気を使っているのが見える。
『折角なんだし、お前達も他で楽しんで来いよ。また何かあったら呼ぶけど』
先輩の言葉に雫が「どうしますか?」と聞いてくるので俺は彼女の好意に甘える事にする。
「すみません先輩。なら、俺達はこのエリア付近にいますので。何かあれば呼んで下さい」
『あいよ。じゃあまた後で――』
先輩の好意により3時間並ばずに済んだ。これはありがたい。
「いやー……。俺もこの映画好きだけど、3時間並ぶのは辛すぎるな」
苦笑いで呟く様に言うと雫が思い出したかの様に言ってのける。
「あー。そういえば一時期どハマりしてましたね」
「魔法って良いよね。――そういえばあの噂って本当なのかね?」
「あの噂?」
「30歳までに事を済まさないと、この映画の住民になるって噂」
そう言うと雫は真剣な眼差しで「まずいですね」と考え込む。
「我が主人、我が社のトップになる人間がその歳まで童貞なんて……」
「おい待てこの野郎。確定で事を進めるな」
「しかし、良かったではありませんか。この映画好きでしょ?」
「好きだけど、住民になる程好きじゃねぇわ」
「早速下見に参りましょう。時人様の14年後の世界を――」
「バカにしやがって。絶対早く卒業したるからな。見とけよ」
バカな話をしていたが、このエリアの完成度は高く、まるで本当に映画の世界にやって来たみたいに感じる事が出来る。
俺達はこのエリアに相応しいファンタジーっぽい石作りの建物に入った。そこはどうやらグッズ売り場だった様で、店内をグルリと探索してみる。
店には映画のグッズが所狭しと並んであり、BGMも映画内で使われた有名な曲が流れて気分が高揚する。
「へぇ……。ローブか……」
壁に掛かってある作中で主人公達が身につけているローブが飾ってあった。完成度は高く、先程から着ている人も何組か発見していた。
「ご試着なさいます?」
「いやー……。俺は……」
「どうせ14年後に強制的に着ますもんね」
「まだそのネタ続いてたんだ……」
言いながら俺は手元にあるローブを手に取り雫に合わせてみる。
「――お前何でも似合うな」
「顔良し、スタイル良し、性格良し、ですからね」
「――性格良し?」
前半2つは悔しいかな、否定出来ないが最後の1つが引っかかってモヤモヤする。
「何か文句でも?」
「い、いやいや。滅相もございません。完璧なメイド様でございます」
そう言ってやると雫は上機嫌に「ふふん」と鼻を鳴らした。
「時人様。そちらをお貸しいただけますか?」
「ん? あいあい」
雫に合わせていたローブを彼女に渡すと、服の上からそれを羽織る。
すると彼女はその場で1回転する。
「どうですか?」
「やっぱり似合うな。似合うけど――」
俺は彼女の帽子と眼鏡を外した。
「――はい! これで1回転」
「こう?」
言われた通りに1回転する雫。
「うん。魔法使いだな」
異世界転生やら異世界転移した先にいるメインヒロインっぽい。
「なんちゃらこうちゃらほんちゃらほい!」
雫は何処から出したのやら杖を取り出して俺に向けてくる。
「――それ何の魔法かけた?」
「1人しか愛せない魔法」
「――は?」
心底出た疑問の声に雫は顔面を瞬間沸騰させる。
「な、何でもありません」
「なになに? 恋のキューピット的な? そういう的な? 雫ちゃんそういう系統の魔女っ子的な?」
「う、うっさいです! もうやめ! ほら、次行きますよ!」
そう言ってローブを脱いで俺に渡してくる。
相当恥ずかしかったのだろうか? 杖を持って無意識にレジに並んでいた。
面白かったので放置していたら後で頬をつねられた。




