ダブルデート?④
「動きが軽快ですね」
「昼間とは大違いだ」
陽が暮れ始めて空は暗くなっていた。
しかしながら、天空は暗くとも地上はテーマパーク中のイルミネーションのおかげで明るかった。
そんな光の芸術と化したパーク内を歩く2人を見ていると、もう俺達の必要性を感じなくなる。
魔法の国のエリアを出てから妙にテンションの上がった2人は、彼等の世界に入ってしまい、先輩は最早俺達の存在を忘れていると思う位にこちらに何のアクションもよこさない。
「あれだけ良い雰囲気ならもう俺等いらないんじゃない?」
「あはは……。そうですね……」
雫も俺と同じ意見らしい。
「そうですけど、折角こんな時間までいるのですから私達もパレード見ていきませんか?」
先輩達がパレードを見に向かっているので雫がそう提案してくる。
「それもそうだな。ここのテーマパークはパレードも力入れてるみたいだし」
「私、パレードって初めて見るかも」
「何か意外だな」
「そうですか?」
「雫はパレード好きそうな感じだから」
「パレードの時ってアトラクションに乗る人が少なくなるので、私はアトラクションに乗りますね」
「あー。そう聞くとお前らしいわ……。効率重視的な感じが」
そんな会話をしながら、俺達も先輩達から少し離れた位置でパレードを見る事にした。
――しかし、パレードが始まると同時にそれは起こった。
パレードの楽しい音楽と共に塩路先輩が急にその場を脱兎の様に走り去ったのだ。
俺達は一瞬訳が分からなかったが、すぐに事を理解して、雫に指示を出す。
「し、雫! 雫は松井先輩を見張っといて! ちょ! 行ってくるわ!」
「かしこまりました」
俺は反射的に塩路先輩を追いかける事にした。
♦︎
塩路先輩はテニス部だが、元々運動神経が良い方ではないみたいだ。その証拠にあっという間に彼女に追いついてしまう。
先輩はパレードから離れた場所のベンチに座り顔を伏せていた。
俺が先輩の前に立つと彼女は顔を上げる。その瞳からは大粒の涙が大量に出ていた。
「先輩?」
「とおおじいいい!」
「うおっ!」
涙声で俺にしがみついてきて「グスン! ズウウ!」と俺の服で色々拭いてきやがる。
「おいこら年上。色々な体液を付けてくるな」
「まじか年下……。失恋した女にも厳しいとかキャラブレないなお前……」
「失恋?」
あり得ない言葉が聞こえてきたので言葉に出すと先輩は頷いた。
俺は詳しく聞く為に彼女の隣に腰掛けた。
「告ったんですか?」
ストレートに聞くと先輩は手で顔を覆い涙声で教えてくれる。
「パレード始まった瞬間に気持ちが高まってつい……。そしたら『ごめん』って……」
「そう……だったんですね……」
そんなはずはないと思うのだけど……。そう言われたから泣いているのであって……。
あれほどイケるイケると言っていた手前、彼女に対しての罪悪感が半端じゃない。
どう声をかけたら良いか全く分からないが、ともかく今は彼女の側にいてあげる事が重要だ。
謝罪は後で何度でも出来る。
「あー……もー……無理……死にたい……つらたん……化粧したい」
「こんな状況でも化粧て」
「化粧してたらいけてたかな? あはは……」
「松井先輩は化粧していない先輩を可愛いと言ってたから……それは無いかと……」
「そうだよな……。あの野朗……化粧してない方が良いって言うから今日してないのに……」
先輩は涙を流しながら段々と怒りの口調になっていく。
「――てか、なんなんだよ! あいつ! 化粧してない方が良いって言うし! 強い女が好きとか言うし!」
「強い女性が好きって言ってたんですか?」
強いという言葉には様々な意味があるけれども、それだったら先輩は気が強いから好きなタイプだと思うんだけど……。
「あ、ああ……。――昔からウチは同性に顔の事で結構言われてたんだよ」
これほどの美少女だ。醜い女の嫉妬なのだろうな。
「松井はそんな私に気を使ってくれるというか……。優しくてさ……。弱ってる時に優しくされたら……惚れるじゃん。カッコよく見えんじゃん。てか松井カッコいいじゃん」
俺の意見など今は何の意味も、必要もないので、ともかく相槌を打ちながら彼女の言葉を聞いた。
「――そしたらさ……アイツ……中学の時にアイツが連れと話してるのがたまたま聞こえてきてさ……『強い女が好きだ』って言い出してさ……。でも、ウチは気も弱くて力も全然無い……。むしろ守ってもらってる……。なら、せめて見た目は強くなろうと――」
「あー! それであのメイクですか?」
「そうなんだよ……。それに化粧したらウチの事悪く言う奴もいなくなってさ、それで自信付いて――」
あの見た目じゃ言う価値もなしってか……。
「これで松井もウチの事好きになると思ったのに全然告ってこないし――って思ったらスッピンの方が良いとか言うし――の割に告ったら振られるし――どないやねん!? クソが!!」
確かに先輩だけの話だと松井先輩は笑える程にめちゃくちゃなクソ野朗だな。
『――塩路ー!!』
「――え?」
突如聞こえてくる先輩の声。姿は見えず声だけ聞こえるので、恐らくは呼びかけながら探しているのだろう。
「探してるって事は話があるんじゃないですか?」
「――振ったくせに話とか……」
「本当に振られたんですかね?」
「どういう意味だよ?」
「もし俺が松井さんの立場なら、大声出しながら振った相手を探しませんよ」
優しく言ってあげると先輩は「――でも……」と弱々しい声を出す。
なので、俺は右手で拳を作って左手で受け止めた。
「ともかく、話して下さい。それであの筋肉ダルマがふざけた事吐かしやがったら右ストレートをぶっ放してあげて下さい。その時は俺も加勢しますよ」
「堂路……」
『塩路ー!!』
松井先輩の声が近くなってきたので俺は立ち上がった。
「先輩。もう1度ちゃんと自分の思いぶつけて下さい」
そう言い残して俺は彼等を見守れる位置まで去って行った。
――俺はある程度の距離で立ち止まり、先程いた場所を見ると入れ替わりで松井先輩が塩路先輩の前に立つのが見えた。
「お疲れ様です」
いつの間にか俺の隣に雫が立っていた。
「――雫。ありがとう」
「私は特に何も」
クールに言うが、きっと彼女は松井先輩に何かを言ったに違いない。
「――あ……」
雫が声を漏らしたので視線を先輩達に向けると抱き合っていた。そして――。
――キスをした。
それを見て雫はクルリと回れ右をする。
「これ以上見守るのは無粋ですね」
「そうだな。――いやー! 最後は焦ったけどやっぱハッピーエンドで終わったか……」
「ふふ。捻りの少ない、オチが簡単に読める素敵なお話でしたね」
「だな。オチが分かっていてもハッピーエンドは良いものだ。さて良いもの見せてもらったし帰るか」
「ダメです」
良い感じで帰宅を提案すると雫が笑いながら指を指した。
「罰ゲーム。まだしてもらってませんよ?」
彼女の指差す方向には後ろ向きのジェットコースターがあった。
「おいおい。まじか……」
「まじです」
「ハッピーエンドで気持ち良く帰ろうぜ」
「罰ゲームを終わらして気持ち良く帰ろうぜ」
「――本気?」
「さ! 行きますよ!」
雫は俺を引っ張って後ろ向きのジェットコースターへ導いて行った。
♦︎
「――どうやら松井先輩は1回振った訳ではなく、パレードの開始の音と塩路先輩の声が重なってしまったので『ごめん。今なんて?』と尋ねたらしいです」
「それを早とちりした塩路先輩が振られたと思ったのか」
――ガコン! ゴゴゴ――。
「それと松井先輩の『強い女性好き』というのはRPGの話らしいですね。そもそも松井先輩も塩路先輩の事を昔から好きだったみたいです」
「なんだよ。やっぱり相思相愛かよ。焦ったいな」
「ふふ。素敵じゃないですか」
「――凄いよな雫って」
「どうしてです?」
「めっちゃ怖くない? だって後ろ向きだぜ?」
そうである。
後ろ向きのジェットコースターに乗り、今上昇しているのだが、進行方向が見えないので前向きより恐怖心が増す。
「怖くありませんよ。前向きのジェットコースターがパーク内を観察出来るなら、この後ろ向きのジェットコースターは景色を楽しめるもの。この時間なら綺麗な夜空を楽しめますよ?」
「楽しめるかっ!」
「――ふふ。また手を繋いであげましょうか?」
上から目線の雫に対して俺はコクリと素直に頷くと「素直でよろしい」とまるで年上の彼女の様に言ってくる。
悔しいが雫と手を繋ぐとジェットコースターの怖さも半減するので俺は手を繋いでもらった。
「高校生にもなってメイドと手を繋ぐなんて情けないですね」
「なんとでも言え……。この恐怖心が少しでも減るなら何でも良い」
「――それって誰でも良いって事?」
少し拗ねた様な声を出してくる。
「んな訳あるかっ! 雫だから安心すんだよ!」
吊り橋効果――ジェットコースターがいつ急降下をするか分からない恐怖心から本音が出ると雫は嬉しそうに微笑んでから空を見上げて言ってくる。
「月が綺麗ですね」
雫の台詞を最後にジェットコースターは加速を始めた――。
「――無理……帰ろう……」
またしてもジェットコースター終わりにフラフラになってしまう。もうやだ帰って寝たい。
「ふふ。そうですね」
雫は楽しそうにそんな俺を見て笑っている。
「――ね? 時人様?」
「ん?」
「さっきの言葉……聞こえました?」
「さっきの言葉ぁ?」
俺が頭の上に?マークを出すと雫はワタワタと焦りながら髪を弄る。
「い、いやいや。きこえてなかったから別に何も――気にしないで下さい」
「――ぉん? そうか?」
「ささっ! 帰りますよ。楽しかったですねー」
そう言ってフラフラの俺を置いて前を歩く雫の背中に「死んでもいいわ――ってか……」と呟くと雫が振り返ってくる。
「え?」
「――んにゃ何も……」
俺は雫の隣に肩を並べる。
「今、絶対何か言いましたよね?」
「いやいや。気のせいだろ」
「ウソー。何か言ったもん」
「言ってねーっての」
「言った」
「言ってなーい」
そんなやり取りをしながら俺達はテーマパークを後にした。
後日、筋肉ダルマとギャルのイチャイチャ写真が送られて来た。
いらねー。
なんて言いつつもアルバムに保存してしまうのは、なんやかんや言っても俺は2人の先輩の事が好きなのだろうな、と苦笑いが出てしまった。
ここまでお読み頂いてありがとうございます!
これにてギャル先輩の告白編は終了となります。
お楽しみ頂けましたでしょうか? ここまで『まぁまぁやわ』『まぁええんちゃう?』『暇つぶしになったわ』と思って頂けた方は評価とブクマの方をよろしくお願いします!
もう既にしていただいている方――いつもご愛読ありがとうございます! 感謝感激でございます!
次回からは期末テストを乗り越えて夏休みに入っていきます。
まだまだ続く予定ですので、これからもよろしくお願いします!




