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ダブルデート?②

「動きがぎこちないですね」

「いつも通りな感じではないな」


 松井さんに伝えた待ち合わせ時間の10分前に彼はやって来た。


 そして何やら1言2言喋ってから2人はテーマパークへのメインストリートを歩き出した。

 いつもの俺と瑠奈のデートではないので、先輩達の会話は聞こえない様に設定してあるから何の話をしたかは分からない。しかし、何かあればギャル先輩から通信が入るはずだ。


 彼等の数m後ろを俺達もコソコソと歩いて尾行しているのだが――ギャル先輩の動きがめちゃくちゃぎこちない。いつもの感じは出せないみたいだ。まぁこの後の事を考えると緊張するよな。


「如何いたしましょう? 緊張を解して差し上げますか?」

「いや、良いんじゃない? 初々しくて」

「確かに初々しくて可愛らしいのですが――」


 雫は前の2人を指差す。


「流石にチケットとICカードを間違える程緊張しているのは見ていて辛いのですが……」

「どうやったら間違えるのやら……」


 ここから見ていても分かる位に塩路先輩が震えているのが分かる。それに比べて松井先輩は余裕があるな。

 あんな脳筋なのに美少女と一緒でも緊張しないってか? いや、脳筋だからこそ緊張しないのか。


 何とか2人がテーマパークに入場して行ったので俺達も続いて行く。


「ようこそおいで下さいました! カップルさんですかー? 記念写真は如何ですかー?」


 開幕いきなりスタッフさんが俺達を出迎えてくれると雫は「か、カップル!?」と焦った声を出す。


「帽子と眼鏡でお揃いの仲良しカップルさんですね。うふふ! 1枚撮りましょう」

「わ、私達は――」


 雫がわざわざ否定しようとするので俺はそれを制止するかのようにスタッフさんに「お願いしまーす」とスマホを渡した。


「は、時人様!?」

「良いじゃん。楽しい楽しい夢の場所なんだし。俺等も楽しもうぜ」


 そう言うと雫は少し照れながら頷いた。


 俺達はスタッフさんから距離を取り、このテーマパークの有名オブジェクトをバックに並んだ。


「もっとくっ付いてー!」


 スタッフさんが俺達に寄り添うように指示をしてくるので肩が当たる位まで寄る。


「ちょ……近くないですか?」

「そう? まぁ良いだろ」

「――こっちの気も知らないで……」


 小さく文句を言いながらも嬉しそうな声を出す雫を置いてスタッフさんは「ハイッ! チーズ!」とスマホのシャッターを押してくれた。


「はーい! オッケーでーす」


 スタッフさんが俺達に近づいてくれて俺のスマホを俺達に見してくれる。


「こんな感じでどうですか?」


 それを見て俺達は微妙な空気を出してしまった。

 帽子と眼鏡で表情がイマイチ分からないな。ま、でも、こんな感じでも良いか。

 俺がスタッフに礼を言おうとしたら雫が「もう1枚良いですか!?」とお願いした。


「勿論ですよ! それじゃあもう1枚いきますねー!」


 そう言ってスタッフさんが俺達と距離を取る。


 その間に雫が俺の帽子と眼鏡を外した。


「これじゃあ表情が見えないから外します」


 言いながら雫も帽子と眼鏡を外した。


 そして俺の腕にしがみついてくる。


「お、おい……。流石にこれは――」

「た、楽しい楽しい夢の場所なんですから、こ、これ位やります」


 そう言われて返す言葉は出ずに、ただただ心臓が跳ねた。


「あっ! めっちゃ良い! あ! 良いね! いきますよ!!」


 何故かスタッフさんのテンションが上がり、スマホのシャッターを何枚か押してくれる。


「――あ……すみません。ちょっと撮りすぎたかも」


 そう言いながら俺等に見せてくれるスマホの画面を見ると、かなり良い写真が映し出されていた。


「ありがとうございます」


 雫も納得の様で満足げな顔をして俺のスマホを受け取った。


「お似合いのカップル様ですね! 今日は楽しんで下さい!」


 笑顔で手を振ってスタッフさんは去って行った。やはり夢の場所だ。自然と笑顔になれる。


「――はい。どうぞ」


 雫が俺のスマホを返してくれる。恐らく彼女の事だ、先程の写真を自分のスマホに移したのだろう。


「しかし、まぁ――」


 俺は先程の写真を見てニヤついてしまった。雫の顔がめちゃくちゃ良い表情をしているからだ。


「雫の表情ときたら……」

「ゆ、夢の場所ですからね! これ位の表情が普通です! べ、別に時人様と腕組めてラッキーとか思ってませんから!」


 そう言いながらも自分のスマホを見ながら嬉しそうな顔をしていた。


「ふふ。ま、いっか……」

「――あ……」


 突如雫が、部屋のクーラーを消し忘れたのを思い出したかの様な声を出した。


「ん?」

「先輩達を見失いました」

「あ……」




♦︎




 塩路先輩に連絡を取り、2人のいる場所を聞いてその場所へ向かう。

 そして、合致――ではないが、何とか見つけ出して、このテーマパークで人気のアトラクション、選択した音楽を聴きながら乗れるジェットコースターへやってくる。このジェットコースターの最大の特徴は前向きと後ろ向きがあり、2人は前向きの方へと並んだので、その2組後ろに並んだ。


「初手からこれか」

「良い選択ですね」

「その心は?」

「このジェットコースターはパーク内全体を縦横無尽に駆け抜けるアトラクション。これに乗り、今日のゲストの数、アトラクションの混み具合、キャラクターの居所、レストランの混雑等、様々な確認が出来ます」

「ジェットコースターに乗ってそんな考察出来るのはお前だけだよ……」


 そう言うと雫は「ぷぷ」と笑ってくる。


「時人様は『ヘタレ』ですもんね」

「な、なぁぬをー!? そ、そんな事ぬぁいわぃ!」

「そうですか? では、昔みたいに手を握らなくて大丈夫ですね?」

「は、はっはーん! 馬鹿言うなよ! こんなもんあれだ! あれ!」

「あれとはなんですか?」

「あれだよ!」

「だからあれってなんだよ……」

「手放して『きゃふぅうぃあー!』だよ。パリピが良くやるやつ」

「言いましたね?」


 雫は眼鏡を光らせてクイっとする。


「では出来なければ罰ゲームです」

「ああ。お前の言う事何でも聞いてやらぁ。その代わり俺が出来たらお前俺の言う事何でも聞けよ?」

「ふっ。浅はかなり……。構いませんよ。どんな要望でも受け入れましょう」

「言ったぞ!? 何でもだぞ!?」

「ええ。ソフト系でもハード系でも何でも。ふふ……」


 こいつ、自分が絶対に負けないという自信で溢れてやがる。それ、すなわち俺が必ずヘタレると確信してやがる。これは絶対に負けられない。負けられない戦いだ。




 人気アトラクションだけあって待ち時間がエグい。

 休日の為、90分待ちと札に書いていたので分かってはいたものの、やはり待つというのは忍耐力が試されるもの。かなり辛い。

 そんな中で、まだ塩路先輩は緊張しているのか、松井先輩と喋っている様子は見受けられない。


「会話がありませんね……」


 雫が心配そうな声を出した。


「化粧か?」

「そうですね……。女性にとって化粧とは見た目だけではなく心も変えてくれるものですから。その化粧をしていないという事は先輩にとって裸を見られているのも当然なのかも知れませんね」

「あー……。彼氏に絶対スッピンは見せない人とかいるらしいもんな。いや――でも……先輩のは……」


 そう言うと雫もフォロー出来ずに苦笑いだけして話を続ける。


「好きな人には綺麗な自分を見てもらいたいものです。男性もそうでしょ? 彼女の前でワックス付けたりしてカッコつけるじゃないですか」

「そうだな。好きな女の子にはカッコいい自分を見てほしいもんな。――いやー、そう考えると松井先輩今日ガッチガッチに付けてるな……」


 よくよく見てみると短髪にたっぷりのワックスを付けたのだろう、初心者が良くやる付けすぎてフケみたいな物が付いている。

 野球部一筋で今までヘアスタイルとか気にしてなかったのを引退して気にし出した男子みたいだ。


「ふふ。もう答えは出ているのに、どうして踏み出せないのですかね」

「恋って言うのは厄介だな。解答用紙もらって、答え合わせして、正解と分かっていても1歩踏み出せないもんな」

「――そうなのですか?」

「え……? ええっと……」


 急に自分の言った事が恥ずかしくなり無理矢理に話題を逸らす。


「あ! ほら! もう少しだな! いやー90分待ちって書いていたけど、意外と早く回ってきたな! 楽しもうぜ! ほらほら! 帽子と眼鏡は外さないとな! あっはっは!」

「何か棒読み感が否めませんが……」

「あ! 曲どうする!? とりまノリノリのヤツでキャッフーかました後にタピルの定期っしょ!」

「色々意味不明です」

「ほらほらほら! 回ってきたぞ! テンション上がってきたなー!」




 何とか? その場のテンションで乗り越えて、俺達の番が回ってくる。

 装飾品は全て外してジェットコースターに乗る。

 運悪く先輩達と違うマシンに乗るとかは無く、彼等は最前列、俺達はその2つ後ろに乗り込んだ。


 安全バーが降りてきて俺の身体を守ってくれる――はずなんだけど――。


 ジェットコースターが――ガコン――動き出した。


 ゆっくりゆっくりと上昇していく。先程のテンションが嘘のように引いていくのが分かり、段々と恐怖心が強くなっていく。

 耳元には適当に選択した陽気な音楽が流れている。


 ――だが……。


「あー無理無理無理無理!」


 いざ上昇していくと強がっていた自分に右ストレートをぶっ放したくなる程に後悔する。

 怖い。怖すぎる。これ、落ちたら確実に死ぬ。


「ふふ。あれあれあれ? 先程までのご様子とは違いますね? もしかして怖いんですかー?」


 雫がいつも通りの様子でおちょくってくる。


「お前は何で余裕なんだよ!?」

「何でこの程度が怖いのか理解に苦しみます」

「う、うるへー!!」

「あ! 来ますよ! もう!」

「ぐおっあ!!」


 俺は心の底から変な声が出た。その後、雫の可愛らしい笑い声がこだまする。


「あはははははは! よく見て下さい! まだですよ! あはははははは!」

「――のやろー……」

「これは罰ゲーム確定ですね……。何してもらおうかなー」


 雫は楽しそうに言っていた。

 俺はそんな雫の手を握る。


「――え?」

「やっぱり終わるまで手繋いで……」

「――うん……」


 この会話を最後に、ジェットコースターは加速して急降下して行った。

 乗っていた記憶はあまりないが、俺の手は温かく優しく握られていたのだけは分かった。

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