ダブルデート?①
『ウェルカムトゥ――』
テーマパークの最寄駅を降りると、駅のホームまでテンションの高い英語が聞こえてくる。
電車を降りる家族やカップルは皆楽しそうな表情をしており、こちらも何だかテンションが上がってくる。
流石は日本屈指のテーマパーク。まだ中に入っていないのにワクワクが止まらない。
そんな気持ちでホームから改札へ向かう。
改札を出ると、遠方から来た人達は今のうちに帰りの切符を買おうとしているのだろう、改札に行列が出来ていた。
こういうのを見ると地元民、近場の人間は楽で良いと感じるな。
「堂路ー!」
改札を出て、テーマパークまでのメインストリート入り口で待ち合わせなので向かおうとしたところ、こちらに手をブンブンと振って来ている美少女を発見した。
一瞬誰だか本当に分からなかったが、ギャル先輩――塩路先輩だ。
「よしよし。手筈通りメイクしてませんね」
彼女の前に立ち言ってやる。
「あ、ああ……」
「なーに緊張してんすか」
「だ、だってさ……」
緊張して弱々しい声を出す塩路先輩はめちゃくちゃ可愛かった。
「大丈夫ですって。必ず成功しますよ」
可愛い先輩に対していつもの煽り文句は出ず、優しい紳士な言葉遣いになってしまう。
「あ、ありがと……」
不覚にもドキッとしてしまった。やっぱり先輩可愛いな。これが、あの筋肉ダルマの彼女になるかと思うと何だか尺に触る。
「あれ? そういえば星野は?」
「先に行きましたよ。やる事があるとか何とか言って」
「ふぅん。――で? 実際どうなん?」
先程まで強張っていた顔がニヤケ顔に変わる先輩。ニヤケ顔も可憐である。
「何がですか?」
「一緒に住んでるんだろ? 星野と」
「ま、まぁ……。ウチのメイドですからね」
2人暮らしという事は流石に伏せている。あらぬ誤解を招く事になりかえないから。
「あれだけの美人だ。襲ったりとかめちゃくちゃにしたいとか欲望が湧き出るだろ?」
そう言われて彼女から視線を外してしまう。
「――ない……ですね……」
歯切り悪く答えてしまい沈黙が流れてしまう。
少し空気が悪くなった感じがしたので、急いで作り笑いをしてから無理に明るく言ってのける。
「だって雫の奴おっぱい小さいですもん」
「あ、あー……」
塩路先輩は自分の胸を確認して頷いた。
「どうしてああも成長しなかったのか……」
「と、堂路?」
「ありゃ小学生の方がまだありますよ」
「堂路、ストップ。止まれ」
「いつも思うんです。雫にブラジャーなんていら――ああづああ!!」
突如口の中に何か強烈に熱いものが乱入してきて俺の口内はとてつもない熱に襲われる。
「あづぁもぐぁ! ぐおお!」
悶え苦しむ俺の目の前にショートカットの美少女が現れて言い放った。
「天誅」
「――じ、じぬ! み、みじゅ!」
「己が罪を重く受け止めて醜く散れ」
「ごべんなばい! しずゅくのほぱいはせぎゃいいち! ほでひんにゅー派!」
「星野 雫は連続してたこ焼きをご主人様の口の中に入れる事が出来る!」
「ぎゃー!!」
悶え苦しむ姿を見て「なんだ? このイチャプルわ……」と先輩が呆れた声を出していた。
「――死ねるわ! いきなり何だよ!?」
何とか口の中にあるものを処理して雫に言ってやると涼しい顔して俺に持っていたたこ焼きを見せてくる。
「出来たては美味しかったでしょ?」
「めちゃくちゃ美味かったわ! 外カリ中フワでな! 流石はたこ焼きの本場だわ! おかげで口の中は大惨事だけどな!」
「ふふ。美味しいですよね」
そう言いながら雫は幸せそうにたこ焼きを頬張る。
「星野のやる事ってそれか?」
塩路先輩が聞くと雫は口の中を空にしてから答えた。
「はい。ここのたこ焼き屋さんは有名ですので。近場の有名店というのはいつでも行けるという理由で中々手が出ない為、折角と思いまして。食べますか?」
雫はたこ焼きの容器を先輩に向けると「じゃあ1個貰うよ」と言って先輩もたこ焼きを頬張る。
「あ、あちゅ……!」
この先輩やっぱり可愛いな。筋肉ダルマには惜しい人材だよ。
「――ん。美味しいな」
「でしょ。ふふ」
自分が作った訳じゃないのに雫は嬉しそうに微笑んだ。
自分の買ったものを褒められるのって嬉しいよな。
「はい。時人様。さっきはちゃんと味わってないでしょ?」
そう言って俺にたこ焼きをくれようとするので俺は手を振る。
「いや、俺は――」
「しょうがないですね」
そう言って雫はたこ焼きを口元に持っていき「ふーふー」と息で冷ましてくれる。
「はい。これで熱くないですよ?」
そんな可愛い微笑みで見られたら断れない。新手のパワハラかよ。
「あーん」
「あ、あーん……」
雫に言われるままに口まで運んでもらう。
「美味しい?」
「うん。やっぱり美味しい」
「ふふ。帰りも買って帰りますか?」
「そうだな……。でも、家までには冷めちまうからな。それなら雫の手作り食いたい」
「かしこまりました。腕によりをかけます」
そんな俺達を見て先輩が「カップル超えて夫婦じゃねーかよ」と言ったのが小さく聞こえた。
「――松井さんには名目として青団の集まりとしてます」
たこ焼きを食べ終えて松井さんが来るまでの間に作戦会議を始める。
予め松井さんには集合時間を1時間遅らせて伝えてある。
「しかし、俺と雫、朝倉くんと五十嵐さんは急用が出来た事にしています。勿論、後輩達に口裏は合わすように言ってますので安心して下さい」
「4人ドタキャンって怪しくないか?」
「怪しんでくれた方が逆に良いと思いますけどね。そっちの方が塩路先輩を意識してくれると思います」
「そ、そうか……?」
「はい。――雫? 作戦の確認お願い出来るか?」
雫にバトンタッチすると「はい」と返事して塩路先輩に何かを手渡した。
「イヤホン?」
先輩が首を傾げると雫が説明する。
「超高性能ワイヤレスイヤホン型インカム『ツタエルくん』です」
「超高性能ワイヤレスイヤホン型インカム『ツタエルくん』だって?」
先輩は超高性能ワイヤレスイヤホン型インカム『ツタエルくん』をまじまじと見る。
「普通のワイヤレスイヤホンに見えるけど?」
「こちらの商品は堂路家の財力を駆使して取り寄せた最高級のインカムとなっております。お値段30万円です」
「さっ――!? たっか! ネーミングセンスバカほどにダサいのにたっか!」
俺と全く同じ反応を示す。
「ネーミングセンスは悪くても、その中身は超高性能。音漏れ、ノイズなしは勿論、何処にいてもクリアに聞こえるはずです。こちらを装着して下さい。困った事、助けて欲しい事があれば言って下さい。蚊が鳴くよりも小さな声で私達とやり取り出来ますので。あ、勿論アトラクションに乗る時は外して下さいね。マナーは守りましょう」
「あ、ああ」
「私達は出来る限り離れた位置にいますのでお好きなアトラクションに行っていただいて大丈夫です」
「分かった」
簡単に説明を終えると雫がこちらを見て俺に帽子と眼鏡を渡してくる。
「時人様はこちらを」
「なるほど。変装だな」
言いながら俺はそれらを装着する。
「はい――ぷっ」
雫は俺の帽子と眼鏡姿を見て笑った。
「なに笑とんねん」
「いや……こんなに似合わない人も珍しいですね」
「やかましっ! お前も変装しろ!」
「勿論です」
そう言って雫も帽子と眼鏡を装着する。
「――チッ」
「何の舌打ちですか?」
俺が黙っていると先輩が口を開く。
「堂路と違って星野は似合うな。文学女子の最高峰みたいだ」
「うふふ。ありがとうございます」
そう言ってドヤ顔で眼鏡をクイクイしてくる。くっそウザい。
「私達はこの格好でお2人を見守ります故、ご安心してデートをお楽しみください」
「デート……」
先輩は両手を頬に持っていきニヤケた顔をして言ってきた。
「ど、どうしよう! 緊張してきた!」
「大丈夫ですって」
「う、うう……」
この嘆きの声は可愛く見えてしまう。
「け、化粧してくる!」
そう言って化粧室に向かおうとするのでガシッと彼女の肩を掴む。
「何をしようとしてんだよ!」
「止めるな堂路! このままじゃ心臓爆発する!」
「何で告白の成功率を下げようとするんだよ!」
「化粧したら自信が付くんだよ!」
「そんな仮面被らなくてもそのままの先輩が素敵なんですから! そのままでいて下さい!」
「――だって……だってー!!」
暴れる先輩を雫と共に説得するのに1時間かかった。




